エンドNO.27 クセってあるよね
どうにかちゃんと話を聞いてもらえる状況にできた僕。特に相手の子も雑談をしたいという雰囲気は全くなかったため、さっそくカーミエちゃん対策を話していくことにした。
ちなみに名前を教えてもらうことくらいはしていて、相手の子はエタノちゃんというらしい。とりあえず、口に出す時にはエタノ様と呼んでいるよ。
そんなエタノちゃんに教えるのは、基本的にカーミエちゃんの癖。
先生が教えてくれる剣の話とかをしだすと長くなるから、まずはカーミエちゃんに勝つために手っ取り早くわかる情報を教え込んでいるというわけだね。
「まず、カーミエ様の構え方はこのような形になります。先生の剣にかなりのこだわりを見せていらっしゃるので、微妙に体格に合っていない構え方になっていることが特徴ですね。大人ならばこの構え方で良いのでしょうが、現在の身長ですここまで剣を下げてもあまりメリットがありません。どちらかというと、頭への攻撃の対応に私たちより遅れがちという欠点があります」
「ほぅほぅ。そんなことは考えたことがありませんでしたわ。でも確かに言われてみる、前回練習しているところを見た時にも他の者達よりも剣先が下がっていたような気もしますわね。あと、他の子どもとの違いで言えば、手と手の幅が少し開いていたようにも見えましたわ」
「おお。よく観察されていますね。確かにその通りでして、こちらも大人と同じ程度の幅を開いてしまっています。本来ならばここの距離は自身の手に合わせて調節するのですが、先生の幅を取るという癖がどうしても抜けないようです」
最初に癖を教えた時は同意されても適当にそれっぽく同意しているだけだろと思ってしまったけど、予想以上にエタノちゃんはハッキリと見ている。相当カーミエちゃんに執着していることがわかるね。
これは教えがいがありそうだよ。
後、そうやって記憶してくれてると僕の話の信ぴょう性の高さも理解してくれるから楽でいいね。割と簡単に信用してくれそうだよ。
「この手の距離は狙いどころでして、他の子よりも微妙に剣が届く距離が短くなっているんです。ですので、ギリギリの距離感で攻めていけば勝率は上がるかもしれませんね」
「なるほど。では、ある程度距離を開けつつ上側を狙っていくというのが基本方針でよろしくて?」
「それで良いかと思われます。もしそれで上を意識しだしたら、フェイントを入れて足を狙ったりしてみてもいいかもしれませんが。そしてさらに細かい部分なのですが、この手の間隔が広いからこその弱点が他にもあるんです。特定の角度なのですが、足のこの辺りに対する攻撃を防ぐことが少し難しいんですよね。実際に剣をある程度間隔を開けて持ってもらうと分かりやすいのですが、手が少し邪魔になって剣をひねりにくかったりするんです」
「ふむふむ。確かにそうですわね」
これでも観察は得意分野。教えられることなんていくらでも、とは言わないけどかなりの量ある。その中でエタノちゃんが覚えられるギリギリの量に厳選して教えていくっていうのが僕の腕の見せ所だね。
実際、ちょっとカーミエちゃんの癖を真似した僕が戦ってみても良いかもしれない。練習台にはちょうどいいと思うんだよね。
ちなみに教える癖というのは構え方などだけではなく、
「カーミエ様には、攻撃の際の癖もいくつかあります。特に好まれている突きなどは予備動作もかなりあって分かりやすい物になっていますね。こう構えているところで、少し後ろの手が上がることがポイントです」
「ほぅ?そっちが動きますの?」
「あまり後ろの手は注目しづらくある程度動いてもバレないと考えているのかまでは分かりませんが、カーミエ様の癖は後ろの手が動くというものがほとんどです。突きは上がる動き。少し下げながら前に出す場合は、横からの薙ぎ払いが来る可能性が高いですね」
実際に攻撃を出してくるときの癖なんかも教えているよ。相手が次に何を手を出してくるわかるとかなり楽になるのは間違いないよね。攻める時のポイントも守りのポイントも説明したし、これでエタノちゃんはかなり戦いやすくなるはず。
後は本人の実力がどの程度あるかによってそれの活かし方は変わってくるだろうけど、そこまで考えだすともう時間が足りないからね。とりあえずそれを使えるだけの実力はあるっていう過程で進めていくことにしよう。
ただ、ここまでに教えたことは全て僕が普段使っている物とは違う。本当は僕も見つけていてなおかつ利用しているカーミエちゃんたちの癖はあるんだけど、それを教えてはいないんだよ。
そっちの癖の方が分かりやすいし勝負の決め手になるんだけど、さすがにその癖の情報が流れてしまうと僕が利用できなくなっちゃうからね。エタノちゃんには悪いけど、僕が勝つための要素を減らすわけにはいかないんだよ。
「…………とりあえず、あなたの言う癖は理解しましたわ。あとはこれをに瞬時に反応できるようひたすら練習をしていけばいいわけですわね?」
「はい。そうすればカーミエ様へ勝つことができるようにはなっていくのではないかと」
「なるほど。では、これを叩き込んで明日カーミエ様に挑んだ場合、私の勝率はどれほどだとあなたは思いまして?」
僕が隠している情報があることなんてあまり考えていなさそうなエタノちゃん。そんなエタノちゃんは、どうやら今すぐにでも戦いを仕掛けたいという様子だった。相当カーミエちゃんに勝ちたいという欲があるみたいだね。しかも、その勝つタイミングは早ければ早いほどいいといった感じかも。
確かに癖は教えたし基礎もある程度は出来上がっているから数か月みっちり鍛えればかなりいい結果を出すことはできるのではないかと思う。それくらいの期間カーミエちゃん対策に特化すれば、そう悪い結果を出すことはないと思うんだよ。
ただやはり、明日となると話は変わってくる。
「個人的な見解を申し上げさせていただきますと、良くて1割と言ったところでしょうか」
「1割…………厳しい数字ですわね」
「明日までにカーミエ様の癖を頭に叩き込み、さらにそれに反応できるよう動きを体にしみこませるというのは正直に申しましてかなり難しいかと。今までお話した癖も、それが出てから来る攻撃は予想がつくとは言え、その癖が出た後に考えている余裕があるというわけではありませんので。それこそ体が自然と動くくらいまで叩き込まなければ完璧な対応をすることは難しいと思うわけです。ですから、かなり甘く考えての1割ですね。現在の実力差がどの程度かは分かりませんが、その差によっては1割に届かないことも十分考えられてしまいます」
「そうですのね。間違いなく実力差は大きいですし…………いえ。しかしやはり、明日、私は勝負を仕掛けてみますわ。そこで勝利し、私という存在をカーミエ嬢に見せつけてやりますの!」
僕は難しいと考えた。でも、エタノちゃんはそれでもやるらしい。明日やるということにこだわりがあるように感じるけど、何があるんだろうね?
気になる部分ではあるけど、とりあえずやるというんだからそれを応援してあげよう。
「エタノ様の勝利を心からお祈り申し上げます…………それと共に、この1時間は協力を惜しまないことも約束しましょう。必要でしたら、何度でも練習にお付き合いします」
「あら。殊勝な心掛けですこと。よろしいですわ。あなたを私の練習台にして差し上げますの」
そこからは、怒涛の練習の繰り返しだった。
エタノちゃん、勝てると良いねぇ。




