5.銀剣の少女と火球の一撃
次の日も、そのまた次の日も、俺は時間ができるたびに、
村の裏手へと足を運んだ。
リアがいるかもしれないと思うと、自然と足が向いていた。
何度か顔を合わせるうちに、会話の言葉も少しずつ柔らかくなった気がする。
彼女は決して多くを語るタイプではない。だが、芯に熱を持っている。
それが分かってから、俺は彼女の剣を見るのがますます楽しみになった。
「……見に来ただけ?」
いつものように剣を振るうリアが、振り返らずに言った。
「いや、今日はちょっと、お願いがあって」
「お願い?」
彼女が首を傾げる。
「――手合わせ、してくれませんか」
俺がそう言うと、リアの動きがピタリと止まった。
「……あなた、本気で言ってるの?」
「うん。俺の力が、どれくらい通用するのか試してみたいんだ」
魔法の力を持っているとはいえ、実戦経験はゼロ。
自分がどれだけやれるのかを知るには、戦うしかない。
それに、相手がリアなら……本気で来てくれる気がした。
「……いいわ。後悔しないでね」
リアが構える。その動きに、ぞくりとするほどの緊張感が走った。
「――始め!」
彼女が踏み込む。速い。
だが、俺の反射神経も――異世界に来てから、どこか冴えている。
(来る――!)
魔力を身体に巡らせて、跳ぶ。
紙一重でかわした瞬間、風が頬を切った。
「ふぅん……動きは悪くないわね」
剣が再び振るわれる。今度は横薙ぎ。
その流れるような一撃に、俺は息を呑む。
だけど、反射的に手が動いた。
手のひらから、光が――いや、熱が走る。
「《フレイム》!」
指先から、小さな火球が生まれ、剣の軌道をそらす。
リアが一歩下がり、目を見開いた。
「……魔法使い?」
「うん、まあ、そんな感じ」
「ただの素人かと思ってたけど……なるほどね。
――あなた、面白いわ」
そう言った彼女の瞳に、昨日までとは違う光が宿っていた。
「その力、旅に使うつもりはある?」
「旅……?」
「私は“守る価値のある誰か”を探してる。
そして、あなたは――何かを持ってる気がするのよ」
まっすぐに俺を見るその眼差しは、冗談ではなかった。
「一緒に行くって決めたわけじゃない。ただ、候補にはなった」
「……ありがとうございます」
短い模擬戦。短い会話。
でも、それはたしかに“心の距離”を近づけた時間だった。
この世界で、誰かと一緒に旅をする。
――そんな未来が、ふと現実味を帯びてきた気がした。