7.静けさの裏に
森へ続く道は、思っていたよりも静かだった。
耳をすませば、木々のざわめきと、小鳥のさえずり。
だが、それらの音の奥に、微かな“違和感”が混じっている気がした。
「ここ、普段はもっと動物の気配があるはずよ」
リアがつぶやく。目は真剣そのものだった。
「……爆発音、だったよね?」
俺は小声で問いかける。
「ええ。魔法の着弾か、火薬の類か。どちらにしても自然の音じゃないわ」
慎重に足を進める。
空は晴れているのに、森の中はどこかひやりとしていた。
しばらく歩くと、地面に焦げ跡が見えた。
草が焼け、地面が抉れている。――明らかに、魔法の痕跡。
「これは……やっぱり攻撃魔法の着弾跡、ですか?」
「《フレイム・バースト》か、それに近い高位の魔法ね」
リアの顔が険しくなる。
「そんな魔法、俺でもまだ使えないよ……」
誰が、何のためにここで?
疑念がよぎる中――
そのとき、茂みの向こうから「う……」という呻き声が聞こえた。
「誰かいる!?」
俺は駆け寄ろうとしたが、リアが腕を伸ばして制した。
「待って。下手に近づくな。――私が先に行く」
さすがに冷静だ。リアが剣を抜き、ゆっくりと茂みをかき分ける。
「……女の子、だ」
俺も近づくと、そこには一人の少女が倒れていた。
ボロボロのローブ、傷ついた腕。金髪に、くすんだ紫の瞳。
年齢は、俺たちと同じくらいだろうか。
「……助けて、ください……」
彼女はかすれた声でそう言った。
その瞬間、俺の中にある“何か”が、はっきりと動いた。
この世界で、“守る”べきものがまた一つ――現れたのだと。