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#16 降れる凶刃

僕は職員室の隅で、零、晴香、寧々、愛花梨、楓夏、聖羅という、わずか6人の名が並んだメモ用紙を握りしめていた。


盗聴器が暴いた実行犯の候補者たちだ。


この中の誰かが、剛を冷酷に誘い出し、トランクを丁寧に拭き、二重の偽装工作を施した。


剛の死は、僕の心を激しく揺さぶっていたが、その分、僕の論理は研ぎ澄まされていた。

このリストにいる誰かが、僕の全ての動き、全ての言葉を監視しようとしていた。


その事実は、僕の背筋に常に冷たい刃を突きつけているようだった。


僕は、思考を整理するため、昨日まで剛が寝ていた場所、そして僕自身の寝床であった毛布に手を伸ばした。


その時、異臭が、再び僕の鼻腔を襲った。

カビ臭の中に、何か薬品のような、鼻を刺す人工的な匂いが混ざっていた。


僕は毛布を広げ、その匂いの元を特定しようと必死になった。


これは、殺害計画の残滓だ。


犯人は剛を殺害した後、次に僕を襲うために、この毛布にカビ胞子と、強い麻酔薬を仕込んでいたに違いない。


犯人は、剛の死の証拠隠滅を完璧に行った後、僕を確実に、無力化しようとしていた。


遺書とトランクの真実を知る僕の口を封じようとしたのだ。


麻酔薬入りの毛布を握りしめ、僕が犯人の冷酷な殺意を実感したその瞬間、職員室の重厚なドアが、外側から激しく叩かれた。


「逃げろ!」と本能が叫んだが、足は動かない。

心臓は喉元に飛び出そうなほど脈打ち、呼吸は完全に止まった。


ドア越しに、低く、変声された声が響いた。それは、機械的に加工されたような、感情のない声だった。


「これ以上、詮索すれば、お前の証明は永遠に終わる」


この同窓会の発端、「終わらない」という言葉。芝崎先生がどこまで、事件に関与しているかを示す、最大の手がかりでもあり、謎でもある。


「証明」。この言葉の意味はとてつもなく、重い。真実の「証明」ほど、あまりに苦しく、魅かれるものはないからだ。


僕の心は、「証明」に囚われていた。自分に何ができて、何がしたくて、何をすべきなのか、という「自分自身」の、そして晴紀や剛の裏に隠されているであろう「真実」の、すべての鍵の芝崎先生とのかすかに残る、高校時代の記憶を手繰り寄せる、「記憶」の、そのすべての「証明」。

これがいまの僕の存在意義だと思うしかなかった。警告をくれた友も、守ると決めた友も、謎を残した先生も、そして、自分自身を信じた自分も、そのすべてを果たすために、僕は今、存在している。

そう思っていた。


しかし、盗聴器を通して、僕の全ての思考、僕の信念までもが、この冷徹な犯人に筒抜けだったのだ。

いま、その僕の知性と論理が、そのまま僕自身の命取りになっている。


僕はロッカーの陰に隠れ、身体を縮こまらせ、声の主が立ち去るのを、ただ息を殺して待つことしかできなかった。


犯人は、僕がトランクの真実を知り、剛を陥れたのが自分だと突き止めようとしていることを確信し、口頭での最終警告に切り替えたのだ。


ドアの向こうの足音がなぜか、完全に遠ざかる。

僕はロッカーからゆっくりと這い出した。身体は震えていたが、心は定まっていた。


「ケホッ、ケホッ」 楓夏だった。


「朝から、何も食べてなさそうだったから....」

そういって楓夏は、オムライスを差し出した。


「ちゃんと、食べるんだぞっ」

それだけ言うと、楓夏は、静かに去っていった。


楓夏のオムライスを食べていたら、なんだか、涙が流れてきた。

止めようとしても、あふれ出てくる。


「終わらせるわけにはいかない」

僕は静かに決意する。


犯人の警告は、逆に僕の推理が正しいことの証明となった。

僕が恐れるのは、僕自身の命よりも、剛と晴紀の死が、この冷たい論理の中で無意味に終わってしまうことだ。


僕は、麻酔薬の匂いが残る毛布をきつく握りしめた。


犯人が去った方角と反対の方から来た楓夏。つまり、楓夏は犯人じゃない。


僕は、先生の事件の証拠を探し、実行犯の動機と証拠をそろえる必要があると判断した。


僕自身の「証明」を達成するため、僕は再び、次の調査へと向かうことを決意した。

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