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3.7

 たとえこの身が朽ち果てようとも、アン様をお守りしなければ。


 そんなわたしの懸念とは裏腹に、演劇会はつつがなく進行していった。

 院長の開会宣言の後に始まったのは、以前からこの修道院にいた修道女たちによる典礼劇。

 次に始まったのは、同じく修道士たちによる別の典礼劇。

 そしてその次に始まったのは、修道士と修道女が合同で演じる典礼劇。

 更にその次の演目はやっぱり典礼劇で……


「あちゃ~」


 舞台袖からこっそり客席を監視していたわたしは、そのあんまりすぎる構成に思わず目を覆った。


 典礼劇に次ぐ典礼劇。そんなの一体誰が喜ぶのか。

 こういったお祭りの時は、もっと大衆の嗜好に寄せたエンターテインメント系の演目で勝負しなきゃいけないのだ。

 それなのにあの修道士たちときたら、典礼劇の中でも特に説教臭さが鼻につく演目ばかりを好んで演じている。


「そんなんだから何の役に立ってないって言われて予算削られたの分かってんのかしらね?」


 嘆息したわたしは、けれどほくそ笑んだ。

 なにしろここで少しでも劇場内の人数が減ってくれれば、誰が刺客なのか特定しやすくなる。

 台上で一生懸命にやている彼らには悪いけど、今は少しでも多くの観客を退場させてくれた方が、こっちにとっては好都合なのだ。


 と、少しばかり不純な動機で彼らの応援を始めたわたしは、客席の様子を窺った。


 この中にアン様を狙う刺客がいる。


 情報をリークしてきたあの執事がそう言ったわけじゃないけど、木を隠すなら森って言うし、もしわたしが刺客なら、間違いなく観客の中に紛れてチャンスを窺うだろう。

 とは言え……


「むむむむ……」


 わたしは唸った。

 いくら人数が減ったとは言っても、まだまだ観客は多い。

 刺客が潜むとしたら舞台の近くだろうという憶測はつくけど、そこだけを注視してもし違う場所だったりしたら目も当てられない。

 せめて、刺客なら刺客らしく全身真っ黒で目だけギラギラと光ってるぐらいの特徴があればよいのだけど。


「むむむむ……――て、ええええっ!?」


 刺客の特定に苦難していたわたしは思わず声を上げた。その声に演目が一瞬中断し、観客の注目もこっちに集まってくる。


 しまった! ――あわてて口を覆って顔をひっこめるわたし。


 いや。でも今のは何? 明らかに他の客とは違う人が客席にいた。


 そう。

 それは、


「今のアン様よね? あの人何やってんの?」


 アン様だ。

 アン様は一体いつの間に客席に移動していたのか、一番後ろの席からこのクソつまらない典礼劇を観劇していたのだ。


 舞台上では演者たちが、わたしのせいで中断してしまったセリフをもう一度最初から言い直している。


「……」


 わたしは訝しんだ。

 なぜアン様はあんなところに?

 アン様のすることは往々にして突飛に映ったりするけれど、それにしたって不可解だ。


 もしかして他人の空似? そう思ったわたしはもう一度舞台袖から覗き見ようとした。

 けれど、そんなわたしの肩に手を置いて引き留めた人がいて、


「出番はまだ先だと言うのにあれだけ注目を集めるなんて、キミもなかなか大胆なことをするねえ。でもここはまだボクたちの舞台じゃない。そんなに目立っては彼らに失礼じゃないかい?」


「はい……」


 そう言われてシュンと反省するわたし。

 あれは完全にアクシデントだったとは言え、彼らの劇を中断させてしまったのは事実。

 でもそれを他でもないアン様に言われてしまうと、わたしも落ち込まずにはいられなくて――


「え?」


 わたしは目を剥いた。

 舞台袖から頭を出そうとしたわたしを止めたのはアン様だったのだ。


 アン様? なんで? 今あっちにいたんじゃ??


 混乱するわたし。

 あっちを向いて、こっちを向いて。と、交互に二人のアン様を見比べてみる。

 けど、生憎とここからじゃ客席のアン様を確認することは出来ない。


「どうしたんだい? キミらしくないつまらないミスじゃないか」


「いや……あの……ア、アン様に似てる人が客席にいて。あんまり似てるからビックリしちゃって……ア、アハハ……」


「へえ。そんなに似てるのかい? どれ。そう言うことならボクも……」


「あーあーいけません! アン様が顔を出したら今度こそ舞台が台無しです」


 興味本位で客席を覗こうとするアン様を、わたしは止めた。

 客席のアン様が何者なのかは知らないけれど、この劇場内に刺客が潜んでいる以上、本物のアン様を不用意に人目に晒すのは良くない。

 それに、アン様みたいな超絶美形が不用意に顔を出したりなんかしたら、もう舞台どころじゃなくなるのはその通りなのだ。


「それもそうだね。たった今キミのことを嗜めておきながら、自分自身はいいだろうだなんて……ハハハ。ボクもまだまだ研鑽が足りていないか。それじゃあボクは楽屋に戻るけど、キミは?」


「わ、わたしはここから劇を見てますので」


「ふうん。本当にキミも好きだねえ。それじゃあ」


 アン様はカラカラと笑うと、暗がりへと消えた。


はよ完結させなとは思ってるんですけど、なかなか〆られなくて……


頑張ります。


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