エンドNO.20 錬金でだって戦いたい
まだまだ本の通りのものが作れたわけではないから村長が認めるラインには到達できてないけど、間違いなく大きく前進できたよ。
それによって村のいろんなところから声をかけて貰えて、
「伐採用のオノ、持ち手部分と刃の部分に問題が起きやすくてな。できればここを上手く結合してほしいんだが」
「もしよかったら、この古い農具のさびを落としてもらえないかしら?本当ならもう捨てるくらいしかないものだから、いくらでも失敗はして構わないわよ」
「鍋とか壊れちまったんだけどよぉ。何かに再利用できないか?」
「試してみま~す」
錬金術を使っていろいろとできないかと要求されることになったよ。ほとんどタダ働きだけど、僕にとっては悪いことじゃない。その辺の植物を処理するならまだしも金属となると簡単に素材を集めることは難しいから、実験台をくれるのはとてもありがたいよ。
まずは失敗しても構わないと言われてるものから試していって調整をして、上手くいき始めたらそれの応用で処理できるものを片づけていく。かなりさび落としとかは上手くなった気がするね。これはもしかすると、将来剣の手入れなんかにも応用できるかもしれない。
ただ、金属だけではなく他の素材も入ってくると難易度がかなり上がる。特に農具とかは気も一緒に使われてたりするから、そのあたりの調整がすごく難しいんだよね。
「本にも詳しくは書かれてないから困るなぁ。まったくヒントがないわけではないのが救いかな?」
まだまだ上手くいかないことも多いし、場合によって本を読むだけでは突破口が見つけられないときもある。そういうものは難易度が高いということだから諦めるべきなんだろうけど、
「ふむ。そういえば昔私が見た時には、金属ではなく木の方から調整をしていた気がするな。あれは意味があることなのかは分からんが」
「ボクが見たときには、何か魔法陣みたいなものが書かれた上で調整をしていたよ。おそらく、あれは錬金術師だったと思うんだけど」
微妙に知識が入ってくるせいで諦め時を失っちゃうんだよね。先生とかカーミエちゃんとか、都会を知っている人たちは錬金術も見たことがあって、その所為で僕に参考にして良いのかどうか若干不安になる情報を大量にくれるというわけ。
困っちゃうよね。僕の実力だと、どれが正しい知識でどれが間違ってるのかなんて判断できないんだからさ。
こうしてしばらく錬金術の方でも頑張っている僕だけど、意外とこの錬金術というのは応用できるところがある。
例えば、
「おお。普通の枝でも、ちょっといじったらだいぶ持ちやすさが変わったかも」
「そうなの?貸して~…………本当だ~!軽いけど硬い!パパ!この枝欲しい!」
「えぇ~。それ僕用のだったんだけど。仕方ないな~」
拾った枝を錬金術で調整すると、多少条件の悪い枝を高品質なものに変えることができる。武器の質が変わると戦いにもかなり影響が出て、打ち合いとかがしっかりとできるようになった。
普通の枝だと折れそうになったりして危なかったから、これはきっと大きな進歩のはず。
そしてそれに加えて、
「ふむ。踏み込みがかなり早くなったな。錬金も応用次第ではそこまで活用できるか」
「そうですね。動きやすさが段違いです…………結局先生には当たりそうもないですけどね!」
戦う時、僕の動きをかなり安定させてくれるようになったよ。地面の土を錬金術で調整して少しだけ固くして、僕がしっかり地面をけって反発を受けられるようにしたんだ。これで、踏み込んだ時の初速も上がるし、急な切り返しとかもやりやすくなった。これだけのお陰というわけではないけど、アエリュちゃんたちと人数差がある状態で戦った時の勝率も少しだけ上げられたかな。
先生に対してはただ自分の足場を良くするだけではなく、罠のように土の状態を柔らかくしたりもしてそこへ誘い込んだりもしている。そこへ先生が踏み込めば、いつものように逃げようとしても動けなくなるからね。
ただ、そこまでやってもまだまだ先生は余裕で攻撃を避けてくる。先生からしても僕の錬金術の応用はかなりいい物みたいなんだけど、それでもかする気配すらないんだから勘弁してほしいよね。
ちなみに、先生はその地面の柔らかさが変わる錬金術をかなり気に入って、よくその硬さがばらばらになった場所で足運びの訓練をしていたりするよ。
足場の状態が急に変わっても変わらず動けるようにするための訓練なんだとさ。
「エサカの錬金術はなかなか私の訓練にも役立つな。ぜひともそのまま続けてくれ」
「はい…………とはいっても、その一部は狙ったものじゃないんですけどね」
先生は僕の錬金術を気に入ってくれているようだけど、個人的にはちょっと嫌な部分もある。
特に、相変わらず作らされているポーションの失敗作なんかは、作り続けるのもどうなのかという気持ちがるんだよね。
モンスター相手にしか使ってないとはいえ、筋肉を無理に肥大化させ一時的に力を増加させるとか悪の研究者がやってそうな実験みたいじゃん。僕、主人公なんだからそんなポジションと同じことはしたくないんだけどなぁ。
あと、純粋にそういう薬を作り続けているとお巡りさんみたいな人から目を付けられそうで怖いよ。もしかしたら、そういう風に目を付けられてもカーミエちゃんの実家パワーでどうにでもなるのかもしれないけどさ。
ならばそういう結果になってない金属とか地面とか調整をする魔法をもっと使えるようになれって思うかもしれないけど、
「なかんかこの地面の硬さを変える錬金術は改良が難しいんですよね。元々が農業用なので、変化の速度もそこまで急激ではないですし」
「ふむ。元の目的が違うとなるとそうなってしまうだろうな。私ももう少し錬金術の知識があればアドバイスもできたのだろうが、いかんせん専門外だからな」
「そうなんですよねぇ。頼れるものが本しかないというのがなかなか辛いところです」
そっちの錬金術は用途があまり戦闘関係ではなかったりして、上手くなっていってもあんまり強くなることに直結しないんだよね。これがまた難しいところ。
とは言っても、戦闘以外の面で使えるならばそっちで頼られることもあって、
「エサカ。ここの土を柔らかくしてもらえるか?」
「は~い!まだ作物を育てるのに良い土になるかは分からないから、ちょっとだけでいい?」
「ああ。良いぞ。もし使えるならだいぶ農作業が楽になるな」
実家に貢献できるのは、やっぱり僕としてもうれしい。元々が農業用に作られたものなんだから農業に使わない理由はないよね!
もっと色々使えるようになって、実家に貢献するぞ~!
ただね、
「ふむ。力加減が難しいな。あまりやりすぎると鍬が折れそうだ」
「なるほど!そう振るのですね先生!ここは力加減もできるボクがやって見せましょう!」
「なんか土がほわほわだよ!」
「フワフワの土、なんだか寝心地がよさそうピョン。お昼寝がしたくなってきたピョン」
使うものの中に人脈は考えてなったんだよ。なんでみんな、僕の実家の手伝いにこんなに動いているんだろう?そんなに働かれても僕の家じゃあまり給料とかは払えないし、働かれても逆に困るんだけど?
「みんな元気ねぇ。私もなんだか見てると元気が湧いてきたわ」
「ハハハッ!俺ももっと頑張らないとな!」
両親はそれを見て笑ってるけど、僕は全然笑えないよ~。公爵家の令嬢に農作業させるとか、この家どうなっちゃうか分かんないんだからね~!




