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2.「生きる」ということ

森の中で目を覚ました翌朝。

 冷たい空気の中、俺はひとり、倒木のそばに立っていた。


「……眠れたような、眠れてないような……」


 硬い地面に身体を横たえたのは人生で初めてだ。

 だが、疲労と不安が入り混じったせいか、

意外とぐっすりだった気もする。


 夢は――見なかった。

 現実が、もう十分非現実だからか。


 昨夜確認したステータスを思い出す。

 全属性魔法に適性あり、魔力量は常人の数十倍。

 まるでゲームの最強キャラみたいな能力だ。


 でも、何も知らなきゃただの宝の持ち腐れ。


「試してみるか……魔法」


 まずは魔力の感覚を探ってみる。

 心を落ち着けて、ステータス画面で感じた

“魔力”を意識する。


 ――すると、体の内側に温かく流れる

“何か”があるのがわかった。


「これが……魔力?」


 そのまま、火のイメージを思い浮かべる。

 焚き火、小さな炎、マッチの先――。

 手のひらに力を込める。そして、声を絞り出した。


「……《フレイム》……!」


 風が吹いただけだった。


「……ははっ」


 思わず笑いが漏れる。

 上手くいくとは思ってなかったけど、少しだけ悔しい。


 でも同時に、魔法が“ただの妄想じゃない”と

確信できた瞬間でもあった。


 この世界では、イメージと魔力、

そして“スキル名”が鍵になる――そんな気がする。


 数回の失敗を経て、ようやく指先に

ほんの微かな熱を感じたとき、

森の奥で――低いうなり声が聞こえた。


「……!」


 茂みの奥から現れたのは、

牙を剥いた獣のような魔物だった。


 体長は犬ほどだが、目が真っ赤に光っている。

 獣というより“魔獣”だ。


「こんな早く戦うことになるとはな……!」


 逃げ道は狭い。なら、やるしかない。


 さっきの感覚を思い出せ。

 魔力を集めろ。意識を一点に集中――。


「……《フレイム・ショット》!!」


 ――パッ!


 指先から、ビー玉ほどの小さな火球が飛んだ。

 魔物の目の前で弾け、小さな爆ぜる音を立てて煙を上げる。


「効いた……!」


 完全な命中ではなかったが、魔物はひるんだ。

 この隙を逃さず、俺は全力で逃げ出す。


 戦い方も、勝ち方も、まだわからない。

 だが、生き延びることだけはできるはずだ。


 走る。心臓がうるさい。足がもつれそうになる。

 でも俺は、もう立ち止まらない。


「生きるって、こんなにも――必死なんだな」


 木々の合間から、開けた土地が見えてくる。

 その先に、煙。――人の気配だ。


 胸が高鳴る。誰かがいるかもしれない。

 助かるかもしれない。


 ここで、ようやく思った。


『元の世界より、ずっと“生きてる”って感じがする』


 そしてもう一度、強く誓う。


 俺は、ここから人生をやり直すんだ。

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