10.不思議ナ魔力
「キョウ?!」
俺は思わず叫んだ。
キョウがまたがっていた蛇の魔物が縮んだのだ。
そして血に飢えた魔物の中に倒れこむ。
落下地点には広がったスライムがいて・・・
「嘘だろっ!」
俺は近接には向いていない体を魔物の海に投げようとして思いとどまる。
(俺まで死んだらだめだろ!冷静になれ!)
視界がいきなりフラッシュした。
目が光に慣れると超常現象が起きていることが分かった。
現実世界では絶対にありえない。
人が浮いている。
スライムに喰われたはずのキョウが。
小さな卵蛇はキョウの首にとぐろを巻いている。
まず最初に自分の目を疑った。
あちらの戦闘が終わったのか、ジンが駆けてきて、俺に声をかけた。
「何が起きているんだ?!」
アイも後ろから来て、魔物を見たのかうげぇっという。
返り血まみれのアイも俺から見たらうげぇなのだが。
「わからないけど、キョウは生きてた!」
「死にそうになったみたいな言いざまだねー。話を聞かせてもらおうかー。」
「後にしろ。今はこっちを見るんだ。」
俺に詰め寄ろうとしたアイの首根っこをジンがつかみ、キョウの方を見る。
ムスッとしたアイもそちらを向くと、キョウから無機質な音が出てきた。
キョウの声なのだが声じゃない。
頭に直接響くような、そんな音だった。
『マスターの戦闘不能を確認。命令により、魔物の殲滅を開始いたします。』
ボロボロのナップサックから魔導書が出てきて、キョウの手に納まる。
そしてキョウから濃密な気配が噴き出す。
(これは、魔力?!なんて濃い・・・)
俺は一度魔法を使っているから魔力の感覚というものが分かる。
キョウが言っていた他の人に駆け巡っている温かい気配は魔力だろう。
魔力は見えなくても魔力を持つ者を威圧する。
俺たちはしゃがみこんだ。
『精霊魔法:全 星の軌跡』
魔力の塊が流れ星のように魔物へ降り注ぐ。
当たっていないから分からないが、苦戦するような大きな魔物が一撃でやられていく。
一粒一粒が当たったら致命傷だ。
あっという間に魔物がいたところにクレーターができる。
流れ星は刈り取った魔物の魂?を宿し、キョウのもとに移動する。
「?!」
キョウの背後に異空間が開く。
この世界にいる人の魔力を合わせてもこれには追いつかないのではと思うほどの魔力があふれ出し、そこに流れ星は飛び込む。
魔力酔いの第一症状が出たのか、愛が倒れる。
俺には魔法を使った瞬間、魔力の知識が脳内に流れ込んできたからある程度の事は知っている。
俺たちにも魔力酔いが出そうだ。
胃がぐるぐるする。
前を向いたままジンとうずくまると、キョウの後ろからゴリッと音がした。
おぞましい音に瞠目すると、異空間が閉じたり開いたりと魂を咀嚼していた。
唖然として、見ていると飲み込んだかのように異空間が消える。
そしてまたキョウから無機質な音が流れ出す。
『敵の殲滅を完了 マスターの命令 人間の回復』
そのキョウは少し沈黙して、品定めするようにこちらを見た。
優しげないつもの視線(あくまでマルトの主観です)はなく、上から見降ろされていた。
『・・・精霊魔法:全 癒しの軌跡』
村を暖かな光が包み、俺たちについていた傷が消えていく。
魔物は復活しないから、死者は生き返らないようだ。
ジンがそれを見て悲しそうな顔をしている。
「・・・誰か亡くなった?」
「やっぱわかるんだな、シロがやられた。」
さっきアイに聞いた。とジンが付け足す。
『はぁ 治癒完了 マスターの命令ゼロ 』
一瞬人間らしいところが見えた気がする無機質なキョウはクレーターの中心に降り立つ。
『魔力ゼロ これより休眠を開始いたします』
そういう音が聞こえたのを最後に糸が切れたかのように崩れ落ちる。
「何だったんだよ、今の」
「あー他のメンツへの説明どうすっか」
もーめんどくさいというかのように俺は眠るキョウを回収して他の人の場所へと戻った。
ストックがある限りは毎週金曜日に更新予定なので、見てくれると嬉しいです。
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