3.4
チャリティー演劇会の開催が決まって以来、わたしたちの日々は激変した。
「はい。ワン、ツー、スリー、フォー。ファイブ、シックス、セブン、エイト――」
アン様の方針で、ただでさえ億劫だった演劇をミュージカルに変更させられたのだ。
その一方で、アン様だけは財務官と言う本来の仕事を棚上げし、いつになく目を輝かせている。
こんなにも主従の間にギャップが生まれたのは、わたしの知る限り初めてのことだ。
「はいストップ! うん。だいぶ仕上がって来てるじゃないか。でもそこはもっと溜めを作って、こう! 観衆を引き付けるには溜めが必要だよ」
「は、はい」
弾む息を整える暇も与えてくれないアン様に、わたしはどうにかこうにか頷いてみせる。
「いいよ! でもキミならもっと上を目指せるんじゃないかい? そこでだ。たった今ボクが考案したこのセリフを――こうこうくるっと回転しながら言ってみるというのは――」
「は、はあ……」
急な振り付け変更に戸惑いながらも、一応従ってみる。
「そう! それだよ! しかし……やっぱり今のセリフはもっとドラマチックなものに変えた方がいいかな……いや。いっそのことシーン全体を変えてしまったほうが……」
「……」
もうお好きになさってくださいな。――散々やらせておいて結局全部ひっくり返そうとするアン様に、わたしは黙りこんだ。
アン様の演劇好きは、わたしがアン様を劇場に連れ出したのがきっかけだけど、まさかここまでのめり込んでいたなんて。
(あー、あの時はアン様がいれば、VIP席に無料で入れると思ってたんだよね……)
まああの時は、お忍びでやってきたアン様のことを劇場スタッフが認識できず、2等席チケットを2枚、わたしの自腹を切る結果に終わったのだけど。
返す返すも若気の至りだ。アン様のことを優待チケット程度にしか考えていなかったなんて、当時のわたしをぶん殴ってやりたい。
「うん。やっぱり物事はシンプルに進めるのが一番かな。今言ったことは全部忘れて最初の状態に戻そうじゃないか。さ、そうと決まったら練習の続きだ」
「……はい」
結局、その時の報いが今に返って来てるんだろうな。そういうふうに納得したわたしは再び踊り出した。
◇◆◇◆◇
そんなこんなで、熱血に情熱を掛け合わせたような稽古の日々はあっという間に過ぎて行き、演劇会当日の朝の修道院――
「サイラス様がいらっしゃってます」
「うわあ……」
演劇会の準備でみんなが忙しく走り回る中、ミセス・アランの言葉にいち早く反応したのは、比較的暇を持て余しているわたしだった。
あのサイラスのことだから、もしかしたら来るかもなとは思っていたけど、本当に来た。
アン様に嫌味を言うためだけにわざわざこんな田舎まで来るなんて、法務省ってそんなに暇なの?
「おい。またバカなことを考えたらしいな。まったくお前と言うやつはどこに行っても変わらんな」
こちらが「はい」とも「いいえ」とも言わないうちから部屋に入ってくるサイラスとそのお付き。
「「ヘーゼル卿! わざわざのお越し痛み入るよ! 今日はボクの初舞台を見に来てくれたのかい?」
「バカ言え。誰がお前のしょうもない猿芝居なんぞのために貴重な休暇を使うものか。ここに来たのは、近々法務省の支局をこの地に立ち上げることになったから、その下見だ。でなければどうして誰が好き好んでこんな田舎に来るものか」
「うんうん。なんにしてもよく来てくれたよ!」
まったくアン様も、こんなのの一体何がいいのか? ――サイラスの手を取って喜んでいるアン様に、わたしはモヤモヤした感情を抱かずにはいられない。
すると――
「おい……」
「はい?」
思いがけず声をかけられたわたしは横を向いた。
するとそこにいたのは一体いつの間に移動してきたのやら、あのサイラスの執事が無表情でアン様たちの方を向いたまま立っている。
「これを」
「?」
よく分からないまま、差し出された物を受け取るわたし。
「やるんなら、早めにな。もっとももう手遅れかも知れんが」
それだけ言って去って行く執事から渡されたのは、小さな紙切れだった。
【登場人物とか】
アン王女 ……ローレンシア王国第8王女。ボクっ娘15歳。星彩の花
サイラス ……ヘーゼル侯爵家嫡男。オレ様系18歳
ミセス・アラン ……アン王女のメイドを束ねる婦長。しっかり者系三十路
アボット ……ノースケイプ修道院の院長。小太りの中年
エラ ……アン王女のメイド。わたしちゃんの後輩
オリバー ……孤児。倉庫の幽霊の正体だった
わたし ……アン王女のメイド
バスティアン ……サイラスの執事。腹黒系
ローレンシア ……西の方にある小さな島国
ノースケイプ修道院 ……ローレンシアの最北端にある修道院
タイトルについて……そろそろ考えようかなあ




