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8. 生きてきた証

 三人はコリウス一行を部屋に招き入れると、リジュが話しはじめた。



「隠していたわけじゃないんだけれど……親父の跡を継ぐかたちで、


オレも一年前まで黒の騎士団で活動していたんだ」



 リジュは荷物の中からすらりとした片刃の長剣をその証拠にと一同に見せる。



「これが愛剣『ドラウムニョルン』。親父から受け継いだものだ」



「おお〜!」



 ミライはその剣を見ると目をかがやかせ歓声をあげる。


カコもその長剣が荷物の中にまぎれていたとは思ってもみなかったようで、驚きを隠せないでいた。



「ではリジュくんは弓使いでありながら……そんな立派な剣の使い手でもあったのですね」



「そっか、だからあんなに剣術の知識もあって剣の扱いにもなれていたんだね!」



 しかしミライはハッとしてリジュに尋ねる。



「じゃあずっと王都に住んでいたっていうのは……」



「騎士団の本部が王都にあるからだ。王都の城『ブレイザブリク城』内に宿舎も併設してあるから、


オレは入団してから10年間世界をまわりながらそこを拠点に暮らしていたんだ」



 リジュは言うと、ドラウムニョルンをまた荷物の中に大切そうにしまった。



「だからボクはリジュによく遊んでもらっていたのだ! これでも年が近い方だったのだぞ」



 コリウスが胸を張ってミライとカコに言う。ルクリアは相変わらずリジュにくっつきながら、


「ルクリアだってリジュさまと仲良しでしたわ!」と張り合った。



 カコはコリウスの言葉に人さし指をあごに当てて宙を見つめる。



「そういえばリジュくんのまわりは大人たちばかりだったと言っていましたけど……


黒の騎士団は、大人の方が多かったのですか?」



「ああ、オレが騎士団では最年少だった。騎士団は入団するのに試験があるんだけど、


本当に剣の扱いに慣れていないと突破するのがむずかしい。


それに騎士団の成り立ちや歴史にも長けてないといけない――


だから自然と年齢があがってしまうんだ」



「そんなにむずかしいんだ……リジュくんはすごいんだね」



 ミライは目を見張るがリジュは首を振った。



「オレの家系ユーダリル家は代々騎士を家業としていたからその縁で入れてもらえただけなんだ。


親父でさえ15歳から入団していたから、当時5歳だったオレは特例だったんだ」



「リジュの母上はその年に亡くなっていたし近い親戚も早くに亡くなっていて寄る辺がなかったのだ。


だから父上がいる騎士団に入ったというわけさ」



「そう……だったんだ」



 ミライはリジュの憂いた横顔を見つめる――自分が5歳だった頃まだまだ甘えん坊だったことを思い出す。


そんな頃にリジュは母親を亡くして、なすすべもなく大人の社会に放り込まれたのだ。



 リジュの剣の構えに感じたオーラは普通の16歳の少年にはないものだった。


それはきっと命がけの仕事である騎士として生きていくために


必死で培ってきたものだったのだとミライは理解した。



(わたしがリジュくんに勝てないって思ったのは、当たり前のことだったんだ……)



 ミライは胸が締めつけられる思いがした。



「しかし心配したぞリジュ! 去年誰にもなにも告げずに母上の故郷に帰ってしまって……」



 コリウスはリジュの顔を覗き込んだ。だがリジュは端正な顔を曇らせ黙している。


ミライはその様子になにかを感じ取った。



「そ、そういえばさぁ!!」



 ミライは叫ぶように言うと一同は揃ってミライに注目した。



「えっと……リジュくんは〜……騎士さまやめちゃうの?」



 ミライの問いにリジュはゆっくりと口を開く。



「……ああ、そのつもりだ」



「なんと! そうなのか、リジュ」



 コリウスが悲しそうな顔になる。



「でもまだ正式に退団表明をしていないそうじゃないか?」



「はい、近日中には王都に伺えると思うので……そのときには」



 リジュは言うとミライとカコに向き直った。



「――って、思っているんだけど……この先王都に行ったら寄り道させてもらってもいいか?」



「うん!」



「もちろんですわ!」



 ふたりは笑顔でリジュに頷いた。



「え〜! ルクリアはいやですわ。リジュさまに会えなくなるなんて……


この一年でさえ寂しかったのに」



 リジュの腕を引っ張りながらルクリアはごねた。


リジュは苦笑し「申し訳ありません、姫」とやさしく言う。


するとカコがポンとひとつ手をたたいた。



「でしたら、これからみんなで海水浴をしませんか? ねっ? コリウス王子とルクリア姫もご一緒に。


楽しい思い出づくりをいたしましょう♡」



 カコは一同をくるりと見まわすとミライとコリウスは「それはいい!」と顔を見合わせた。


ルクリアもパッと顔をかがやかせる。


リジュと三人の騎士はぽかんとした表情で今や大はしゃぎの四人を眺めていた。







◇ ◇ ◇







 午後の日差しを受けて渚はキラキラと白くかがやいていた。


砂浜の人々はみな思いおもいに海水浴に興じている。



 この先必要なものを補給したあとミライとカコは


コリウスとルクリアとすっかり打ち解けて海岸にくり出した。


急遽買いにいった水着を着て、四人は海に入り水のかけ合いをして遊んでいる。



 唯一リジュだけは「海は苦手で……」と遠慮し


その代わりに黒い半袖シャツに下は普段着のままビーチパラソルの下に座り四人を眺めていた。


そのうしろには、三人の騎士たちも控えている。



 ミライは白いフリルがついた水着にいつもの髪の毛を高くふたつのお団子に結いあげている。


カコはライトブルーの豊かな髪を下の方でふたつに結ってお団子にし、シンプルなレモン色の水着を着ていた。


コリウスは花柄の海パン姿で、ルクリアはもも色の水着に長い黒髪はひとつに結いあげている。



「きゃ〜! 冷たいですけど気持ちがいいですわぁ! それにしょっぱいです!」


「それっ! カコちゃんくらえ〜!」



 海に感動しているカコにミライはバシャッと水をかけると「やりましたわね〜!」と、カコもやり返す。


さらにミライは、コリウスやルクリアにもかけると「ミライを狙え!」とばかりに、


ふたりもはしゃぎながら水をかけた。



(……なんだか、ただ遊びにきただけのような気がしちゃうな)



 楽しそうな四人をぼんやりと眺めながらリジュはひとり思っていた。



 ただ、さっきまでしょんぼりとしていたコリウスとルクリアが


ふたりと楽しそうにしているのを見るのは、リジュはとても嬉しかった。



 ついこの間までなにかと親しみをこめて接してもらい、


昔から大人たちに囲まれて育った自分にとって弟と妹ができたような――


そんな気持ちにさせられていたのだ。



 ふたりとも少しわがままで性格も気性も正反対ではあったけれど。



「リジュくーん」



 すると海からあがったミライが、リジュのもとに駆け寄ってきた。


リジュはハッとして、ミライを見あげる。



「これから砂遊びをするんだ! 一緒にやろうよ」



 ミライが笑顔で言うとリジュも頷いて立ちあがりふたりは走り出した。



「さっきは、ありがとな」



「え?」



 リジュの声にミライは立ち止まって振り返る。



「オレ、去年……どうやって騎士として生きていけばいいのか急にわからなくなったんだ。


代々続く家業を受け継ぐべきなんだと、頭ではわかっていたんだけど」



「…………」



 絞り出すようなリジュの言葉をミライは真剣に聞き入っていた。



「でも、もう心が限界だった。だから逃げるように王都から親父のところへ帰ってしまったんだ……


なんか、情けないよな」



 リジュは目を伏せ、思いつめたような切ない表情でそこまで言うとミライは首を振った。



「そんなことない! リジュくんはえらいよ――


お友だちと遊びたくてもお母さんに甘えたくてもリジュくんは……


騎士さまとして、がんばってきたんだもの!」



 ミライは力強く言う。



「それにリジュくんがサントゥール島に帰ってなかったら、


わたしたち今ここでこうしていられなかったんだよ? 


だから……わたしはあの森で会えたことに、すごく感謝してる」



 彼女の笑顔と言葉は太陽のように、リジュの心をあたたかく照らし出してくれるようだった。



 リジュは切れ長の銀色の目を見開く。



(……あの時のままだ)



 光とともに、心には清らかなものが流れ込んでくる気がした。



「だからね! これからは騎士団仕込みの剣術を、たくさん教えてほしいな」



 ミライの無邪気な笑顔に、リジュもつられるようにして笑う。



「ああ、もちろん。オレでよければ」



 空は青く澄み、日差しは人々の影を濃く、深くさせていた。







◇ ◇ ◇







「あぁ〜楽しかった!」



 ミライはシャワーを浴びたあとの心地いい体を中央のやわらかなベッドへ沈み込ませる。



 楽しい時間はあっという間に過ぎて、もう外は闇夜の中だった。


静かな波の音が風にのってかすかに耳に届く。



 カコもさっぱりした体で窓際のベッドに座り


長い豊かなライトブルーの髪をタオルでやさしく拭いているところだった。



「本当に! 生まれてはじめての海水浴……最高でしたわぁ」



「コリウス王子たちも楽しそうだったしね! みんなで楽しめてよかったね〜」



 ふたりは昼間のことを思い出してうれしそうに笑い合う。



 そこにリジュもタオルを首にかけて部屋に入ってくると、楽しそうなふたりを見て微笑んだ。


リジュは入ってすぐのドア側のベッドに腰を下ろす。



「でもリジュくんも海の中で一緒に遊べたらよかったのにね」



「そうですわ! あんなに楽しいことわたくし、はじめてでしたのに……」



 リジュは少しすまなそうな表情で、群青色の髪を無造作に拭いた。



「悪かったな……でも砂遊びはできたし、料理もおいしかったし。オレは満足だよ」



 と、ベッドに倒れ込みながら言い放った。



 ミライとカコはふたり揃って口を不満そうにすぼめてみせて、プッと吹き出した。



「まぁ、リジュくんったら」



 カコは笑いながら言うと、ミライもリジュの態度にクスクスと笑った。


ミライはひとしきり笑ってから「さて、と」と伸びをしながらつぶやく。



「明日の朝、出発だよね――そろそろ寝ようか」



「そうだな」



「ええ、ゆっくり休みましょう」



 三人は「おやすみ」と言い合うと、広い天井の灯りはフッと消えた。









 しばらくすると規則正しい寝息が部屋に響きだした。



 外は闇夜――めずらしく月も星も隠れた漆黒の闇の中に、かすかに動くものが窓から見えた。


ミライたちの部屋は決して階下ではない。



 それは人影であった。外から眼光鋭く室内を油断なく眺めると窓ガラスを静かに切り取り、錠を開ける。


その人物は窓をゆっくり風のように開け、


音もなく窓辺から降りると直後、窓際に眠っているカコに狙いを定め近づいた――その瞬間。



「待ちなさい!」



 真ん中のベッドに眠っていたミライが剣を構え、人影に刃を向けた。


パチッと音がしたかと思うと、また天井の灯りはこうこうと光り出す。


そこにはリジュが壁際の灯りのスイッチを押して立っていた。



「……お前は……もしかして」



 リジュが眉をひそめ、つぶやく。



 灯りがついて、その人物の姿があらわとなった。


この国では見慣れない異国的な紺色の装束をまとっている。


頭と口もとは衣で隠れており、真紅の目だけがギラリと覗いていた。


やっとカコも目を覚まし、すぐにベッドから這い出てミライの背中に体を寄せた。



 その人物は諦めて引き下がり、また窓辺に飛び乗る。その身のこなしはまるで動物のようだ。



「……今日は分が悪いな」



 ぼそりとそれだけ言うと、その人物は闇夜に消えていった。



「あ! 待てっ!」



 ミライが窓辺に走ったが外には誰もいなかった。リジュは顔をしかめて、窓辺をにらむ。



「どうして『しのびの民』が……」



「しのびの民?」



 ミライがリジュに振り返る。カコもリジュの方を向いた。



「……独自の民族性と文化をもつ民族だ。


主に諜報活動を通して黒の騎士団と協力し、この王国を密かに守っているんだけど――


どうしてカコに? 一体なんの目的が……?」



 リジュは神妙な面持ちでカコを見た。



「なんで……なんでなの? カコちゃんはシー王国を救おうとしているだけなのに!」



 ミライはくやしそうに拳を握った。カコは一点を見つめて、くちびるを噛み締める。



「カコはなにか、思い当たることはないのか?」



「わかりませんわ……でもあるとすれば……シュヴァルツからの言葉、でしょうか」



 リジュの問いにカコは静かに言った。カコは真剣なまなざしでふたりを見る。


少し間を置いて、彼女はまた口を開いた。



「おふたりにはまだしっかりとお話していませんでしたね……


なぜ王女であるわたくしが、シー王国を救おうとしているのか――」



 カコはゆっくりと深く息をして、自分の身に起きたことを語りはじめた。







◇ ◇ ◇







 今から一年前──その日のシー王国は陰鬱とした空が広がっていた。



 カコはいつも通り城の自室で王子セイと一緒に穏やかな午後を過ごしていた。


しかしその空気を破るように、突然使用人が息せき切って部屋に駆け込んでくる。



「カコ王女! セイ王子! 女王の間へおいでください! 今すぐにっ!!」



 ふたりは使用人のただならぬ形相に驚き、階下の女王の間へ急いだ。









 そこには闇の神シュヴァルツと対峙するカコの両親がいた。


周囲はシュヴァルツの力で薄暗い室内がより一層暗く、闇に飲まれている。



「お母さま! お父さま!」



 カコは駆け寄ろうとするが


それに気がついたシュヴァルツが腕をひと振りすると闇の壁が現れ、カコは弾かれる。


セイはとっさにカコを抱きとめた。



 シュヴァルツは氷のようなまなざしでふたりを一瞥すると、またカコの両親に向き直った。



「シュヴァルツさま……お慈悲を、どうか!」

 


 カコの父は震える声で言うがシュヴァルツは手を前にかざした。


すると手からは闇の物質『タナトス』があふれ、カコの両親を見る間に包む。


両親は気を失い、そのまま倒れた。



 カコは血相を変えてまた駆け寄ろうとしたが、セイは引き戻す。



「カコ姫、今は近づいてはだめだ!」



「でも! お母さまたちが……!」



 セイは鋭くシュヴァルツをにらむと叫ぶ。



「闇の神シュヴァルツよ! なぜここに現れた――用があるならこの僕に言え!」



 シュヴァルツは振り返ると、静かに言った。



「お前たち人間の度重なる愚かさによって、ヴァイスは消えようとしている。


われは人間に失望した。


ヴァイスもろとも、この世を無に帰すときがきたのだ……


まずはお前たちから消えるがいい」



 その言葉にふたりは息を呑む。



「……ヴァイスが……消えるだと?」



 セイはつぶやくと、カコは潤んだ海色の瞳でシュヴァルツを見据えちいさな声で言う。



「ならば……わたくしたちでヴァイスを救うしかありませんわ、セイ」



「……カコ姫」



「ニザベリル家は、古来よりヴァイスに使えてきた身……


そのヴァイスが消えようとしていることに気づけなかったのも、ニザベリル家の責任ですわ。


それにこのまま国民を死なせるわけにもいきません」



 シュヴァルツはカコたちに向かって手をかざし、今にもタナトスを放とうとした。


だがカコは恐ろしさを押し殺し、凛とした表情で叫ぶ。



「そんなことはさせません! わたくしが必ず、ヴァイスを救ってみせます! 


命をかけてもいい……ここに約束しますわ!」



 シュヴァルツは眉をひそめ、かざしていた手をおろすとにやりと笑う。



「命をかける、か。おもしろい……ヴァイスの御使いよ、最後の猶予をやろう。


だが忘れるな。


たった今からわれが “ただ見てるだけと思わない方がいい”


もし復活させられなければこの愚かな王妃と王は殺す。


そのときが同時に、お前たちの世界が終わるときだと思え」



 それだけ言い残すと、シュヴァルツはカコの両親とともにその場から姿を消した。







◇ ◇ ◇







 カコはそこまで話し終わると、ふたりは言葉を失った。しばらくしてミライがその沈黙を破る。


「じゃあカコちゃんの両親は……囚われているっていうの?」



 ミライが恐るおそる言い、カコはゆっくりと頷く。



「でもシュヴァルツがどこにいて、わたくしの両親が今どうなっているかは……わかりません。


それは今、シー王国でセイが調べているはずですわ――


だからわたくしはなんとしてもエレメントジュエルを集めて、


ヴァイスを救う力を手に入れシー王国に持ち帰らなくてはいけないのです」



「 “ただ見てるだけと思わない方がいい” ……か。


じゃあシュヴァルツはカコを何らかのかたちで妨害してきてもおかしくなさそうだな」



「ええ、恐らく……そうかもしれません」



 カコは思案顔で言う。



「ならさっきのしのびの民も……シュヴァルツが関係しているのかな?」



「考えられなくもない。どうやってシュヴァルツが関与しているかはわからないけど……


さっきのやつの目の色は、尋常じゃなかった」



 リジュは先ほど見たしのびの民の真紅の目を思い出していた。



 カコは真剣に話し合うふたりを申し訳なさそうに見つめる。ミライはそれに気がついてニコッと笑いかけた。



「そんな顔しないで、カコちゃん。絶対にわたしたちがカコちゃんを守るから!」



 リジュも力強く頷いた。


カコは今にも泣きそうになりながら、か細い声で「ありがとうございます……」と頭を下げた。

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