表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/35

エンドNO.8 よくある訓練

「ていっ!」

「ふんっ!」


いつものように僕とアエリュちゃんで剣を振る。最近は枝の選び方もうまくなったし、振り方もうまかうなったからかお互いかなりいい音を出せるようになってきている。ひゅんひゅんという心地いい音が、あたりに響いていた。

ただ、今日はいつもと違う点がある。

それが、


「全然当たんな~い」


「そうだね。当たる前に逃げちゃうよね。というか、枝で葉っぱって本当に切れるものなのかな?」


目の前をひらひらと舞う、赤や黄色、茶色に染まった葉っぱ。

現在は秋、と言っていいのかは分からないけど落葉の時期で、それに気づいた先生が突然これを切るっていう訓練を思いついたんだよね。漫画とかでも有りがちなタイプの訓練ではあるから僕も拒否はしなかったけど、何時間もやって成果がいまだに出ていないから少し不安になってくる。


そもそも厳選したものとはいえどうしても枝は太いものになるから剣で斬るよりも風が起こりやすいのではないか?とか。枝なんだから葉っぱが切れるわけなくない?とか。

色々と疑問も浮かんでくる。

ただ、結局そんなのは長期間やってみないと本当に意味がないかどうかなんて分かんないからやり続けるんだけどね。

もちろんただ棒を振り続けるだけではなく試行錯誤して、


「風を起こさないようにって考えると、枝も今回は細い方が良かったりする?」


先生に教わった枝の選び方とかは、あくまでも戦闘になった時に使う想定のもの。ならば、落ち葉を切るという想定の場合別の枝を拾ってもいいはず。

ということで、耐久性を捨てて風を発生させにくい細い枝を取ってみた。

それだけでもかなり変わって、


ペシッ

「あっ、当たった」


「おぉ!パパすご~い!」


切ることはできないけど、当てることはできるようになってきた。後はここから、切るために必要なことを考えていけばいい。

なんて考えていたわけだけど、数十分後。


ピシッ

「おっ当たった~!!」

パシッ!

「また当たった!」


「よ、良かったねアエリュ」


僕は才能という物見せつけられることになった。

枝を変えるという方法をとった僕だったけど、それがまるで必要のない事だったとでもいうようにアエリュちゃんは元の太さの枝で命中させるようになっていた。

枝を変えることが正解だと思って心の中で度やってた僕がバカみたいじゃん。やっぱり才能って怖いよ。


ただ怖いからと言ってそれは悪い事ではない。

何せ、良い見本が隣に現れてくれたわけだからね。やってるアエリュちゃんから論理的な解説を受けることはできないけど、それを見て分析することはできる。


腕を振り出すタイミング。葉っぱの落ちる方向と枝が当たりに行く角度と軌道。剣の持ち方から、自分と落ち葉との距離まで。

いろんな要素を見て1つ1つ試していくことで、僕もさらに技術を向上できるというわけ。

そうしてまだまだ斬るには程遠いけどお互い確実に当てられるくらいには腕を上げてくると、


「ふむ。当てることに注力しすぎていて体勢が崩れてしまってぢるな」


「あっ、先生!」

「どうすればいいの~?」


先生が姿を現した。

今までは僕たちにこの練習をしているように言ってどこかに行っていたんだけど、ここからはしばらく見てくれるのかな?


とりあえずそうして先生が来てくれたことで新しい問題は分かった。

当てようと葉っぱを追いかけるせいで前のめりになったりして、姿勢が崩れてしまっているらしいね。その結果として剣に力が乗りきらないないといった感じなのかな?


「見本を見せるとするならば、こんな感じだ」


僕が姿勢を正そうと意識していると、横から先生が割り込んできた。

そして次の瞬間、風を切る音と共に、


「わぁ~!全部切れてる!」

「うっそ~」


かなりの量の葉っぱが真っ二つになっていたり粉々になっていたりしながら落ちていく。それはその一瞬のうちに斬られていたと考えられ、次元の違いという物をありありと見せつけられたわけだ。

しかも驚いたことによく見てみると、


「先生、剣を持ってない状態でやりました?」


「む?そうだな。素手、というか手刀であればこれくらいは可能だぞ。もう少し近い距離であれば、肘でも似たようなことはできるな」


「…………なぜ肘で?」


「さぁ?なぜだろうな?できるからとしか言えないのだが」


先生の手には、剣も枝も握られていない。素手で全て行なったということだと考えれば、余計に差を感じられる。

先生、剣術やるよりも武術かやった方が良いんじゃないかな?

いや、もしかするとこの世界の武術家はこれくらい余裕でできてしまうから先生は剣術を極めたのかもしれないけど。


「えいっ!…………う~ん。切れない!」


「そうだろうね。切れたらびっくりだよ」


そんな先生の真似をして、アエリュちゃんも葉っぱに手を振ってみる。

なかなか良い空気を切る音は聞こえたけど、さすがにそう簡単にはできないみたいだね。僕としてはそれをされると完全に置いて行かれることになるからほっとしてる部分もあるよ。


なんて思いながらちらりと見ると、そのアエリュちゃんの切りかかった葉っぱは確かに斬れてはいなかったものの、少しだけ表面に線のようなものが入っていることを発見する。

つまりそれは、


「もうちょっと頑張れば切れてしまうのでは?」


僕は戦慄する。

ちょっと本格的に焦らないと、追い抜かれる可能性が見えてきてしまったよ。恐ろしい話だね。


そんなこともありつつ、それでも結局僕たち2人は落ち葉を切れないままその日を終えて、


「なんてことがあったんですよ」


「へ~。あの人のする訓練ってそんな感じなのか」

「その年から苦労してるね~。私が訓練で苦戦したのって、それこそ弟子入りしてから半年くらいたってからだったよ?師匠も苦労のせいで投げ出さないように難易度の調整を結構頑張ってくれてたみたいなんだよね。あの時の鉄骨渡り、なかなか怖かったな~」

「面白い訓練をしてんなぁ。俺がやったのなんて、剣を岩に振り下ろし続けるだけだったぞ」


数日後、冒険者ギルドでそのことを冒険者の人達に語る。

すると僕の話から思い出したのか、みんなそれぞれ苦労した訓練なんかの話をし始めた。

もちろんこれは計画通り。こうしてちょっと自分の苦労を自慢させるような話の流れにすることで、僕も他の人達の訓練方法なんて言うものを学べるわけさ。それこそ、見ただけでは覚えられないような技術も盗めるかもしれない。


「へぇ。どうやってそれは突破したんですか?」


「俺がやったのは、こうやって剣をコンパクトに握ってだな…………」

「我がやったことは、少し痛いのだが足の下に手を入れて…………」


自然な流れで詳しいことが聞けるし、苦労自慢がしたい人たいちは実際に突破方法を語ってくれたり実践してくれたり。非常に参考になる話が聞けたね。

あんまり深堀し過ぎても怪しまれるかと思う部分もあるけど、


「へぇ!そうしたら解決できたんですか!?すご~い!」


「だろ~」

「そうだろうそうだろう!もっと褒めたたえるのだ!!」


適当に褒めてたら調子に乗ってくれて、疑いの心なんかも薄れていく。というか、この調子の乗り具合から考えると元々疑いの心を持っていたのかすらわからないね。

こうして僕はいろんな訓練方法とかを知ることができたわけで、さらなる自分の強化につなげることができる。


「ふむふむ。今まで以上に動きが洗練されてきたな。ただ技をまねたというだけではなくなり始めたか。良いぞ。その調子で学んでいけ」


「は、はい」


もちろん、そうやって強くなっても先生には届かないけどね。

この差を埋めるのには何が必要なんだろうな~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ