エンドNO.14 指導!指導!
「ふげぇ。まいりました~」
「あ、危なぇ~。負けるかと思った。最近のガキは怖いな」
結局負けたよ。
いいところまで行ったんだけど、さすがに日ごろから戦い慣れている人の勘は鋭かったね。上手く気配を消して背後に回り込んだんだけど、なぜか気づかれちゃったんだよねぇ。せっかく、先生から教えてもらった王都にいた盗賊の技術を使ったっていうのに。
ただ、そうして負けたら負けたで切り替えていかないとね。
反省は後からしっかりするとして、今はやっぱり情報を集めたい。
例えば、
「どうして急に戦おうなんて思ったんですか?」
とか。
僕が先生の弟子であることを再度確認してから勝負を仕掛けられたから、先生関連のことが理由にはなっていると思うんだけど、ハッキリした理由は不明。
ということで詳しく聞いてい視ると、
「実は最近、対人戦をもう少しこのギルドの冒険者は学んだ方が良いんじゃないかって話になってな。坊主の師匠に稽古を付けてもらえないかと考えてたんだ」
「ほぇ~?そうなんでうsか?」
対人戦闘能力の不足。それはモンスターとの戦闘を基本としているこの村の冒険者の人達にとっては仕方のない欠点。
だけど、それをどうにか変えなければいけなくなってしまったらしい。
その原因は、外から商人たちが来ることでそれにくっ付いて冒険者も来るようになってきたことと。そして、盗賊の増加。
外の冒険者の中にはやはり血の気が多い連中、しかも田舎の人間を見下す連中が一定数いるというのは理解しているみたいで、それの対策を立てないとマズいという話になったらしい。そしてもちろん盗賊の対処もこの村の冒険者がやらないといけなくなるかもしれないから、今のうちにそういうことができるようになっておきたいんだってさ。
そして対人戦を学ぶための指導役として白羽の矢が立ったのが、
「先生、ってことですか?」
「ああ。あの人は最近盗賊を何人も倒しているし、それ以外にも冒険者同士の喧嘩やら決闘やらの経験が豊富らしいからな。俺たちより知識は豊富なことは間違いないと思うんだ」
「なるほどぉ~?」
では、それは良いとして、なぜわざわざ僕に模擬戦を仕掛けてきたのか。
その理由はずばり、先生の指導能力を測るためらしい。いくら経験豊富な先生と言えど、教え方が下手であれば無理に頼んでもあまりいい結果が得られるとは思えない。
ということで、生徒である僕を戦ってみてどれくらい強くなれるのかというのを確認したかったんだって。
「いや~。坊主がめちゃくちゃ強くて正直ビビった。もちろん坊主もすごいんだろうけど、あの人も教え方が上手いのは間違いなさそうだ。今度頭下げて教えてもらえないか頼んでみることにするか~」
幸い僕が頑張った成果もあって、先生の能力の証明にはなったっぽい。もちろんそれが先生にとっていい事かは分からないけどね?
こんな冒険者の人達に教えを請われることを望んでいるかどうかは分からないし。
ただ、僕たちに剣を教えることは楽しんでいるし自分のためにもなっているという認識をしているみたいだから、そこまで悪い反応が返ってくることもないと思うけどね。
なんて思いつつも、とりあえず模擬戦をして疲れたので今日の冒険者ギルド見学はここで終了。
…………ということにして、
「うぉぉぉお!!!さっき見た技を全部書き留めねばぁぁ!!!!」
僕は先ほど戦ったダイリキさんの技を忘れないうちに書き留めねばならないと思い全力疾走をした。こういう時、走り方とかも多少技術を盗んでて良かったなって思うね。明らかに普通の5歳児がやる走り方と速度ではないもん。
今回闘って観察し盗んだ技だけど、やっぱり普段盗んでいた技とは決定的に違う部分がある。
それが、実際に自分に使われたところが視れたうえにある程度相手がいる状態での本気の動きが視れたこと。
今までもある程度はその動きを反芻したり練習したりする素振りを見て盗んでいたわけだけど、やっぱり実際にやっているところを見るのとは大きく違うよね。
普段以上に分かりやすくて、盗みやすい技がたくさんあったよ。そして当然、普段出している技ではない部分でも多く盗めそうなところがあったしね。
「間の取り方も剣の握り方も、全部覚えて行いと!これは1つも忘れてられない!!」
結局、この後タスミさんのお手伝いに戻れたのは数時間後になりましたとさ。
必要なことではあったんだけど、割と絶望したね。
ただ、今回起きたことの影響は僕にとっては非常に大きい。
なぜならば、
「よし。お前たち。しっかりと武器を持て。このまま、体勢を崩さないように戦うんだ。一度どっしりとした土台をつくるぞ」
「「「「はいっ!」」」」
「3セットしたら、今度は武器を握る力を緩めて、柔軟に戦え!どれだけ力があっても、崩されるときは崩される。その時、どれだけ綺麗に受け流せるかが命に関わる」
先生が、冒険者ギルドで対人戦の講習をするからだね。
たまに聞きに行くんだけど、結構参考になるよ。そして何より、
「では、お互いに構えて…………はじめ!」
「はぁ!」
「甘い!そんなものが聞くかぁ!!」
冒険者の人達の模擬戦が視れる。これが非常に大きいね。
だって、今までは目を皿にして探し回っていた細かい技術が、今はこんなに簡単にみられるんだから。しかも、かなり大量に。おかげで毎日自己鍛錬がはかどってるよ。信じられないくらい新しい情報が次々に入ってくるからね。
まだまだ練習を始められてない技術も多くて嬉しい悲鳴を上げちゃうね。
もちろんし応して練習したものは先生とかアエリュちゃん相手にも使ったりしてみて、
「っ!?伸びるな」
「アエリュちゃん!今!」
「うん!えぇぇぇいっ!!!!
アエリュちゃんとの連携もある程度進み、成長した僕たちの攻撃が先生を襲う。
冒険者の人達から盗んだ僕の攻撃と、純粋な才能によるアエリュちゃんの攻撃。その2つが織り交ざった攻撃の効果は、想定以上に大きい。
それはもう、僕だけでなくアエリュちゃんも、そして、
「当たった、か。この時期に届くとは思わなかったぞ。よくやったな。エサカ。アエリュ」
先生も予想できなかったほど。
1年にもう少しで届くという修行の末、僕たちはどうにか先生に初めて攻撃を当てるということに成功した。これは間違いなく、大きな一歩。
「っ!やったあああぁぁぁぁ!!!!!!」
「やったね。アエリュ凄い!」
最後を決めたのがアエリュちゃんだからとりあえずアエリュちゃんを褒めたけど、やっぱり隠ししきれない喜びが僕からもにじみ出ていることは分かる。それほどに先生に模擬戦で攻撃を当てるというのは、大きなことなんだから。
これからはある程度先生も攻撃を出してくるような状態で模擬戦が始まるわけだし、
「では次からは、『鈍足』と『脱力』なしでやってみるか」
「鈍足と脱力?」
「うむ。両方ともデバフだ。効果は名前の通りで『鈍足』なら足が重くなって動きが遅くなり、『脱力』は力が入りにくくなるものだな。手加減のために使っていたが、当てられるようになったならばなくしてみてもいいだろう」
どうやらまだ先生の攻撃は始まらないみたい。
しかも、全然気づいていなかったけど、先生はデバフを積んだ状態で戦ってたんだね。もしかして次は、重りを外して回避をしてみようかなんていう話になったりしないよね?
ただ、今そんなこと考えなくていいや。せっかく勝ったんだから、それを喜ぼう。
僕はちゃんと成長できてたってことだからね!もちろん、それだけじゃなくアエリュちゃんの成長も大きい要素ではあったんだけどさ。
ただ1つだけ喜べないことも存在して、
「ダキエがいない時に勝っちゃった…………」
「あっ。ダキエ、落ち込むかな?」




