エンドNO.24 らしさ
「さぁ。もうそろそろ許可が下りつんじゃないかな?王都の中が見えるようになるよ」
横目で見た限り少し離れたところで長い長い列ができていたんだけど、僕たちはそれに並ばずかなりすんなり入ることができた。これは間違いなく、公爵家の力だろうね。貴族の特権ってすごいな~。
あと、何気に王都に入るのに検査が必要というのには驚いたね。結界が張ってあったり城壁があったりする時点で当たり前ではあったのかもしれないけど、入国の時ならともかくとして国内の移動も厳重にチェックされるのは意外だね。
ただ、入ってみるとそこまでして守りたいのも分かるような気がする光景が広がっていて、
「おぉ~!すご~い!きれい!!」
「なんか、村とはだいぶ印象が違うな~。やっぱり都会は違うんだね」
華やかな街並み。村とは違って自然なんてほとんど感じられず、服装もものすごくきれい。そして綺麗なだけでなく奇抜だったり独特だったりする人が非常に多い。何を目的にしているのかさっぱり分からないようなファッションの人もいて、僕はちょっと困惑しているよ。
ただ、目につくのはそれだけではない。どちらかというと人工物の多さや服装以上に目につくのは、人々の移動方法。
別に皆空を飛んでいるというわけではないんだけど、
「なんか、動きが速くない?ちょっと滑っている感じというか」
「ああ。あれは、移動補助の魔法がかかっているんだよ。みんな歩いているけど、本当は立ち止まっているだけでも行きたいと思っている場所に行けるような魔法がかかっているのさ。滑っているという表現は実際正しいんじゃないかな?」
「へぇ?それも魔法かぁ。結構いろんなところに魔法が駆けられているんだね」
歩く歩道の全方位版ってことなのかな?そんなもの真剣に考えようとすると実現がものすごく難しそうに思えるけど、イメージとしてはそれで間違っていないと思う。歩かなくてもいいっていうのは便利だね。
ただ、前世みたいに肥満率が上がるとかいう問題も起きそうだけど。とはいえ、車よりは自分で動く分カロリー消費とか会ったりするのかな?
そんな気になることがいっぱいな王都だけど、やっぱり全体的に魔法の影響が色濃く出ているような気がする。移動以外でも、いろんなところに魔法を活用しているだろうものが見かけられるんだよね。
それが気になっていると、
「結界に使っている邪竜の心臓は結構魔力を保有していてね。効率の関係上どうしても漏れ出てしまっているだけでもかなりの量になるんだ。だから、それを王都中で消費しているという形になっているんだよ。それこそ、他の場所よりも魔法が使いやすくなっていたりするんじゃないかな?」
「へぇ?…………あっ、確かに魔力の操作がいつもよりも簡単、というか、勢いをつけやすくなっている気がする」
使ってみて初めて気づいたけど、確かに魔力を使いやすい。これが、邪竜の心臓の力、というわけだね。本当に強力でびっくりだよ。あと、そうやって力を感じるとやっぱりシナリオのどこかで狙われるだろうという気がしてならないね。いつ結界が使えなくなったり、邪竜の心臓とかいうのを奪われてしまったりする事やら。
しかも、場合によっては僕がその邪竜の心臓を使う相手と戦わないといけないなんて言う展開にもなるかもしれないってことだよね?
…………僕、本当にやれるのかな?すごい不安になって着たんだけど。
ただ、そういうことが起きないうちはすごい居場所だね。この王都、凄い場所じゃん。
と、思うわけだけど、
「この土地はこれだから訓練に向かない」
「え?そうなんですか?」
「ああ。身体強化が効きすぎるんだ。私とは相性が悪い」
みんながみんな良い場所だという認識にあるわけではないらしい。先生は、この土地だとあんまり強くなれないと考えているのかな?たとえ身体強化が強く効果を出すとしても、他の人だって同じように強化されるわけだから外とそこまで変わらないと思うんだけどね?何か違うのかな?
色々と気になることはあるものの、そればかりも考えていられない。
外の様子は変化し続けているし、目新しい物ばかり。僕としてもちょっと目が離せないんだよね。
特に、
「あっ、今の人、財布か何かスッたね」
「ほぇ?スッた?」
「うん。盗んだって言えばいいのかな?こう、すれ違いざまに相手のポケットに手を入れて財布を抜き取っていたよ」
「へぇ!そんな人いたんだ!パパ、よくそんなの見えたね」
「ハハハッ。都会だとそういう人がいるって本か何かで読んだからね。ちょっと探してみてたんだよ」
スリとかひったくりとか。そういう人は観察のしがいがある。さすがにこの厳重な守りとなっている王都でも内部の犯罪までどうにかすることはできないみたいで、たまにそういう人を見かけるんだよね。もちろんほとんどの人にはバレないようにやってるし、僕も今くらいまで鍛えてなかったら気づけなかったかも。
ただ、見えるお陰で観察ができる。それはつまり、僕もその技を盗めるってことだよ。
スリになるつもりはないけど、そういう人たちが持っている技術は使えるようになりたいものも多いんだよね。特に、怪しまれずに周囲に溶け込んだりする能力とか。
それに、スリの技術自体も人間との戦闘中なら使える場面も多いかもしれないよね?相手の盛っている回復薬を盗んだりできれば、かなり戦いやすさが変わる気がするよ。
考えれば考えるほど、盗んだ方が良い気がしてきた。しっかり観察しておかないとね。
「この王都にまで来て目を凝らして観察する相手がスリとは…………エサカらしいと言えばエサカらしいな」
「そうですね」
「だね~」
先生や同門の2人からは何か言われているけど、気にしないよ。そんな細かいこと気にしてたら世界なんて救えないからね!将来世界を救ったり、この国の結界が破壊されないように活躍したりした時に、こうした観察は大事だったって言ってやるんだもんね!
「あらぁ。うちの子大丈夫なのかしら?」
「ハハハッ、大丈夫だろ…………大丈夫だよな?」
「大丈夫だと思いますよ。エサカ君はしっかりしていますから」
家族にまで心配されるのはちょっと寂しいね。フォーローしてくれてるし、やっぱり僕が頼れるのはタスミさんだけだよ。タスミさんに王都でプレゼントをこっそり買っておいても良いかもね。タスミさんの次の誕生日辺りに渡せば、アエリュちゃんもきっと文句は言わないでしょ(逆に帰ったばかりの時に渡すと、自分も欲しいと騒ぐと思われる)。
そんな風なことを考えたり観察を続けたりと僕は僕なりに王都を楽しんでいると、だんだんそのと風景が変化してくる。
残念なことにと言っていいのかは分からないけど、スリの人は減ってきて、さらにはなんだか身なりのいい人や帯剣をしている人なんかが増えてくる。
「ああ。貴族街に着いたみたいだね。この辺りは、貴族や一部の豪商が住んでいる住宅地なんだよ。基本的に、身なりがよくなかったり護衛を付けていなかったりすると衛兵に外へと追いやられるから気をつけてね。特に、アエリュちゃんは」
「は~い!」
「返事だけは良いね」
「そうだね」
「不安だな」
カーミエちゃんの注意に元気よく返事をするアエリュちゃんだけど、僕たちの信頼は薄い。まだまだ子供だから仕方のないしいい事でもあるんだけど、ちょっと好奇心旺盛すぎるんだよ。
「お出かけするときは私と一緒に行こうね」
「うん!ママと一緒!!」
タスミさんが頑張って王都でのアエリュちゃんの動きをどうにかしようとはしているけど、管理できるかは分からないね。僕も何かあったら止められるようにしておかないと。




