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9.ギルド登録と試練の火蓋

 森で倒れていたミナを自宅に送り届けてから数日が経った。


「ミナ、少しは食べられそうか?」


 薄暗い部屋の中、寝床で静かに横たわる彼女に声をかけると、小さく頷いた。


「はい……歩夢さん、本当にありがとうございます」


 まだ完全には回復していないようだったが、確実に元気を取り戻しているのがわかる。

ミナの家は村の外れにある小さな一軒家で、庭には小さな花壇があった。

家族の気配は薄いが、暖かい空気が漂っている。


「ここなら、ゆっくり休めるはずだ」


 そう思いながら、俺はできる限りの世話を続けた。


 数日後、ミナはようやく自分の部屋の窓から外を見て微笑んだ。


「歩夢さん、ここに戻れて本当によかったです」


 彼女の笑顔に、俺の胸は温かくなった。


 そんなある日、リアが村に戻ってきた。


「歩夢、そろそろギルドに登録しに行こう。私はもう登録済みだけど、あなたとミナはまだでしょ?」


 リアの声にはいつもの冷静さと確かな頼もしさがあった。

ミナも少し恥ずかしそうに頷きながら、


「はい……歩夢さんと一緒に、登録に行かせていただきます」


と言った。


 三人で村を出発し、賑やかな街へと向かう。

道中、ミナはまだ体力が完全ではないため、歩みはゆっくりだったが、少しずつ表情に活気が戻っていく。


 ギルドは街の中心にあり、重厚な木造の建物だった。

内部は活気にあふれ、多くの冒険者や依頼人が行き交っている。


 受付の担当者に声をかけ、俺は初めての登録手続きを始めた。


「お二人とも、初心者ですね?まずは簡単なクエストから始めましょう」


 担当者が示したのは、近郊の森での簡単な調査クエストだった。


「これなら三人でも十分こなせそうね」


リアがそう言って俺たちを見つめる。


 俺は心の中で、新しい仲間たちと歩む日々がこれから始まるのだと感じていた。


 クエストの準備を整え、三人はギルドを後にした。


 目指すは近郊の森――。


 森の入り口に立つと、静かな空気が体を包んだ。


 鳥のさえずりや木々のざわめきが聞こえるだけで、人の気配はない。


「ここからだね」


リアが軽く剣を握り、視線を鋭くする。


「危険がないとは言えない。油断は禁物よ」


「わかった。俺も気を引き締める」


ミナはまだ体調を完全に戻せていないが、目を閉じて深呼吸をしている。


「無理はしないで、ミナ」


「はい……でも、少しでも力になりたいです」


 歩を進めながら、俺たちは周囲を警戒した。


 突然、草むらが揺れ、低い唸り声が聞こえた。


「敵か?」


「気をつけて」


リアが前に出て構えた。


 視界の奥から、二体の獣が姿を現した。


 体は大きく、牙をむき出しにしている。


「これが最初の試練か……」


 俺は自然と剣を抜いた。


 戦いの幕が上がったのだ。


 獣たちの姿がはっきりと見えた。


 鋭い爪と牙を持ち、全身には濃い毛が生えている。

 獰猛な野生の目が俺たちをじっと見据えていた。


 リアが冷静に声をかける。


「油断しないで。奴らは俊敏だ。まずは動きをよく見て」


 俺は剣を握る手に力を込めた。


 ミナはまだ少し顔色が悪いが、杖をしっかり持って構えている。


「私も支援魔法を準備します」


 ミナの声に少し励まされた。


 最初の獣が唸り声を上げ、こちらに向かって跳びかかってきた。


 リアが即座に斬りかかり、獣の攻撃を受け流す。


「歩夢、援護して」


 リアの指示で、俺は手早く火の魔法を準備した。


 炎の玉が掌に生まれ、獣に向けて放たれる。


 火の熱で獣は一瞬ひるんだが、なおも攻撃を続けてくる。


「まだ油断はできないな」


 そう呟きながら、俺は次の魔法詠唱に移る。


 ミナは集中を高め、回復の魔法の準備に取りかかっていた。


 獣たちの攻撃が激しくなる。


 リアが剣で受け止めながら反撃し、俺とミナが魔法で支える。


 三人の動きが徐々に噛み合っていく。


 俺は確信した。


 この仲間たちとなら、どんな困難も乗り越えられる。


 だが同時に、まだまだ未熟な自分たちの弱さも痛感していた。


 戦いは始まったばかりだ。


 深く息を吸い込み、次の一手を考える。


「行くぞ!」


 俺の声に、リアとミナが応える。


 最初の試練はこれからだ。


 緊張と期待が入り混じる中、俺たちの冒険が本格的に動き出した。


 ギルド登録から初陣まで、長い道のりだったが、これが本当の始まり――。

——続く。

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