エンドNO.7 近くの才能
先生から言われてギルドに通うようになり、それなりに冒険者の知り合いも増えてきた。ついでに、こっちが本命ではあるんだけど使える技も増えてきた。
お陰で毎日自主練が大変だよ。細かい技も多いから1個1個試してるとすぐに時間が過ぎていっちゃうんだよね。技の練習と習得に時間がかかってギルドに行く日の間隔もかなり開いちゃうし。できることが増えるのもいい事ばかりじゃないね。とはいえ、今できるようにしておかないと後が大変になることは予想がつくんだから手は抜けないけど。
そんな風に苦労しているわけだけど、その苦労している分の成果は出始めた。
最近は先生が模擬戦(笑)で回避するだけでなく防御も使うようになってきて、好戦的な表情をすることも増えてきたんだよね。何となく獲物として見られている気がして背筋が凍りそうになるけど、そんな顔をさせられるくらいには成長したんだなと思って満足するようにしてる。
そして変化はそれだけにとどまらず、
「さて、今日も始めようか」
「はい!お願いします!」
「おねがいします!!」
「ああ。それではまず、アエリュに基本を教えていくこととしよう。エサカは基本のおさらいだ」
先生に教わる人間が増えた。
それが僕の幼馴染であるアエリュちゃん。さすがに僕が毎日のように棒切れをふるっていると気になるようで、参加してきたというわけ。
ここでアエリュちゃんが来たお陰でもう1回僕も基本をおさらいすることもできたし、新しい発見も色々とあった。全く悪い事ではないね。
先生がアエリュちゃんに基礎をみっちりと教えていく中、僕はそれを聞きつつ僕は基本練習をしていくというのが最近の練習の際の流れになってる。
僕は兎も角としてアエリュちゃんは精神も含めて5歳児だから、動きは剣術でもかなり可愛らしいものになっている。
なんだけど、1つ問題があって、
「それじゃあ模擬戦をするぞ。ルールはいつも通りだ」
「「はい!」
剣を持って向かい合う僕たち。
先生の合図の元、
「構えて…………はじめ!」
「やぁ!」
「わっ!?危なっ!?」
開始の言葉がかかった直後、アエリュちゃんが踏み込んで切りかかってくる。その速度は同じ5歳異だとは思えないもので、かなり早く鋭い。
鋭いというのは無駄がないっていう表現が近いかな?ただ無駄がないだけではなくて、少し恐怖も感じるようなものなんだよね。だからこその、鋭いという表現。
要するに、これからわかるようにアエリュちゃんは強い。それはそれはめちゃんこ強い。
こういうのを、才能があるっていうんだろうね。
大人としての精神と今まで積み上げてきた基礎と技術の差でどうにか今のところなっているけど、結構ひやりとする場面も少なくない。
それこそ今だって、開始の合図への反応が僕より圧倒的に早くてそれへの対処に遅れちゃったからね。もうちょっと距離が近い状態で始まってたら負けてたかもしれない。
「えい!えい!」
「ちょっと攻撃が単調すぎるかな~」
それでも、今はどうにかできる。
出遅れたのを取り戻せたらこっちが圧倒的に有利で、
「はい、隙あり」
「うわぁ!?」
「勝負あり、エサカの勝ちだな」
勝てる。正直勝つ必要はあんまりないんだけど、勝てる。
僕もそうじゃないとは言わないけど、まだ習い始めたばかりの初心者に勝ってもあんまり意味ないんだよね。どちらかというと、苦戦することがかなり問題なわけなんだけど。
ただ、幸いそうして勝ったとしてもアエリュちゃんの方は、
「うへへ~。負けた~」
「うむ。しかし、また一段とアエリュも腕を上げたな。エサカもヒヤッとしたんじゃないか?」
「そうですね。特に最初は焦りました」
落ち込んだ様子もなく笑っている。
勝ち負けがどうこうというより、動くことと僕と遊ぶことが楽しいっていう風にも見えるね。でも、勝ち負けにこだわらないのに勝ちに近づいてこられるところが胃の痛いポイントだよ。
ギルドで盗んでくる技も先生対策だから基本的に攻撃系の技が多いんだけど、そろそろ防御とか回避のための技もしっかり学んでいかないといけないかもね。
…………先生に攻撃を当てられるのはいつになることやら。
そんな感じの模擬戦をアエリュちゃんと何度か繰り返し、そして最終的には、
「よし。2人ともかかってこい」
「は~い!」
「今日こそは当ててみせます」
先生との模擬戦が始まる。しかも、1人ずつやった後には2人がかりで。
まだ2人での模擬戦なんて始めたばかりで、正直1人でやる時よりも苦戦することも多いわけだかけど、
「右から行くよ!」
「うん!私はこっち!」
やっと連携の「れ」の字くらいは掴めてきた気がする。
ただ、その生半可な物でどうにかなるほど先生も甘くはない。時に回避して時に防御して、特に受け流して僕たち同士でぶつけて。全く届く感覚がつかめない壁となっていた。
「う~ん。当たんない!」
「そうだねぇ」
「パパ~!どうしよ~」
「さぁ?どうすればいいかな?」
僕たちはしばらく攻撃を仕掛け続けても一向に先生のガードを崩せず、頭を悩ませることになる。とはいっても、ほとんど考えてるのは僕だけでアエリュちゃんは「どうしよ~どうしよ~」とか歌いながら踊ってるだけなんだけどね。楽しそうで何より。
ちなみに、最初にアエリュちゃんが僕の事をパパ呼びしているところを聞いた先生はとんでもない顔をしていたね。いろんな可能性が頭をよぎった結果、一瞬そういう趣味の人間だと勘違いされかけて焦った。
…………自分でそう呼ばれるように仕向けた関係上すべて否定しきれないところがツラかったよ。
そしてそれに加えてよくよく考えてみると、僕が主人公である場合アエリュちゃんって主人公の幼馴染枠とかいうとても貴重な重要枠なんだよね。
そんなキャラにパパ呼びさせるのってどうなんだろう?将来のいろんなイベントをぶっ壊す羽目になりかねないと思ってとっても心配なんだけど、大丈夫だよね?
でも、そうして心配にはなっても後悔はしない!なぜならば、やっぱりアエリュちゃんの母親であるタスミさんに引かれるから!先生という新しい綺麗な人が増えたわけだけど、やっぱり今までの接してきた時間が長くていろんな側面が見れてるからかタスミさんに惹かれるんだよね~。
「お疲れ様。アエリュ。エサカ君。水を持ってきたよ」
「あっ!ママ~!!」
「ありがとう、もらうね」
「フェスキさんもどうぞ」
「む?かたじけない」
そんなことを思っていたら、ご本人登場!
僕たちが疲れていると思って、水を持ってきてくれたらしい。その優しさが心にしみるね~。
ただこうなるとしばらくアエリュちゃんがタスミさんとお話とか初めて、練習が中断される。ということで僕も話に混ざるか練習するかと悩んだ結果、
「アエリュ、結構強く成りましたね。追い越されないか不安です」
「ふむ。まだしばらくは大丈夫だろうが、数年たてばどうなるか分からんぞ?さすがにこの程度の始めた時期の差では、数年後の結果にまで優位性を保たせてはくれないからな」
「うへ~。頑張らなきゃですね」
「ああ。それに、間違いなく私の剣術という点においてはアエリュの方が才能がある。私に習ったことだけを練習していくのであれば圧倒的にアエリュの方が強くなるだろう。エサカは他の技術を多く取り入れていかないといけないな」
「やっぱりそうですよね~」
先生とお話しすることにした。
やはり先生も、アエリュちゃんには才能があると感じているみたい。先生の見立てによると同じ練習だけしてた場合には僕が負けることになるらしいから、色々と頑張って行かないといけないね。
先生に勝つ前にアエリュちゃんに負けるなんていうことにならないようにしないと!