エンドNO.25 パーティーへの参加
貴族たちの住宅街に入ってから、屋敷に着くまでも意外と時間がかかった。他の貴族の屋敷も並んでて、それらが1つだけでもものすごく大きいからかなり通り過ぎるのに時間がかかるんだよね。あんなに広い家に住んでも使いきれない気がするんだけど。
なんて思ってたら着いた先の屋敷は今まで見てきた中で1番大きい物でめまいがしたね。さすがは公爵家の屋敷って感じだよ。
無駄にデカい噴水のある庭園に、よく分からない大量の石像、そしてその先にある屋敷は野球場よりも大きいかも。
僕たちはそんな屋敷に通されるとやっと目的のスキルの確認ができる…………というわけではなく、
「まずは着替えを用意してあるから、身だしなみを整えてもらえるかな?」
それぞれ個室に通されて、大量のメイドさんやら執事さんやらに着替えとか化粧とかされて、髪型もばっちり決められる。使われるものが全部高級そうで、汚したりしたらひどいことになるんじゃないかっていう不安があるね。
もちろん、公爵家だから僕たちにとっての高い物が1つや2つ使えなくなっても関係ないんだろうけど。
そして、それが終わると今度は挨拶が始まる。
担当してくれる使用人の人達を教えてもらったり、案内されて当主さん(つまり公爵様)のところで挨拶をしたり。
さすがに当主さんとのあいさつの時にはみんなガッチガチだったね(先生やアエリュちゃんは除く)。全身からあふれ出る気品みたいな物があって、迫力もすごかったよ。これが大物貴族かっていうのをありありと魅せられたね。
そして挨拶が終わってもまだまだ終わらない。
「こちらが食堂になります。お食事の際にはお呼びしますので、こちらまで来ていただければ。そしてその奥にありますのが厨房ですね。ないとは思いますが、お食事の後や前に空腹を感じられたといった場合にはあちらにお申し付けくだされば何かお出ししますので」
屋敷の案内が始まるんだよ。
屋敷も大きいからこれはこれで非常に時間がかかる。でも、さすがに必要な部分の紹介も多いから仕方のない事ではあるんだよね。変なところに迷い込んじゃってもいけないし、ちゃんと記憶しておかないと。
…………とは思ってたんだけど、案内の途中で気づいてしまったんだよ。それぞれ個人に使用人の人たちがついてるから、別に僕たちが覚える必要はないのでは?と。わざわざ僕たちが覚えなくても、案内してもらえればいいわけだし。
行きたいところややりたいことがあるならそれを伝えるだけで充分なのに、どうして僕はこれを聞いているんだろうという気持ちになってくる。
ただ、そんな僕の心境を察したのか、
「いいか、エサカ。こういう時には、避難できる場所や隠れられる場所を探すんだ。何か起きた時に迷って逃げられなくなるなんて言うことになってはいけないからな」
「なるほど。そうなんですね」
先生が小声で耳打ちをしてきた。
確かに何か問題が起きた時には僕1人で行動しなきゃいけなくなる可能性だってあるし、そういう意味だと自分で把握しておくことも大切なのかもね。外に出るための道とか、人がいる場所とか、視線を切っていける場所とか。しっかりと記憶していこうと思うよ。
とはいえ、公爵家の屋敷に侵入できるような相手が襲ってきたりした場合に、僕がそんなに簡単に逃げられるだろうかという不安はあるけどね。火事が起きたとかならまだ対応できるかもしれないけど、人がいた場合にはどうにもならないよ。
なんて思いつつ屋敷の間取りとかを把握していくと、だんだん日も傾いてきて、
「それでは本日の御予定といたしましては、この後お食事。そしてパーティーがございます」
「パーティー?食事の後にですか?」
「はい。そのようになっております」
ここで始めて今日パーティーなんていうものがあると知った。あと、パーティーって食事も一緒にしたりするんじゃないの?食事後にパーティーしたら、パーティーでのご飯とか食べられなくない?
…………あっ、もしかして、本当なら食べられるけど、僕の場合は何か問題が起きて注目されたり人が集まってきたりする可能性があるから食べられないかもしれないっていうことで配慮してくれたりしたのかな?
カーミエちゃんも僕をパーティーに引っ張り出したいみたいな雰囲気があったし、何かはあるのかもしれないね。
ただ、そうと分かればこっちにだってやり様はあるはず。
とりあえずできる対策はすべてしようということで、一旦自室(僕が泊まる客室)に戻らせてもらえる時間が少しだけあったから、そこで必要な技術を急ごしらえだけど整えていく。
それからしっかり腹ごしらえをして、
「このお魚おいしい!」
「それ魚なの?見た目がどう考えても魚のそれではないけど」
「いやでも、さっきの料理の紹介だと魚って言ってた気がするんだけど」
料理でもしっかり公爵家を教え込まれてからパーティーへと挑むことになった。ちなみに、アエリュちゃんや僕の両親たちは参加しないらしい。
何で僕だけなんだよ~。
僕を狙い撃ちにして何かをしようっていうのが丸わかりなんだよな~。ただ、それを僕も避けられないわけだけど。
なお、一応僕以外にも、
「エサカも出席か。これは面倒なことになりそうだな」
「あっ、先生もそう思いますか?たぶん、カーミエの狙いってこのパーティーですよね?」
「そうだろうな。カーミエか公爵家か。どちらかの思惑が色濃く反映されたパーティーであることは間違いないだろう。しっかりと気を引き締めておくように」
「はい!」
先生も参加することになっているらしい。
一応そこで体調が悪いってことにすれば欠席とかできるんじゃないかということを確認してみたんだけど、
「侮ってはいけないぞ、エサカ。ここは公爵家なんだ。腕のいい回復魔法の使い手や医者、薬師がいるに決まっているだろう。仮病など簡単に見抜かれる」
「おぅ。さすがは公爵家」
やっぱりそういうものは通用しないみたい。この世界だと仮病って使いづらいんだなっていうことを理解したよ。これは僕の常識を修正しておかないといけないことがまた増えたね。
仮病以外の欠席の言い訳を考えておかないとな~。さすがに何回も葬式に行くわけにもいかないし、いいものあるかな?
とりあえず言い訳は後で考えよう。今はもうここから欠席することはできないし、万全の態勢を維持しないと。
先生も僕と似たようなことを考えているのは動きや準備している物から理解できるし、お互い協力できるところもあるかな?とりあえず、邪魔にはならないようにしておかないと。
「さて、では行くか」
「はい!」
お互い視線で準備ができているかを確認しあい、それをごまかすように言葉を出してパーティー会場へと向かう。もちろん、格好をつけた感じで先生が先導しそうなセリフを吐いてるけど、案内してくれるのは使用人の人達だよ。
ちょっと今の先生の雰囲気は格好悪かったかもね。もちろん面白いから何も問題はないけど。
パーティー会場も今いる屋敷の中の一角で、とても広いホールのような場所。すでに大量に料理が並べられていて、人も大勢いる。
とは言ってもその人達のほとんどは兵士とか使用人とかで、まだ参加者と思われる貴族の人とかは少なそうかな?
「もう少し後から来ても良かったかもな」
「そうかもしれませんね。個室とかでもう少し待たせてもらえないか聞いてみますか?」
最初の方からいるとすでに来ている貴族っぽい人なんかから話しかけられかねない。
ということで、少し別室で待機させてもらうことにしたよ。
そうしてまた時間ができたおかげで僕もやりたいことの練習ができるし、成功率を高められるかもね。




