9. 水の精霊
翌日――早朝のエリオントの村は昨日の喧騒がうそのように静寂に包まれていた。
まだ外の空気はひんやりとしていて、朝霧が立ち込めている。
空がうっすらと明るむ頃、三人はエリオントの村を立って南東へと進んだ。
「次の目的地は、ついに『王都フルール』だね!」
ミライはリジュの持つ世界地図を覗き込みながら弾む声で言った。リジュはちいさく頷く。
「ああ、けど王都までには『フーシア湖』と『プリムヴェール山脈』がある。
これだけ早く出たから遅くとも今日の午後には王都に着くだろうけど……
長丁場だから、こまめに休みながら進もう」
「ええ、張り切っていきましょう!」
リジュは地図を確認しながら言うと、カコは両拳を握りしめてニッコリと笑う。
ミライとリジュは明るく振る舞うカコに、ほんの少し安堵していた。
三人は小一時間道なりに進むと、太陽の光が夜気を完全に連れ去り朝霧は徐々に消えていく。
すると前方の視界が開けて、
澄んだ新鮮な空気の中に透きとおる光に照らされた大きな湖と、後方にそびえる青い山脈が現れた。
ミライとカコはそのかがやかしい雄大な景色に思わず感嘆の声をあげる。
「なんて美しい景色でしょう……!」
「こんなにたくさんの大きな山、はじめて見た……
それにあの大きな水たまりが湖っていうの?」
ミライは指をさしながらリジュに尋ねた。
「ああ、そうだよ――ミライは湖を見るのがはじめてなんだな」
「うん! わたしミュゲの村以外だとサントゥール島くらいしか行ったことなくて……」
はにかみながらミライは頭をかいた。
「でもグラウンド王国ではここが唯一の湖だから、そんなに恥ずかしがることもないと思うぞ」
リジュは苦笑すると、カコが海色の目を丸くした。
「あら、そうなのですね! シー王国にはいたるところに湖がありますが……環境の違いでしょうか?」
「へぇ〜、そうなんだ! じゃあカコちゃんには懐かしい景色?」
「ええ、こんなに明るくはありませんが……
シー王国には高くて険しい山脈もたくさんあるので、なんだか少しホッとしますわ」
カコはうっとりと湖と山脈を眺める。
そんなカコにふたりは微笑むと、気がつけばフーシア湖はもう目と鼻の先だった。
湖に突き出た桟橋のそばには大きな帆船が停泊していたが、まだ朝も早いというのに多くの人が集まっている。
三人は不思議に思いながら近づいていくと、この船の船長らしき男性が口々に責め立てられているようだ。
ミライはその人だかりに首を突っ込むと、近くの人に尋ねる。
「なにかあったんですか?」
ミライに気がついた中年男性が顔をしかめながら振り向いた。
「なにかってもんじゃねーよ。せっかくこんなに早くきたってのにこの船長、船が出せないんだとさ!」
ミライはつぶらな黄土色の瞳を瞬くと、人だかりの外で待っているふたりのもとへ戻った。
「なんか船が出せないみたいだよ?」
ミライが報告するとリジュは怪訝そうな表情をした。
「くわしく聞いてみるか」
リジュは涼しい顔で人だかりをすり抜けていき、船長の前に出て理由を尋ねた。
「全部『湖の妖精ニマーヌ』のせいなんだ!」
船長の話によると――湖の妖精ニマーヌとは古くからこのフーシア湖に住んでいて
普段は船の運行をひっそり見守っているおとなしい妖精らしい。
だが今日になって突然、船の運行を妨害してきたのだという。
リジュはそれだけ聞いて人だかりから出てくると、ミライたちにその話を伝えた。
「妖精……聞いたことがありますわ! 精霊から派生した存在ですわね――でも、どうして急に?」
カコは首をひねる。リジュもあごに手を当てて考えていた。
「この船が使えないとなると、湖の近くの密林を行くしか方法がない。
でもかなり道が複雑で足もとも悪いからふたりには過酷だろうし……」
「そんなの簡単だよ!」
ミライは元気いっぱいの声を張りあげて「船長さーん!」と叫ぶと、
そこにいたすべての人たちがミライに注目した。
「わたしがニマーヌを説得するよ!」
カコとリジュは「えぇ!?」と驚いて固まったが、ミライは自信に満ちた笑顔でふたりに振り返った。
◇ ◇ ◇
「本当にやるのかい?」
船長はミライたちをニマーヌの出現場所まで船で連れてきてくれたが、
デッキに三人を案内すると、震える声で言った。
「ええ、わたしにまかせてください!」
ミライは屈託のない笑顔をみせるも、カコとリジュは心配そうな表情をする。
「妖精を説得するなんて、できるのでしょうか?」
「なにか秘策でもあるのか?」
ふたりは言うと、ミライは「うーん」とつぶやき宙を見た。
「どうなるかわからないけど……でもきっと、ニマーヌにもなにか妨害する理由があるんじゃないかと思って」
そう三人が話していると突然、目の前に水柱が立った。ものすごい水しぶきがあがり船がグラグラと揺れる。
三人と船長は思わず身をかがめ視線を前方に移すとそこには――
ミライたちよりも幼くみえる少女が宙に浮いていた。
湖水の色をした長い髪を中央で分け、まるで水流のように髪をゆらめかせている。
青白い肌に特徴的な尖った長い耳があり、口は真一文字に結ばれている。
ちいさな顔にある切れ長の潤んだ瞳には、炎のような憤怒の念がにじんでいた。
「あいつだ! あいつが湖の妖精ニマーヌだよ!」
船長が顔を青くして叫ぶとミライたちは真剣な表情でニマーヌを見据える。
ニマーヌは三人を鋭くにらんだ。
――人間どもめ……今すぐここから立ち去れ!――
その声にも刺すような怒りの色があり、三人は体を固くした。しかしミライは心を奮い立たせて一歩前に出た。
「ニマーヌ! どうか教えて? どうしてそんなに怒っているの?」
ミライが問いかけるが、ニマーヌは腕を振りあげた。水の刃がミライに向かって飛ぶ。
ミライは斜め後方に飛び退り、それを避けた。
ニマーヌは拳をつくってうつむき頬を紅潮させ、くやしそうに歯を食いしばる。
―― ……『ウンディーネ』さまの怒りだ。それがわれにも伝わって……きさまらが憎くてたまらないのだ!――
「ウンディーネ……水の精霊、ウンディーネのことですの?」
「そのウンディーネはなんで怒っているんだ?」
――人間の身勝手さ、強欲さ、愚かさ……そのせいで、ウンディーネさまのやどる滝はにごりきっておるのだ――
リジュはそれを聞くと、静かにつぶやく。
「じゃあ……ウンディーネの怒りがおさまれば、ニマーヌの怒りもなくなるんだな?」
「そっか! そういうことなら」
ミライはまた前に出て、船から身を乗り出した。
「わたしたちがウンディーネの怒りをおさめてあげるよ!」
ニマーヌは訝る表情でミライを見た。
――お前たちにできるのか……?――
「大丈夫! わたしたちにまかせてよ」
ミライはカコとリジュに振り返るとふたりも少し困惑していたが、
「……まぁどちらにせよ、いずれは会わないといけないしな」
「そうですわね! 怒ったままではエレメントジュエルも与えてもらえないでしょうし」
と言うと、ミライに頷いてみせた。
「ね? だからお願いニマーヌ。みんな困っているから、少し怒りをこらえてもらえないかな?」
ニマーヌは考えている様子だったが、ややあってミライに言った。
―― ……わかった。ならばその誠意をみせてもらおう――
ニマーヌは三人を一瞥すると指をさした。
――お前らの誰かひとりでいい。もしウンディーネさまの怒りがおさめられなかったら、
お前らの一番大切なものをわれに捧げろ――
三人は「えっ」と声をあげて、顔を見合わせた。
「大切な……もの?」
ミライはちらりと腰に差してあるフォルブランニルを見る。
「そ、それは……」
カコも無意識に首にかけてあるニザベリルの家紋に触れた。
――ものでも人でも、なんでもいい。お前らにとって心から大切なものだ。うそをついても無駄だぞ――
「…………」
リジュは息を呑んで、横目でミライを見る。
――どうした? 無理ならばわれは約束しないぞ――
そのひと言にミライは剣を抜いてみせた。
「わかった! じゃあこの剣をあげる。わたしの宝物……フォルブランニルを」
「ミライちゃん!?」
「……!」
ミライはふたりに笑顔を向けた後ニマーヌに振り返り、凛とした声で言った。
「だから約束して。わたしたちがウンディーネの怒りをおさめるまでの間も、この船の邪魔をしないこと!」
ニマーヌはミライのつぶらな黄土色の瞳を見つめる。
―― ……相わかった、うそではないようだな。約束しよう――
そうニマーヌは言うと、また湖の中に消えていった。
その一部始終をうしろから見ていた船長は三人に飛びつかんばかりによろこんだ。
「す、すごい! まさか妖精を説得できるなんて……ありがとうきみたち!」
ミライは船長の方を向いてニッコリ笑った。
「いえいえ! それに水の精霊ウンディーネの手がかりもつかめたし……ね? ふたりとも」
「ええ! きっと大陸のどこかにウンディーネがやどる有名な滝があるはずですわ!」
「そうだな。ミライのフォルブランニルのためにも、絶対に探し出そう」
三人は信じ合うように顔を見合わせて、力強く頷き合った。
◇ ◇ ◇
船がフーシア湖の対岸に着いたのはそれから約30分後だった。
下船すると遠くからでも大きく見えたプリムヴェール山脈は迫ってくるような存在感でそこにそびえていた。
「まぁ……この山を登るのですか?」
カコは山脈を仰ぎ見た。
「いや、この山を登るのは登山を趣味にする人間か冒険家くらいだ――オレたちはあのトンネルを通っていく」
リジュは右前方をさし示すと、そこにはうがたれたほの暗い大きな穴があった。
一緒に乗船していた多くの人たちがぞろぞろとトンネルに入っていく。
トンネルの先を見ると、出口まではかなりの距離がありそうだった。
「このトンネルは登山以外では王都に続く唯一の道だ。
いろんな人間が行き交っているから、気を引き締めていこう」
「了解しましたわ!」
「うん、じゃあ早速しゅっぱーつ!」
ミライとカコは元気よく揃って拳を高くかかげた。
トンネルに足を踏み入れると湿度の高いひんやりとした空気が三人を包んだ。
天井は高く、道は荷車や馬車がゆうに通れるほど広い。
内部はところどころにランプが点在しており、顔が見える程度には明るかった。
歩を進めるたび足音が響いて、前を歩く団体の話し声がトンネル内に反響している。
しばらく三人は黙々と歩いていると、だしぬけに黒い大群が前方から飛んできた。
三人は思わず手や腕で顔を覆う。
ものすごい羽音がして、耳障りな鳴き声が響いた。カコはとっさにミライの背中に隠れる。
「きゃあ! なんですの!?」
「あれは……コウモリ?」
ミライが天井を見あげると、黒いコウモリの大群は後方へ一目散に飛んでいった。
「……いやな予感がする。ふたりとも、気をつけろ」
リジュはふたりに言い、弓を取り出して前方に視線を向けた。
それを見たミライも剣の柄に手をかけ、カコも両手を組み合わせる。
その直後――先を歩いている団体から悲鳴があがった。
ミライはハッとしてその先に目をやると、そこには天井まで届きそうなほどの巨大な黒い影が出現していた。
それは隆々とした人の形をしている。
「げげっ! なにあれ!?」
「あれは黒い影の『巨人型』だ。こんなに人通りがあるのに、なんであんな大物が……」
ミライがその黒い影の姿に仰天する中リジュは身構える。
そうこうしているうちに、前を歩いていた団体がミライたちの方へ逃げてきた。
みな大慌てで入口に向かっていく。
ミライたちはそれに逆らうように黒い影へ走った。
リジュが一番に黒い影との間合いに入ると、三本の矢をつがえて放つ。
「野分!」
渦巻く風をまとった矢は意思をもったかのように、三方向から黒い影をつらぬいた。
黒い影の動きが止まる。
「光の力よ、黒き巨人に閃きたまえ! ――スパーク・ブライト!」
カコの周りから光の球体が流れるように飛び出し黒い影を襲った。
黒い影はうめき声をあげ、三人に向かってその大きな拳を振り下ろす。
衝撃とともに地面が砕け岩の破片が飛び散る。三人はなんとか避けると、ミライが地を蹴った。
「烈斬衝破!」
高く飛びあがり大きく切り下げ地を砕く。刃の衝撃波が地を這い、黒い影を切り裂いた。
ついに黒い影は霧のように散り、消える。
ミライは立ちあがって剣を鞘におさめた。
「……ふぅ、なんとかなったね」
「ミライちゃんすごいですわ! これで閃術も三つ目ですわね♡」
カコがミライに走り寄るとリジュも後方で感心していた。
「本当にな。風のやどる森で少し教えただけなのに……連係技まで使えるようになっていたなんて」
「えへへ♪ 練習では失敗も多かったけど、成功してよかった!」
ミライはうれしそうに言って「それにしても……」と、倒した黒い影がいた場所を眺める。
「黒い影は、人が多い場所には出てこないはずなのに……どうして?」
リジュも怪訝そうな表情をする。
「スリジエでの白い魔物の件もあったし今の黒い影もなにか不自然だな」
「もしかして……これがシュヴァルツの妨害だったりするのかな?」
ミライがカコの海色の瞳を見ると、カコは頷きながら顔を曇らせた。
「そっか――でもそうだとしても、前を向いて進んでいくしかないね」
ミライはグッと拳を握って前を向く。カコとリジュも顔をあげてトンネルの先を見つめた。
◇ ◇ ◇
その後トンネルの中には立て続けに黒い影が現れた。
ミライたちはそれを倒しながら、時には閃術の使い手の旅人と協力し合って進んだ。
外界の景色が見えないので時間の経過がわからなかったが、
リジュが懐中時計を確認すると時刻はすでに午後になっていた。
「黒い影のせいで、思ったより時間がかかってしまったな」
「そうだねぇ。それにこれだけ連戦が続くのも、わたしはじめてだよ〜……」
「ほんとですわぁ」
ミライとカコはぐったりと肩を寄せ合って、リジュに言った。
「そうだよな。回復薬もそろそろ少なくなってきたし……」
するとリジュは、前方が賑わっているのに気がつく。路上で複数の商人がものを売っているようだった。
「……相変わらずだな」
リジュは苦々しく言う。ミライはきょとんとした顔でリジュを見た。
「どういうこと?」
「外で堂々と物を売れない密売人がここでよく店を開くからこの場所は路上販売が原則禁止なんだけど――
でもこのトンネルは距離が長くてたくさんの人が利用するから、黒の騎士団も仕方なく黙認しているんだ」
それからリジュは熟考していたが、ちらりと隣を歩くふたりを見やった。
(今はルールを守るより、ふたりを守らないと……だよな)
「ここで少し休憩して、減ってきたものが底をつく前に補充していこう」
リジュの言葉にふたりは力なく笑って、コックリと頷いた。
それから三人は賑わっている人の中に入っていった。
その販売場所はトンネルのちょうど中間地点にあり、壁際に沿って30メートルほど続いている。
リジュはふたりを連れて、壁際に設置してあった木のベンチのところまでくると振り返った。
「ここで休んでいてくれ。必要なものだけすぐに買ってくる」
「うん!」
「わかりましたわ!」
リジュが人混みの中に消えていくと、
ミライとカコはベンチに座って行き交う人たちをキョロキョロと見まわす。
その時ふたりはサントゥール島までの船内のことを同時に思い出していた。
「カコちゃん、またしてもわたしたち……場違いなような」
「わたくしも今考えていたところですわ……」
(リジュくん早く帰ってきて〜!)
ふたりは思いながら身を寄せ合っていた。
しかしみるからにふたりはまわりから浮いており、
行き交う人たちはミライたちを無遠慮にジロジロと見ながら通り過ぎていく。
その中で20代前半ほどにみえるふたり組の男が、ミライとカコに目をつけていた。
ふたりはにやりと笑い合っておもむろに近づいてくるとミライとカコに声をかける。
「どうしたの? お嬢ちゃんたち。迷子かな?」
ミライはビクッと体を緊張させたが、とっさにカコを自分の背中に隠した。
声をかけてきた男は背が高くひょろりとしている。
隣にいる男は小太りで、背はミライより少し高いくらいだった。
「い、いえ!」
ミライはブンブンと首を振って冷や汗を流す。
ひょろりとした男はクスクスと笑い、液体の入った一本のボトルを取り出した。
「そんなに警戒しないでよ〜。きみたち疲れてそうだね?
――よかったら、この聖水買わない?」
ひょろりとした男はそのボトルを振ってみせた。隣の小太りの男はにやにやと笑っている。
カコはミライの背中にしがみついて少しだけ顔を覗かせると、ちいさな声で「聖水?」と、尋ねる。
「そう! 飲めば一瞬で体力が回復する水の精霊のご加護をうけた聖水さ! ね? 興味ある?
きみたち可愛いから、今なら安くしておくよ?」
“水の精霊” という言葉にミライとカコはハッとしたが、その直後――
ひょろりとした男の肩を、誰かがむんずと掴んだ。
「その話、オレに聞かせてもらおうか」
低く、どすの効いた声にミライとカコは一瞬わからなかったが、見てみるとそこにはリジュが立っていた。
その凄みのある様子にふたり組の男はたじろぐ。ひょろりとした男は震える声で言う。
「な、なんだよ! 男に用はねぇ!」
「……もしその聖水とやらが自然物でなにも許可をとっていないとしたら販売は法令違反だ。
禁固5年、もしくは1000万ガル以上の罰金になる」
慌てるふたり組の男にリジュは切れ長の銀色の目をギラリと光らせ、言った。
すると小太りの男がリジュの姿にハッとして、慄く。
「群青色の髪……銀色の瞳……もしかして……黒の騎士団のリジュ・ユーダリル少将!?」
ミライとカコは驚いてリジュを見たが、リジュはなおもふたり組の男をにらんでいた。
「その水をとってきた場所を教えろ。そうすればこの場は見逃してやる」
リジュはふたり組の男に聖水の詳細を聞いた。
それは王都フルールの近くを流れる『モーヴ大河』の支流の先、北東にある『水霊の滝』から汲んできた水だという。
リジュはそれだけ聞くと、ふたり組の男を追い払った。
「やはりニマーヌも言っていた通り、ウンディーネは滝にやどっているのですね」
「らしいな。さっきの男たちも、うそはついていないようだったし」
「じゃあ王都に寄ったら、次は水霊の滝だね!」
三人はベンチに座って回復薬を飲みながら話し合った。
「ところでリジュくん。さっきの人たちリジュくんにおびえていたけれど……少将って、本当に?」
ミライが先ほどの小太りの男の発言を思い出してリジュに尋ねる。
カコもミライの隣から興味深げにリジュを見た。
リジュは隣に座るミライを少し見ると、無表情になって行き交う人たちを眺めた。
「オレが少将を授かった年齢が14歳の時だったから、若くて珍しがられたんだ。
だから黒の騎士団に接触の多い人間は――さっきの犯罪まがいのやつらや王族に関わる人間も含めて――
知っているやつもいるんだよ」
「すっごーい! リジュくんはやっぱり優秀な騎士さまだったんだね! いいなぁ〜!」
ミライは興奮気味に言うが、リジュは「……そんなことないよ」とつぶやいた。
しかしカコはそんなミライを見てクスッと笑う。
「ミライちゃんはなんだか、騎士さまになりたいみたいですわね」
「もちろんだよ! わたしが男の子だったら絶対、騎士さまになってたもの!」
思わず立ちあがってミライは両拳を握りしめる。リジュは無邪気なミライを目の当たりにして苦笑した。
「それだけ元気ならもう大丈夫だな――そろそろ出発しよう」
立ちあがりながらリジュが言うとカコもぴょんと立ちあがって、三人はまたトンネルの出口をめざしはじめた。