エンドNO.5 観察しよう
「おや。小さなお客さんですね。いらっしゃいませ」
「あっ。こんにちは」
さすがにテールを占領すると迷惑になっちゃうかもしれないから、カウンターに移動してみたところ酒場のマスターさん(?)に話しかけられちゃった。
さすがに店員さんに目を付けられると場所を占領しているだけなのもよくないから、
「ミルク下さい」
「かしこまりました」
注文はしておく。多分ミルクならそんなに高くないはずだしお小遣いだけで足りると思うんだけど…………大丈夫だよね?実は冒険者は稼げるからギルドに併設されてる酒場だとすごく割高とかないよね?
あと、サービス料とか言ってぼったくられたりかもしないよね?
ちょっと怖くなってきたけど、考えないようにしよう。
とりあえずここに来た意味を果たすためにも観察しないと。幸いなことにカウンターからでもギルドの様子はよく見えるから、目的は果たせそうだよ。
まず僕が最初に目をつけるのは、これから依頼をこなしに行くっぽい剣士の人。
「これを…………こぅ」
何を言っているのかはちゃんと聞き取れないけど、動きを見ていると何がしたいのかは少しだけわかる。多分、必要な動きを思い出して練習しているんだと思う。
反省して試行錯誤している動きというよりも同じ動作を繰り返し精度を高めるようにしながらやってるから、そういう認識で良いはず。
僕はその動きをじっと観察する。
足の位置。腰のひねり。視線の動き。全身の力の流れ。そして、最終的な手の動きまで。
何度も練習してくれてるから観察対象としては非常に優秀で、僕もそれがどういう動きなのか分かってくる。先生に対して使って通用するかは分からないけど、僕が自分でやる剣の振りよりも圧倒的に効率的だから参考にさせてもらおう。
「あぁ~…………」
「疲れた」
剣士の人が外に出ていくと、次に僕が目をつけるのは受付を終わらせて疲れた様子でこっちの酒場に来るパーティーっぽい人達。
こっちの人達は駆け出しというわけではなさそうで、この建物の中にいる冒険者の人達の中でも特に装備は豪華な方。当然こういう人達ってレベルが高いあだろうから参考になんてあんまりできない気がするんだけど、それでも僕はその中の1人に目を付けた。
1番その中では目立っていないんだけど、口や鼻をマスクみたいなもので隠して黒いローブを纏った人がいじけた感じで足を動かしているんだよね。それはなんだか、技が通用しなかったからもっと改良できるところがないかと探しているところのようにも見える。
こういう時は観察しやすいと思うんだよね。
…………あと今更だけど、なんでマスクをつけてローブでを纏ってる人が目立ってないの?おかしくない?明らかに不審者っぽくて目立つはずでしょ?
「…………お待たせしました。こちらミルクでございます」
「あっ、ありがとうございます」
しばらくそうして観察していると、僕が注文していたミルクが出される。
すっかり観察の方に集中してて、注文してたことすら忘れちゃってた。慌ててそれを受け取って口をつけて、
「あちゅっ!」
「ホットミルクですからやけどにはお気をつけて。ごゆっくりお過ごしください…………それで、小さなお客様はご家族でもお待ちなのですか?」
僕が思ったよりミルクが熱くて舌を出してひーひーやってたら、店員さんから質問が来た。どうやら、冒険者の人の家族か何かだと思われたみたい。
僕が知らないだけで両親が冒険者をやっていたりしたら違うとは言えないけど、おそらくそんなことはないため、
「ううん。見学です」
「見学、ですか。そのお年でここを?」
「はい。気になったので来ました」
「…………なるほど」
僕が力強く見学であることを伝えると、正気かこいつみたいな目で見られる。
たださすがにこんなところで働いているだけは合ってその変化は一瞬で、すぐに元の余裕のある表情に戻った。僕も、このポーカーフェイスは学ぶべきかな?やっぱり感情を悟らせないって戦いの上では大切だと思うんだよね。
なんてことを考えつつ店員さんと話していると、
「よっ。マスター。今日はワインくれ」
「ワインですね?いつものでよろしいですか?」
「ああ。後、どうせだから高いのも1本追加で」
「かしこまりました」
お客さんがやって来た店員さんい注文をしていく。どうやら話してくれた店員さんはここのマスターらしい。
酒場だけどマスターなんだね。マスターって、バーとかで使われるタイプの名前だと思ってた。
こうしてマスターさんが話しかけられたわけだから、当然僕は話し相手がいなくなる。
つまりそれは、また観察の機械が訪れるということ。
だと思ったんだけど、
「で?この坊主はマスターの子供か?」
「いえ。違います。お客様ですよ。何でも、見学に来たそうです」
「はぇ~。見学に?こんな歳で?最近のガキは度胸があるというかなんというか…………なぁ坊主、冒険者にでもなりたいのか?」
僕の方に話が降られてきた。
今日初めて、冒険者ギルドに来てから冒険者の人に話かけられたかもしれないね。よくよく見てみれば、その話しかけてきた人はさっき受付を終わらせてた装備の質が高そうな人たち。
当然そのパーティーメンバーらしき人の中には、僕が観察していた人もいる。
これは参考にさせてもらったわけだし、適当な対応もできないね。誠意をもって答えないと。
「冒険者になるかどうかは分かんないです。とりあえず見ないと分かんないので見学しようかな~って思って」
「ハァ?…………いや、言いたいことは分かるけど、それを冒険者にも当てはめるのか?明らかに普通の職場とは違うだろ」
呆れたような目線が向けられる。
ただ、幸いなことにガラの悪いタイプってことではないみたいだから変な絡み方はされなさそう。カツアゲとかもなさそうだね。
しかもそうして安心できるだけじゃなくて、
「仕方ねぇな。なら、大人として坊主に教えてやろうじゃねぇか。冒険者っていうのが、どういうものかをなぁ」
「おぉ!なんか凄そう!」
「凄そうなんじゃなくて、スゲェんだよ。冒険者はなぁ」
冒険者についていろいろと教えてもらえることになった。
正直ここには強く案るために来たんだからそんなことを学ぼうとは思ってなかったんだけど、知っておいて損はないと思う。将来の計画とかが立てられると思うからね。
調子よく話を始めるその人の口から語られるのは、今まで倒してきたモンスターとかの武勇伝…………ではなく、
「いいか?冒険者にもなぁ、税金っていう物を払わなきゃいけない義務があるんだ。これはどこで働いてたって同じだが、特に冒険者は普段闘うだけのイメージかないだろうからここで躓くやつが多い。まあ、俺もそのうちの1人なんだけどな。ハハハッ!」
「ほへぇ~。税金」
結構リアルな参考になるお話を聞かせてもらいました。明らかに子供に聞かせる話じゃないんだろうけど、お酒を飲み始めてからどんどんそういう生々しい話を聞かせてくれたよ。たまに挟まる愚痴なんかがものすごくリアリティを感じさせてくれるね。
「俺らみたいにそこそこ稼げるようになったら税理士に丸投げしてもいいんだが、駆け出しのうちはしっかりとそういう仕事もやらなきゃいけない。大部分はギルドがやってくれるけど、どうしても避けられない仕事はあるからな。そして、俺たちみたいに税理士に丸投げできるようになっても使った金額の内訳はちゃんと記録しておかなきゃいけないぞ。申告するときに税理士が困るし、俺たちが払わなきゃいけない税金も増えちまうからな」