3.2
「君たち! 作業は中止したまえよ! なぜならこれからショウタイムがはじまるからさ!」
「はい?」
いつにも増してキラッキラなアン様の様子に、わたしは作業の手を止めた。
「ショウ……あの、なんです?」
「ショウタイムだよ。show time! ふふふ……これから忙しくなるねえ」
心ここにあらず、といった感じのアン様。そのままわたしたちを放って試案を始める。
この調子じゃ、有益な情報は聞き出せそうにない。
困ったわたしは、アン様の後ろに控えていたミセス・アランに視線を向けた。
「実はね。来月、町の人たちに修道院への理解を深めてもらうための演劇会を行うことが決まったのよ」
「……なるほど」
ミセス・アランの説明に、わたしは納得した。
◇◆◇
それから――
「へえ~え……」
ミセス・アランからことの詳細を聞いたわたしは、思わず胡乱な相槌を打った。
「町の人と交流して理解を深めてもらえれば、寄付を期待できる、ねえ……」
言い分はもっともだ。けど、発案したのが院長ってのが引っかかる。
「遠く王都から修道院のためにやって来た私たちを見て、現状に甘えている自分に気が付いたんですって」
「ウソくさ……」
ミセス・アランが補足してくれた院長の言い分に、かえって本音が漏れる。
どうせあの院長のこと。
先日の「倉庫の幽霊」事件で倉庫の管理責任者としてメンツを潰されたのが悔しくて、とかせいぜいそんなところが本音だろう。
「まあ決まったものはしょうがない、か……それで、わたしたちはなにを?」
気持ちを切り替えたわたしは尋ねた。
院長の真意はどうであれ、寄付を募るために努力すること自体は悪いことじゃない。
そもそも、ノースケイプは元々異教徒の地で、土着宗教が今でも根強く残っている土地柄だ。
そんな場所だから、ノースケイプ修道院は国外にも聞こえた名門にもかかわらず、その寄付は、他の著名な修道院に比べて4分の1にも満たないのだ。
そんな状況が打開しようというのなら、
それに修道院が主催する演劇なら、演者は当然修道士たちがやるだろうし、裏方ならまあ協力するのもそんなに吝かじゃない。
「それはもちろん演者さ! ボクたちは今から舞台稽古だよ!」
アン様の発言に、わたしは固まった。
「……はい?」
「だから演者さ! いいかい!? 舞台と言うものは、汗と涙の結晶! 日々の積み重ねの果てに生み出された努力という名の大輪の花なのさ!」
「えええええええっっっっ!?」
修道院に、悲鳴みたいなわたしの声がこだました。
◇◆◇
「……実はね……アン様たっての希望で、演者は私たちが務めることになったの……」
すべてを諦めたかのような表情で、ミセス・アランが補足した。
「演目は『ゴースト・イン・ザ・ウェアハウス』! 先日の倉庫の幽霊事件をモチーフにした新作劇さ!」
「……本当は聖典の一節を演じる予定だったのだけど、これもアン様が……」
「上演時間は30分! 少し短い気もするけど、これだけあれば主要なシーンは演じられる! 観衆が満足すること間違いなしさ!」
「……本当は10分の予定――以下略――」
「主演は勿論ボクが務める! キミたちの役ももう程度決めてあるから、意見があれば言ってくれたまえ!」
「……不満のある人もいるでしょうけど、終わるまでの辛抱です。どうにか乗り切りましょう……」
あのミセス・アランが珍しく意気消沈していた。
【登場人物とか】
アン王女 ……ローレンシア王国第8王女。ボクっ娘15歳。星彩の花
サイラス ……ヘーゼル侯爵家嫡男。オレ様系18歳
ミセス・アラン ……アン王女のメイドを束ねる婦長。しっかり者系三十路
アボット ……ノースケイプ修道院の院長。小太りの中年
エラ ……アン王女のメイド。わたしちゃんの後輩
オリバー ……孤児。倉庫の幽霊の正体だった
わたし ……アン王女のメイド
バスティアン ……サイラスの執事。腹黒系
ローレンシア ……西の方にある小さな島国
ノースケイプ修道院 ……ローレンシアの最北端にある修道院
タイトルについて……まだ何も考えてないよ?




