#15 友の遺したもの
剛の死から数時間後、僕は動揺する心を理性で縛り付けて、
再び体育館倉庫前の、無慈悲な静寂の中に立った。
冷たい土の上に放置された剛の本物のトランクは、僕たち二人が、夜中に見つけた時のまま、倉庫の扉から半分だけ引き出されていた。
僕はトランクの状態に決定的な違和感を覚えた。
倉庫の奥深くで埃を被っていたはずのトランクは、まるで誰かに丁寧に拭き取られたかのようにきれいだった。
剛の体には、埃が付着していなかった。
剛のトランクへの強い執着を知った犯人は、あえて鍵を開けて、剛を誘い出し、殺害後、トランクをきれいに拭き、剛が自分で引き出して、その後、自殺したかのように、半分だけ扉の外に出した。
この異常なほど周到で、きれい好きな偽装工作は、犯人の冷酷で慎重な性格を雄弁に物語っている。
僕は、そんな気がした。
僕は剛の遺書を何度も読み返した。そこには、芝崎先生と晴紀の殺害については剛が犯人であると記されていたものの、雄吾と迅、そして光平の殺害については一切触れられていなかった。
「なぜだ…?」
もし剛が全ての罪を被るつもりで書かされたのなら、なぜ過去の全ての事件に言及しないのか?
剛の殺害を計画し、遺書を偽造した犯人は、芝崎先生と晴紀の事件に関与しているが、雄吾・迅・光平の事件については関与していない、あるいは、関与を隠したいのではないか?
僕はそう思った。
この「言及の欠如」は、僕の中に小さな疑念を生じさせた。
剛を陥れた、今ここにいる実行犯とは別に、事件にかかわるもう一人の人物が存在するのではないかという、恐ろしい疑念だ。
犯人像は、僕が考えているよりも、さらに複雑な様相を呈しているのかもしれない.....
しかし、剛の死という完璧な結果を導き出した犯人は、どうやって剛がトランクに執着していると知ったのか?
そこまで考えると、僕は「犯人が、剛がトランクへの思いを語るのを聞いたのではないか」と、ふと思った。
剛がトランクへの思いを、僕に伝えたのは、6日目の正午くらいだ。
だが、気配一つなかったように思う。それに剛が夜中に抜け出したことを、犯人は知らなければ、剛を殺害できない。
6日目の正午と夜中の2回も僕らがいる、4階に、クラスの監視を欺いて、来る....あまりに危険すぎる。
なにより、犯人は用意周到な人物であろう。あらかじめ、同窓会の前から、剛のトランクを把握し、同じものを用意しておく、くらいなのだから。
「盗聴....」
ふと僕は、そんなことを思った。
僕は職員室のあらゆる死角、椅子の裏や棚の隙間を狂ったように調べ始めた。
そして、ついに入り口の椅子の裏に、手のひらに収まるほどの小さな盗聴器を発見した。
この小さな異物は、僕たちの会話を全て監視していたという恐ろしい現実を証明していた。
この盗聴器を仕掛けた人物こそ、剛を陥れた実行犯であり、きれい好きで用意周到な性格の持ち主だ。
僕はすぐに聖羅に、僕と剛が職員室に隔離された後に教室を出た人物を聞き出した。
僕と剛が職員室を二人で離れたのは6日目の朝、朝食を、第二家庭科室で作って食べた、20分ほど。
その時間に、教室を出たのは、聖羅によると、
食糧配給:聖羅自身、零
荷物整理:晴香、寧々(ねね)、愛花梨
お湯沸かし:楓夏
さらに、僕たちが職員室を空けていた時間帯に教室を出た、篤彦、咲哉、由実、広人のトイレ組は、トイレが3階にあることを考えて、除外すると、容疑者は.....
零、晴香、寧々、愛花梨、楓夏、聖羅 この5人。
この中に、剛を殺害し、トランクをきれいに拭き、遺書を偽造した冷酷で周到な実行犯がいる。
僕は、そう考えて、少し身震いした。




