エンドNO.16 新弟子
先生という物の認識を、正直誤っていたと僕は思う。
確かに強いとは思っていたけど、剣聖という本来の師匠ではないから底は見えていると思っていた。そして、心のどこかで僕は主人公だからある程度努力すれば割とすぐに勝てるようになるだろうと楽観視していた。
だからこそ、先生という物を甘く見てしまっていたんだと思う。
僕は今、そう思わざるを得ない状況にいた。
別に、戦って実力差を見せつけられたとかいう話ではない。そんな物、毎日見せつけられているんだから。
今回はそういう話ではなく、
「やっと見つけたよ!フェスキ・リスエツエ!ボクを君の弟子にしたまえ!」
まさか、自分から弟子になりたいと遠方からやってくる人がいるなんて思わなったんだよ!先生がそんなに名前を知られていて、しかもわざわざ弟子入りのためにこんな村にまで人が来るなんて、全くの予想外だったね!
やって来たのは、僕と同い年かそれより少し上くらいの1人の女の子。と、その付き添いかと思われる大人数十名。
明らかに貴族らしき雰囲気を醸し出していて、服装もかなり豪華。
ただ、先生はそんな子を前にして、
「教えるのはかまわんが、あまりこの村の人間に迷惑をかけるなよ?騒がしくなると私としても迷惑だからな」
堂々とこんなことを言い放った。特に相手の身分が高い事を気にした様子はなく、どちらかというとそれに対して若干の面倒くささすら感じているように見える態度。どう考えても、平民がやるようなら不敬罪で処刑されそうな態度。
だ、大丈夫かな!?僕、先生にいなくなられるとこの先の成長にかなり支障が出るんだけど!?
あと、先生が処刑されるときに僕とかこの村の人とかが巻き込まれる可能性すらあるんだけど!?
なんて、考えたんだけど、
「誰にものを言っているのかな。ボクがそれくらいの配慮を欠かすわけがないだろう!もちろん、この村の人間に迷惑をかけるつもりはないとも!村の人間だけでなく、商人や旅人にもね!」
「なら構わない。今からちょうど訓練を始めるところだから参加するか?」
「もちろんだとも!」
貴族の子は特に気にした様子もなく、上機嫌な様子で受け答えをする。
そしてついでに、その子の練習への参加が確定したよ。
わ~い。これからお貴族様と一緒に練習だ~(白目)。
しかも、一緒に練習するだけでなく、
「ん?その子たちがフェスキ殿の生徒なのかい?」
「うむ。まだまだ粗削りだが、両方とも悪くない実力だぞ」
「ほぅ…………ならばそこの君、ボクの相手をしたまえ!このボクがいかに実力を持っているかということをフェスキ殿に示すため、協力するんだ!」
「えぇっと…………もしかして僕ですか?」
「ああ!君だ!」
その子の模擬戦の相手をさせられることになったよ。練習を一緒にすることになって、しょっぱなからこれとは先が思いやられるね。
相手が貴族だとかっていい物かも分からないし、そもそも勝てるのかどうかも怪しい。僕にはまだまだ相手の実力を測る能力は備わってないんだから。
「さぁ!早く!」
それでも、やらないわけにもいかない。貴族の要求を断るとか、確実に首が飛びそうなことだからね。
一応先生に目を向けて助けを求めてみるけど、
「エサカ。全力でやって構わない」
「ああ。ボクとしても本気で来てもらわないと困るとも!フェスキ殿に実力を示すならそうしてもらう必要があるし、単純に君の実力も気になるからね」
なんて2人から言われてしまうともう本気で戦うしかなくなる。逃げ道なんてないね。
さすがにお貴族様相手に模擬戦するときは枝なんて使えないから冒険者の人から貰った木剣を持ってその前に立ち、どうにでもなれって気持ちで戦う意思を固める。
「エサカ・スイフと申します。お相手のほどよろしくお願いいたします」
「ああ。これは失礼。ボクとしたことが名乗るのを忘れていたね。ボクはカーミエ・アセシフ。よろしく頼むよ」
せめて貴族だとしても爵位くらいは知りたかったけど、そこまで情報は引き出せなかった。本当なら少しでも情報を得るために会話を続けたいところだけど、戦いたそうな雰囲気を出しているから話を長引かせるのは下策だろうね。あまりよく思われない気がする。
仕方ないから剣を構えてカーミエくんをじっと見つめると、
「うんうん。良いね。その構え、フェスキ殿と同じだ」
カーミエ君は気になる言葉を口にする。この言葉が出てくるってことは以前先生が戦っているところを見たことがあるってことだよね?
僕が少し気になって横目で先生を見てみると、ちょっと悪い顔をしながら先生はうなずいた。
これは、やれって言ってるね。正直期待されている分それをするのは怖いんだけど、
「はじめ!」
「はぁぁ!!!」
「っ!」
始まりと同時に、僕たちは動き出す。
カーミエ君は何となく先生の戦い方の面影を感じさせるような動きで接近して、僕はそれに対して、
「っ!?消えた!?」
ギルドで初めて僕が模擬戦をしたときに使ったものと同じ、気配を消す技を使う。そしてそのまま、素早くその背後に回り込んで背中に剣を近づけておく。
本当は首とか頭とか狙いたかったけど、不足の事態が起きた時にその位置は危ないからね。気を遣わなきゃいけないから結構精神的に疲れたよ。
「そこまで!」
僕がそうして実戦であれば深い傷をわせることができただろう場所に剣を持ってきたところで模擬戦は終了。
当然結果は僕の勝ち。
何で負けたのか明日まで考えといてください……って言いたいところだけど、そんなこと言ったら絶対首が飛ぶからお口にチャック。
ただ、それだけだとちょっと危険な気がするんだよね。
やっぱり今までの流れを考えるとカーミエ君は先生にあこがれを持っていそうだし、僕がこんな風な先生とは違う技術を使うと弟子としてどうなのかと思われかねない。
最悪、嫌われかねないんだよね。先生の頷きはやれってものだったと思ったからやってみたけど、先生に倣った技術だけで戦うべきだったかな?
「…………ふむ。なるほど」
カーミエ君の沈黙が痛い。もちろん、直接的でないことをつぶやかれても精神的に思い。僕は判決を待つ罪人のように、カーミエ君の言葉を待つことしかできなかった。
段々と不安が大きくなっていく中、ゆっくりとカーミエ君は口を開き、
「…………すばらしい!まさかフェスキ殿の弟子がこんな技術を使うとは!」
どうやら、お気に召してくれたらしい。めちゃくちゃ予想外だったね。
僕としては、どの程度の苦言を呈されるかだけを考えていたっていうのに、まさか喜ばれるとは思っていなかったよ。
ただそんな反応に先生は驚いた様子もなく、
「これはエサカが自分で磨いた技術だ。私はこういった技術は使わないぞ」
「ほぅ?そうなのかい?」
「だが、そうした技と私が教える技術をうまく組み合わせて自分の技にできている。私としては理想の弟子の形の1つだな」
「なるほど!…………で、では、ボクも何か他の技術を学ぶ必要が?」
「そんなことはない。私の教える剣をただただ磨いていくのもまた、私の望む弟子の形の1つではあるからな。エサカは違ったが、こっちのアエリュはそのタイプだ」
「ほぇ~?私~?」
「ほぅ?そうなのか。であれば、模擬戦をしても?」
「練習中にその時間は作るから待て。とりあえずいったん基礎練習をカーミエにはたたき込む」
2人の話は、僕を置いて進んで行く。途中でアエリュちゃんとカーミエ君の模擬戦も決まってたからちょっと不安だね。アエリュちゃん、不敬なことやらかしそうなんだよね~。
この年齢の子供だから仕方ない事ではあると思うんだけど、とっても怖いな~。
「それでは練習を始めるぞ。エサカもぼぉっとしてないで準備をしろ」
「は、はい!」




