エンドNO.15 デバッファーに転職すべき?
「んへへ~。やった!やった~!」
「よしよし。すごいねぇ~」
「えぇぇ~。でしょ~?」
訓練後、デバフを外した先生と再度模擬戦をして実力差を分からされたけど、それでも達成感と疲労感を抱いて僕たちはアエリュちゃんの家へと戻ってきた。
まず、アエリュちゃんがだいぶ疲れていそうだったから早く帰してあげた方が良いと思ったんだよね。疲労で動けなくなったりしても大変だし。
水を飲ませたりした後にタスミさんからものすごく褒められて、アエリュちゃんは満足そう。ちなみに、僕もタスミさんの反対側でしれッとアエリュちゃんの頭をなでてたりするよ。
そうしているとアエリュちゃんは最初こそものすごく輝く笑顔で喜んでいたんだけど、だんだんとテンションの高さが落ち着いてきて、
「寝ちゃったね」
「そうだね。疲れてたみたい…………エサカ君も疲れてない?寝てもいいんだよ?」
「うぅん。疲れてはいるけど、今はまだ寝なくても大丈夫かな?」
「そっか」
アエリュちゃんはタスミさんの腕の中で眠りに落ちた。タスミさんは僕も同じように疲れているんじゃないかと尋ねてくるけど、自分ではそこまでの疲労はないように感じているから首を振っておく。とはいえ、疲労に対する自分の感覚はあてにならない時も多いから、本当に大丈夫なのかは分からないけどね。
そんなことを考えつつ、眠っているアエリュちゃんを見ながらタスミさんとゆっくりするか~なんて思っていると、なぜかタスミさんは僕へと近づいてきて、
「エサカ君、いつもありがとね~。お陰で毎日アエリュが楽しそうだよ」
「そ、そう?僕も楽しいから、気にしなくていいけど」
「ふふっ。大人びてるね」
その手が、僕の頭に伸びる。しかもそれだけではなく、伸びてきた腕とは反対の腕で軽く抱きしめられた。
あっ、なんか良い匂いする…ここは天国か……
「…………ハッ!?だ、大丈夫かな?タスミさん、凄い汗かいた後だけど、僕臭くない?」
「ふふっ。大丈夫だよ。嫌な匂いじゃないから」
予想外のご褒美に思考が停止してたけど、よくよく考えてみれば僕は激しく運動した直後。汗もたくさん書いてるし、確実に臭いがすると思うんだよね。
まだそこまで年齢が進んでいるわけではないから独特の臭いのひどさはないと思うけど、単純に汗の匂いって気になるわけだし。
そう気になったけど、タスミさんはそこまで嫌だとは感じてないみたい。良かった~。安心したよ。匂いで嫌われるとか最悪だからね。もう近づきたくないとか思われてたら泣いてたよ。
「…………でも、そういうところを気にするのは良い事だよ。私が今まで会ってきた人は、そんなこと誰も気にしてなかったから。エサカ君は、そのままでいてね」
「ん?うん。分かった」
「ヨシヨシ。偉いね~」
タスミさんは良い笑顔で僕の頭をなでてくる。なんていう幸福感!これは後でお金請求されると払っちゃいそうだね。
そして、なんとなくタスミさんが以前の夫とかをどう思っていたのかもわかって来た。どうしてそこまで良い感情を持っていなかったのかというと、デリカシーとかがなかったからなのかも?
この村では基本皆そうだから誰も気にしてなかったしタスミさんがそんなことを思っているなんて気づかなかったんだろうね。タスミさんが良い感情を持っていなかったなんて、うちの両親も気がついてなかったし、
「そういえば、タスミさんって前まで何のお仕事をしてたの?」
「レストランで働く前は、木こりをやってたんだよ。結構楽しかったんだけど、レストランの人手が足りないって言われたからやめちゃったんだ」
「へぇ!そうだったんだ」
その後も珍しくアエリュちゃんがいない1対1の状態でタスミさんと話ができるということで、今まで気になっていたことを色々と聞かせてもらった。まさか前職が木こりだったとは驚きだね。そんなに力があるようには見えないけど、もしかして脱いだらすごいとかそんなことある?
そんな風にしばらくすごいしてると、僕もだんだん眠気がやってくる。
やっぱり自分では気づけなかったけど、疲れていたのかもしれないね。そうしてまだタスミさんは気づいていないようだけど、僕は薄れていく意識の中、
「エサカ君は、将来アエリュのお婿さんになるのかな~?」
「ん~。タスミさんと結婚する~」
「え?…………あっ、寝ちゃった」
「…………パパ~。起きて~」
「ふにゅ?」
おはようございます。起きたらアエリュちゃんに馬乗りされていたよ。とっても素敵な朝だね(朝じゃないけど)。
何か寝る前に変なことを言ってた気がするけど、たぶん気のせい。
寝て疲れもとれたはずだし、これからも頑張っていきますか~。やることはたくさんあるもんね!
「パパ!ママが洗濯物たたんでる!」
「そうなの?じゃあ、一緒にお手伝いしよっか」
「うん!」
さっそくやることが降ってきたし、働くとしましょうかね~。
なんて思ってた時には、予想すらしていなかった。
僕たちの感じていた達成感が非常にちっぽけなものでしかなかったことなんて。
「全然かすりもしないんだけど!?」
「当たんな~い」
「ふむ。このくらいであれば丁度いい訓練になるか。さぁ、もっと激しく責めてこい!でないと、当たらないぞ?」
笑う先生と、疲労困憊と言った状態のままどうにか足を引きずって攻撃を続けていく僕ら。
一度先生に攻撃を当てた日はもう疲れていたから仕方ないと思ったけど、その後も連日ずっと届く気配すらないよ。2人がかりで攻めても一向に防御すらさせられる様子がないんだよね。デバフ、どんだけ効果が大きかったのやら。
先生、デバフ使いになった方が良かったのでは?
あと、そのデバフってもしかしなくても魔法だよね?
こんな近くに魔法を使える人がいたとは驚きだよ!
「…………つ、疲れた~」
「ハァハァハァ…………」
「もう少し体力をつけた方が良いかもしれないな。もしくは、体力を使わずに剣を振る方法を身につけても良いか」
訓練が終われば、僕たちは地面に倒れ込んで荒い息をする。もちろんそれに対して先生は、余裕のある表情で笑っているけど。
先生に習い始めた時に感じた大きな力の差をもう1回同じくらいの幅を見せられた感覚だね。この後ももう何回か似たようなことが起きる可能性を考えると、それだけで心が折れそうだね。
ただ、その激しい実力差を見せつけられている間でも僕たちが成長しているというのは間違いないと思う。
それこそ、1対1の模擬戦をするたびにアエリュちゃんの剣は凶悪になっていることを感じるし、そしてそれに勝てる僕もまた成長できていることは間違いないはず。ギルドの冒険者から技を沢山盗んでいるから、当たり前ではあるのかもしれないけどね。
ちなみに、そうして僕に技を盗まれている冒険者さん達だけど、実際に先生に教えを乞うた成果を発揮するときはやってきて、
「おいおい、ボロっちいギルドだなぁ!冒険者も全員腑抜けた面してやがる!田舎の冒険者ギルドは、ひどいもんだな。ガハハッ!!」
ある日の事、ギルドに外からやって来た冒険者が入ってきたかと思うといやらしい笑みを浮かべて大声を出していた。それを見て即座に僕は気配を消したね。
先生から教えてもらったり、盗賊系の人から技を盗んだ成果が発揮されたってわけだよ。
そうしたことで僕は目を付けられずに済んだけど、やっぱり普段僕と絡むことも多い初日からの付き合いのちょっと装備が目立つ大力さん達は目を付けられて、
「俺がお前らに、本当の冒険者ってものを教えてやるよ」
「へぇ?それはガッカリしそうだから必要ない気がするが…………世間知らずを教育するには骨を折ってやらねぇといけないか?」
喧嘩することになった。模擬戦とかではなく、本当に喧嘩だね。
2人で剣を構えて駆け出し、即座に決着がついた。
さすがに先生から指導を受けていただけはあって、ダイリキさんが勝利したよ。本当に一撃で倒しちゃったからびっくりしたね。
《イベント『猿山の王』が消滅しました》
僕もちょっとだけスッキリしたし、イベントが消滅したことには目を瞑ろうか。
…………べ、別に現実逃避とかではないんだからね!




