3.6
「レディースエーンドジェントルメン! 大変長らくお待たせいたしました! ただいまよりノースケイプ修道院主催、チャリティー演劇会を開催いたします!」
アボット院長の司会の元、演劇会は開演した。
意外なことに観客席は満員御礼。数百人は入るホールがほぼ埋まっている。
舞台袖からこっそりと会場の様子を覗いたわたしは、その光景に驚きを隠せない。
「ノースケイプの人って基本異教徒じゃ……いや。それは昔の話だっけ?」
どちらにせよ敬虔な国教徒はほぼ皆無のこの地方で、教会のイベントに人を呼ぶのは容易なことじゃない。
今回のチャリ―ティ演劇会。宣伝集客といった雑務はすべて院長が請け負っていたのだけど、一体どんな魔法を使えばこれだけの人が集められるのか。
「うう~ん、やられたな……」
わたしは唸った。来ても精々50人やそこらだろうと思っていたのに、この盛況ぶり。
あの執事の警告が本当なら、これだけの人がいる中でアン様を守らなければならないことになる。
そもそも、どうしてあの院長がアン様の命を狙う必要があるのか?
執事から貰った警告文と舞台上の院長を交互に見てみるけれど、どうしてもつながりが見えてこない。
あの院長は、普段から卑屈なくせに偉そうで、「小物の見本」みたいな人物だ。
そんなやつが、表向きは王籍を外されているとは言え、アン王女の命を狙うなんてちょっと考えられない。
せめて、どうして院長がアン様の命を狙うのか、そこも教えてくれればよかったのだけど、それをあの執事は……
「あンのクソ執事……なーにが『なら信じなきゃいい』よ! 知ってることがあんなら全部教えろっての!」
わたしはこっそりと執事を探した。いた。貴賓席のサイラスの斜め後ろに、すまし顔で控えている。
アン様の護衛に手を貸すつもりがあるのかないのか、その様子から窺い知るのはちょっと難しい。
「ま、いいわ。アン様をお守りするのはいつものことだし、気を引き締めていくだけよ」
そう思い定めたわたしは、控室に戻った。




