#0 プロローグ
少し蒸し暑い日だった。
僕は机に突っ伏した顔を右にして外を見た。
窓からは都内の中高一貫校 桜瞭中学高等学校のシンボル、枝垂桜が見える。
花はとっくに散っていたが、それでもまるでここが自分の場所だと示すように、凛と立っている。
「これわかる人いますか?」
芝崎先生が額の汗をハンカチでぬぐいながら言った。
「つまんねぇ」スマホをいじりながら雄吾がそうぼやいた。
「彰君、答えてくれますか?」
芝崎先生が突然自分の名前を呼んだ。
「わかりません」僕はそう答えた。
「終わりの証明なんてする意味ねぇよ」隣の席の剛がそう言った。
「だいたいどうやるんですか、芝崎先生」学級委員長の聖羅が丸眼鏡をくいっと持ち上げながら少し挑発するように尋ねた。
「無というのは『ない』という意味。ですから無意味は意味がないという意味になります。また無限という言葉は限界がない、すなわち終わりがないという意味になります。当然終わりがあれば有限になります。では終わることの証明を終えることはできますか?先生はできます。」先生は意味ありげに笑っていた。
「だからどうやるの?」金髪をかきあげながら愛花梨がぶっきらぼうに言った。
「簡単です。 Start From Scratchです。」
先生はふっと笑った。
僕にはなにがなんだかわからなかった。
でも、今、思えばこれがすべての始まりだった。
そう、短い終わりの長い始まり。




