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1. 水底の空

 遠い昔、広大な海底に空間をたもった大陸が広がっていた。



 闇の力を持つ男神『シュヴァルツ』に支配される暗闇に包まれた海底の世界に、


ある時シュヴァルツの体からひとすじの光が現れると、


光の力を持つ女神『ヴァイス』が生まれた。



 その瞬間海底世界は光に包まれ、一部の大地が浮かびあがった。



 こうして世界はふたつに別れ、


海底の王国『シー王国』と陸上の王国『グラウンド王国』が誕生したといわれている。







◇ ◇ ◇







 ゆらりとたゆたう水底みなそこの空は、外界から注ぐわずかな光でチラチラときらめく。



 シー王国の空は、とてもさみしい。



 体にはりつくような寒さの中ひとりの少女と少年は小高い丘に立っていた。



 丘からのぞむ黒くしけた海からは岸壁に打ち寄せる荒波の音が地鳴りのように響き、


強く吹きつける潮風がお互いの髪と衣服をみだしている。



 ふたりは信じ合うように見つめ合った。



「そろそろ、わたくし……まいりますわ」



「…………」



 少女は風にみだれる豊かなライトブルーの髪をおさえてすその長いドレスをたくしあげると、


そばにあった銀色の楕円形をした装置に乗り込もうとする。



それは空を飛ぶためと水中を潜水するための仕組みをしていたが、


少女ひとり乗るのがやっとの大きさのようだった。



 少女の足もとを一匹のトラ柄の子猫がすり抜け、装置のちいさな扉の前に座る。



 少年は無言で扉を開けてやった。



 少女は少年の様子に目を細め、花のように微笑んだ。



「そんな顔をなさらないで、セイ。わたくしは大丈夫。きっと目的のものを得て、絶対に戻ってきますわ」



 セイと呼ばれた少年は、うつむいて何かに耐えるかのように歯をぐっと食いしばる。


風にみだれるつややかな美しい金髪が、その顔を隠した。



「あなたをこんなに危険な目にあわせなくてはいけないなんて……僕もあなたが戻るまで、この国を守ってみせます」



「頼もしいですわ」



「……どうかご無事で」



「ええ……あなたも」



 少女は装置に乗り込むと身を乗り出し、少年とやさしく口づけをかわした。



 それから少女は装置の中に体を滑り込ませ、ちいさな扉を閉めた。

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