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プロローグ 4 アン王女

 執務室にて――


「サイラス様をお見送りしてきました」


「うん。ご苦労さま」


 見送りに出ていたミセス・アランが戻ると、アン様はペンを止めて労った。


「それにしても、あの方の来訪、どうにかならないものでしょうか?」


 ミセス・アランが言った。


「ん? どういうことだい?」


「急に来られても迷惑だと申し上げているのです。いつもいつもなんの前触れもなくやって来られるものですから、満足におもてなしもできず……これじゃあ私たちがまったく気の利かない集団だと思われてしまいますわ」


「そうかい? でも彼はそんなことまったく気にしていないようだけれど?」


「あちらが良くても、こちらが良くないのです。摂政家の御令息様(ごれいそくさま)が来訪なさったと言うのに、ろくにもてなしもできなかったなんてことが外に漏れれば、アン様の沽券(こけん)に係わるじゃないですか」


「ううーん……そう言われても、ボクもそう言うことはあまり気にしないし……」


 どうやらアン様は、この件についてあまり興味がないらしい。

 確かに、相手が気にしていなくて、自分も気にしていないのなら、この話はこれで終わりそうなものだ。

 しかしミセス・アランは、そんなアン様の態度に何か来るものがあったようで、


「貴女が良いかどうかではなく、世間がどう思うかと言う話をしているのですっ!」


 ミセス・アランはとうとう怒りを爆発させた。




「大体私日頃から言ってませんでしたか!? ここではどのような格好をしようと構いませんから、せめて外に出る時ぐらいは王女として相応しい恰好、振舞いをなさってくださいって! それなのに貴女ときたら、私の忠告なんてお構いなしに好きな格好で出歩くものだから、第八王女は王国始まって以来の奇人だとか稀代(きだい)の変人だとか、陰に日向(ひなた)に言われ放題じゃないですか! 少しは御兄姉方(ごきょうだいがた)を見習われたらどうなのですっ!」


「ええ!? あ、いや。うん……そう言われるとボクも辛いのだけど……」


「辛いと思われるのでしたら今日からでも改めてくださいっ! まったく、私が屋敷を空けたと思えば、コソコソと街に出かけたりして……」


「いやあ……別にそう言うつもりでやっていた訳じゃなかっ――と言うか、ちょっと待ってくれミセス・アラン。もしかしてキミ。キミが屋敷を空ける度にボクが街に出ていたの、キミは知ってたのかい?」


「当然です! むしろなんで気付かれないと思ったのです?」


「ええっ!?」


 隠し通せていると思っていた秘密が、実はちっとも秘密になっていなかった。そのことに、アン様は驚きを隠せなかった。


「そ、それじゃあ何かい? キミは、ボクが街に出る度に裏路地の怪しげな露天商に捕まっちゃあ、ワケの分からない物を買わされているのも知って……?」


「当然です。アン様が今首から下げていらっしゃるそれ(・・)。そんな物を王宮の御用商人が持ってくるはずありませんし、そのぐらいのことは分かって(しか)るべきです」


嗚呼(ああ)……なんてことだ」


 アン様はミセス・アランの慧眼に感嘆した。


 ちなみにミセス・アランが言っている「アン様が首から下げているそれ(・・)」とは、飛竜っぽい生物が剣に絡みついている意匠のシルバーペンダント。


 そりゃあ、そんな13~4歳の男子が喜びそうな物を御用商人が持って来たりしたらある意味大問題だし、別にミセス・アランじゃなくてもどっかで買ったなぐらいのことは分かるでしょうよ。


(アン様って時々変……じゃなくてユニークな趣味してるのよね。しっかりしてるようで案外抜けてるところもあって……ああ! てぇてぇなあもう!)


 わたしはそんなアン様に心が震えるのを感じた。

 こんなに愛らしい人がわたしの主人だなんて、わたし前世でどんな徳を積んだの?


「てことは何かい? 最近ボクの食欲が落ちているのは、以前出かけた時に屋台で出会った霜降り牛肩ロース風炭火串焼きの味が忘れられないせいだと言うことも知っていたと言うのかい?」


「は? ……と、当然です。最近アン様の食が細くなられていることは婦長として当然把握しておりましたし、ですからその……し、霜ふり……串焼き? が恋しいのだろうと言うことも、私は当然知っていましたとも」


 ミセス・アランはふんと鼻息を荒くした。


 本当かなあ? ちなみにわたしは、最近アン様の食欲が落ちていたなんて全然知らなかった。

 でもまあ、確かにあの時食べた霜降り牛()のお肉はまあまあ美味しかった。

 普段食べないB級グルメに舌鼓を打ったアン様が、ふとした拍子にあの味が恋しくなったって無理はないかも。


(んふっ、そんなに美味しかったんなら、このわたしがまたいくらでも連れてってあげますとも)


 思っていた以上に好評だったと知ったわたしは一人でニンマリ。

 庶民出身のわたしにしてみれば、あんな屋台の一つや二つ案内することぐらい、紅茶を正しい手順で淹れることよりも簡単なこと。


「てことは何かい? ――――」

「当然です。――――」

「なら、もしかしてこの秘密も? ――――」

「当然です。――――」


 わたしがそんなことを考えている間も、アン様はずうっとミセス・アランを質問攻めにしている。


 と言うかね。

 アン様はどうしてさっきから自ら率先して秘密を暴露しているの?

 ミセス・アランに隠し事は出来ないんだとか観念したのかも知れないけど、わたしの見立てじゃ、ミセス・アランが知っていたのはアン様がこっそり街に繰り出していたことだけだったんじゃないかと思うのだけど……


「――てことは何かい? ボクがお忍びで街に繰り出すようになったきっかけは、以前キミたちがみんな出払ってしまってウイン(・・・)と二人きりになった時、彼女に誘われるがまま劇場に遊びに行ったことだったってことも知って――」


「当然です! ――って、なんですかそれ?」


「アン様ストーップ!」


 それ以上いけない。わたしは慌ててアン様の口を塞いだ。


【登場人物とか】

アン王女   ……ローレンシア王国第8王女。ボクっ娘15歳。星彩の花

サイラス   ……ヘーゼル侯爵家嫡男。オレ様系18歳。文武両道

わたし    ……アン王女のメイド。隠れアン様オタク

ミセス・アラン……アン王女の婦長。アラサー

バスティアン ……サイラスの執事。年齢不詳の銀髪眼鏡


ローレンシア ……西の方にある小さな島国


【更新履歴】

2024.1. 4 新規挿入

2024.2.13 微修正

2024.5. 6 微修正&冗長だったので、後続のエピソードを削除しました


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