塵姫の始まり
約10分前に出来た、できたてホヤホヤです。
骸、骸、骸。1面に広がる棄てられた無数の人型たち。仄かに、VRドライバーよりプレイヤーから刻まれた意思を宿し、しかし動けぬ体は徐々に世界から消されていく。
変化が投じられる。舞い降りた黒い塊は、神からの贈り物か、或いは悪魔の囁きか。骸はただ、それを受け取り──
◇◇◇◇◇
目が覚めると眩い光が視界を覆う。一瞬、混乱したが思い出した。私は【人魔大戦外伝 Grate War Online】の世界に来たのだ。
いざ冒険へ出ようと足を進めようとしたその時、天使の梯子が眼前に純白の衣を纏った女性が空から舞い降り、
「すみません、申し訳ありませんが貴方のお名前を教えてください。」
と、少女に問いかけた。
同時にPNの入力欄が少女の眼前に現れる。
──最初のキャラクリで決めたはずなんだけど、バグかな?
さっさと冒険に出たかった少女が即興で考えた『100オニギリ』というPNを入力すると「100オニギリ、素晴らしい名ですね。」と女神は感慨深く呟く。
「いや、適当に考えたのですが……。」とは言えるはずもなく、
「貴方がこの世界で何を為すのか、天上より見させてもらいます。」
そう言い残し女神は天に帰っていった。
──確認するか。
「ステータスオープン。」
少女──100オニギリが右手を正面に向け、仰々しく叫ぶと半透明な板──ステータス画面──が出現した。
PN:100オニギリ
Lv:1
種族:塵塚怪王(付・鬼・怨)
職業:魔将軍
[ステータス]
H:50❲+12350❳
M:50❲+3475❳
A:130
B:70❲+5❳
C:110❲+20❳
D:50❲+5❳
S:135❲+70❳
L:110
技術スキル:刀術、火妖術、風妖術、土妖術、見切り、式神使い、統率
種族スキル:塵吸収、風化、塵王流毀刃刀術、付喪王、脆弱性・打、脆弱性・火、脆弱性・聖、回復反転、鈍刃
取得した技:
刀術[袈裟斬り、燕返し、飛刃、流し斬り]
火妖術[鬼火、陽炎]
風妖術[追い風、鎌鼬]
土妖術[土壁、地均し]
統率[逃げの陣]
塵吸収[塵拾い、再利用]
風化[風化纏い]
塵王流毀刃刀術[五閃 朽廃]
称号:付喪神殺し
アイテム:無し
装備:ボロボロの和服、腐った草履
吸収物:棄てられた骸×115
「……なにこれ?種族は確か……ランダムで選んだ…………はず?選択スキルは……変わってる…気がする。」
PNの事といい、何かしらの問題が発生している可能性もあるが100オニギリは続行することにした。
「えーっと、ステータス……右が補正による上昇分?ATTACKとかM・ATTACKはスキル補正と職業補正かな?HPとMPは……塵吸収、吸収物。」
何かを察した100オニギリはスキル『塵吸収』の詳細を即座に開いた。
──種族スキル:塵吸収
塵を吸収することでHPやMPの強化、技術スキルの習得ができる。また塵を式神として分離することができるが、ステータス補正やスキルが減ってしまう。
「めっちゃ処理が重そうなスキル付いてる……もしかして、不具合で私の記憶飛ばした?。」
運営に文句を入れるのは既定事項として、明にバグっているこのアバターをリセマラをするかこのまま続けるかだが──
「……何か問題が起きたら、『記憶障害のせいでおかしくなった』って事にして、運営に責任を丸投げするか。」
100オニギリはそのまま続行することにした。
◇◇◇◇◇
その後、100オニギリは装備を整えるために、まずは国を見つけようと森を歩き回っていたのだが、
「何ここ?」
見回す限りの瓦礫、瓦礫、瓦礫。木々は煙を上げ、地面には赤い雫が垂れた跡が残っていた。
「──誰……か…居るのか?」
瓦礫の一角から声が聞こえた。
「……大丈夫……では無さそうですね。」
近寄ってみると、瓦礫の隙間から赤く染まった腕が伸びていた。
「すみません、私は貴方をそこから出す手段はありませんが回復魔法はポーションは持っていません。」
「いい……この傷では……延命が…限界。……この奥に領主と……民が居る。……無事か…か…にん。」
言葉が途切れ静寂が訪れた。ただパチパチと燃える音が響き渡った。
「……塵吸収」
そっと瓦礫に手を伸ばすと、全てが裾の中に吸われ姿を消した。
報告:『瓦礫の山』を入手しました。
報告:『NPCの死骸×6』を入手しました。
報告:スキル❲鍛冶❳、❲木工❳、❲彫刻❳、❲彫金❳、❲料理❳、❲革加工❳、❲整備❳、❲並列思考❳、❲お絵描き上手❳❲元気いっぱい❳を新たに入手しました。
「……瓦礫の山と死骸は別なんだ。」
少しズレた部分に引っかかりを覚えながらも、100オニギリはステータスを確認してみた。
H:50❲+15470❳
M:50❲+3730❳
「MPの伸びが渋い?いや、瓦礫だとMPは伸びないのか。」
補正値の変化を確認し終えた100オニギリは移動を再開した。
──それから2分ほど経ち、木が焼き尽くされたのか異様にひらけた場所に100オニギリは辿り着いた。
「ん?今音が──」
「お主、ドラゴンの仲間か?」
「──随分と手荒い歓迎だね。」
後ろから草が擦れる音を聞き、100オニギリは振り帰ろうとしたがその前に、首に鋭い鉤爪が添えられた。
「攻撃の意思はありません。」
事情が丸っ切り分からない100オニギリは、ひとまず攻撃の意思がないことを示すため両手を挙げた。
「ドラゴンの仲間か?」
100オニギリは冷めた視線を後ろから感じた。その視線には質問に答えろという意思が籠もっていた。
「違います。」
「何ゆえここに?」
「……道中で会った人に領主と民の様子を見てきて欲しいと頼まれたので。」
「…………こちらに振り返れ。」
指示された通り振り返ると──
「……ガーゴイル。」
「そうだ我こそは『カオスパレイド大帝国』の領主にして守護者、ダイヤフル・ガディアン3世だ。」
凛とした雰囲気を纏った、額に窪みがあるガーゴイルが佇んでいた。
「何の用でしょうか?」
100オニギリの頭に思い浮かんだのは疑問だった。
「最初は逃げそびれたドラゴンの仲間かと思って殺そう思っていたがな。お主ならば今の我を倒すのも容易いであろう?」
額の窪みを指しながらガーゴイルは石で出来た顔を自嘲の笑みへと変える。よく見ると、窪み付近はひび割れていた。
「それでも手を出さぬということ敵でもなかろう。少し頼みがある。」
「何?」
「今の我にはこの国を護るだけの力がないのでな、貴様にはこの国の領主になって貰いたい。」
「私、国の運営なんて知らないよ?」
「安心しろ、我は国境警備と法の制定、犯罪者の粛清しかやっておらん。それさえ出来れば民は何も口出しせんわ。とは言うものも、我は完ぺきに信用してないのでな、逐一報告はしてもらおうぞ。」
「……ん~。」
──ドラゴンが何故逃げたのかとか、話してないこともあるよね。そもそも、領主になるということはぬけぬけと冒険できなくなる訳で……でも──
100オニギリの脳裏に瓦礫の山と、その中に埋もれた人物との会話が思い浮かぶ。
──どうして彼はあの中に居たんだろう。彼は他の国民が領主と一緒に居たことを確信していた。何故、彼も領主の所に行かなかった?私が取り込んだ残り5人は誰?国民に聞けば分かるのかな?彼の心が、人の心が、だったら──
「──分かりました。その役目、私が譲り受けます。」
ここに、カオスパレイド大帝国の新たなる領主が誕生した。
◇◇◇◇◇
「──という訳で、国外から来たであるスモモトリさんが招いたピーレイが暴れたとなると色々面倒なのです。なので、ピーレイには私が数日前に雇った"住み込みの傭兵"ということで押し通します。」
「……レッドネームに指定されたのはどうするんですか、領主様?」
ハルトから至極真っ当な質問が出た。果たして、百々の答えは
「……………………、明らかに公衆猥褻罪な服装で居住区に入ったので教育を兼ねてレッドネーム指定した事にしましょう。」
「流石にそこまで過激な服装ではありませんわよ。ねぇ?リーダー。」
「そうだな、ならちゃんとした防具を着ないとな?変態烏賊れ女。」
「ねえ、ちょっと──」
「では失礼します。」
「俺も仲間に説明しようと思うのでご一緒させていただきます。」
「私の意見を聞いてくださいましー!!」
ピーレイを無視し、ハルトと百々の式神は面会室を後にした。
・ピーレイちゃん無視されてんの草
・変 態 烏 賊 れ 女
・結局、この牢獄何処の国なん?
・さあ、知らんね
・あんな奇抜な見た目の領主プレイヤーおったら話題になるやろ
・俺はあれは使い魔で中身は超絶美少女である事に花京院の魂をかけるぜ
・俺は金を借りパクした友だちの魂をかける
・私刑で死刑にしようとしてて草
・俺はミジンコの魂をかけるぜ
・あの使い魔、式神の方が近くないか
「──えーっとこれにて牢獄からの配信を終わりますわ。」
・囁き声助かる
・ガチ恋距離助かる
・今日はこれでイこう
・冷静に考えてなんだよこの配信
・お疲れさまー
・お疲れ
・お疲れー
・乙カレー
・誰か来た
・タイトルにあるだろ、『お巡りさんに、捕まりましたわー!!』って
「お疲れ──」
「誰が配信していいと言った……。」(⌒▽⌒)
「あっやっべ。」
報告:カオスパレイド大帝国の領主より、レッドネームに加えられました。
・おつおつ
・次も楽しみやでー
・お疲れ
・あ
・は
・あ
・あ
・えっ
・ちょっ
・こわ
・どゆこと
・許可いるん
・ピーレイ?
・何やってん
・あー
「メガトンキャノンブレイク」
「あっ」
ズドオオォォォン!!!!
・ええー!!
・すご
・何今の?
・大砲
・ロマン砲ブッパ
・裾から大砲が
・何本出してんだ
・多すぎやろ
・ロボットロリ!?
・20はあったぞ
これは発売から3ヶ月、未だに盛り上げを見せるこのゲームにとある配信者が殴り込みをかける物語である。
注:2人に話したのは瓦礫に埋もれた人を見つけた所からです。分かりにくい書き方をしてしまい申し訳有りません。