1.ここから
今日も、なんとなく大学に行った。
別に特別な授業があるわけでもない。友達がいるわけでも、
夢があるわけでもない。俺の人生は、言ってしまえば「惰性」だった。
――黒川歩夢。大学一年生。趣味なし、特技なし、やる気なし。
人からどう思われても構わないと思ってたし、実際誰も俺に
興味なんてなかった。
講義を受けて、スマホをいじって、家に帰って寝るだけの毎日。
バイトはしてるけど、それも生活費のため。
別に将来のためとかじゃない。
気がつけば「今日何してたんだっけ?」と自問する日々。
生きてるというより、「死んでない」だけだった。
そんな俺が、ある日――死んだ。
大学からの帰り道、駅前の交差点。信号が変わったタイミングで
スマホを見ていた俺に、猛スピードで突っ込んできたトラックがあった。
「あ、やばい」
思った瞬間には、もう空を飛んでいた。いや、吹き飛ばされたんだろう。
痛みは……なかった。不思議と怖さもなかった。ただ、ぼんやりと思った。
――ああ、俺の人生って、何だったんだろう。
そして、目を覚ましたとき。
「……え?」
そこは、知らない森の中だった。
緑の木々が風に揺れ、小鳥のさえずりが響く。空はどこまでも青く、
空気は信じられないほど澄んでいた。
「あれ……? 俺、死んだはずじゃ……」
混乱する思考の中、俺は気づく。
目の前に浮かぶ青白いウィンドウのようなもの。そして、
そこに表示された文字。
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《転生者:黒川歩夢》
《種族:人間》
《固有スキル:全属性魔法適性》
《魔力量:Aランク》
《ステータス初期化完了――異世界適応を開始します》
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……は? なにこれ。
スマホの画面じゃない。現実でも、夢でもない。
ただ一つ、はっきりしているのは――
俺は、異世界に転生した。
……だったら、今度こそ、本気で生きてみようじゃないか。