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3.1

 倉庫のゴースト騒ぎから1週間が過ぎた。

 いつもの平穏が戻ったノースケイプ修道院の食堂では、再び帳簿の精査追われる日々がやってきたのだった――




「あなたが、野良猫なんかに餌あげてたのは知ってたけど……」


 午後。

 朝からアン様不在の中、それでも延々と続けなければいけない帳簿とのにらめっこにいい加減ウンザリしていたわたしは、気分転換に口を開いた。


「――まさか人間にも同じことしてたなんてね」


 すると、ちょっと席を外そうとしていたエラがピタリ――と、動きを止める。


「――え? まさか。別に怒ってるわけないじゃない」


 そんなエラに、わたしは少し意地の悪そうに笑って言う。


 とは言え、わたしが起こってないのは本当のことだ。

 そもそも、アン様が怒っていないのに、わたしが怒ったってしょうがない。それに――


 わたしは向こうでせっせと床を掃いている、垢抜けない男の子に目を向ける。


「ああいうの、わたしもほっとけないし」


 わたしは真剣に言った。


 彼の名はオリバー。孤児だ。

 実は、彼こそが今回の事件でわたしたちを騒がせたゴーストの正体だった。


 倉庫のゴースト事件の真相は、孤児による窃盗。

 なるほど、こんな寒く厳しい地方の孤児が生きるためには、そのぐらいのことは必要かも知れない。


「でも分かんないのは、どうしてこの子、鍵のかかった倉庫に入れたのかってことなのよね」


 わたしは今回の事件最大の謎を口にした。


 あの夜。倉庫を見張っているわたしとアン様の前で、オリバー君がやって見せた謎の扉すり抜け術。


 今そこで盗った分の弁償としてせっせと働いているオリバー君だけど、あの技だけはわたしたちがどれだけお願いしても頑なに見せてはくれなかった。


「ねえエラ。あなた、なにか知ってるんじゃないの? ゴーストの正体があの子だってこと、最初から知ってたんでしょ?」


「そ、そんなこと言われましてもぉ……」


 後ろめたい事実を突きつけられたエラが困惑して答える。


 わたしとアン様が倉庫に入った時、言動のおかしかったエラだけど、その原因はゴーストのことを知っていたのに隠そうとしたことによるものだった。

 エラはオリバー君ことを知って以来、ネコに餌をあげるのと同じような感覚で彼に施しをしていたらしいけれど、そう言うのはちゃんと周囲と相談したうえでやらないと、こういうトラブルを引き起こす。


「ま、魔法とかじゃないんですかぁ?」


「魔法ぉ~?」


 エラの意見に、わたしは思い切り眉をひそめた。

 

 何回も言うけれど、魔法は貴族だけに許された奇跡の(わざ)だ。

 血統。遺伝。

 その昔、それらの魔法に必要とされる因子が判明すると、貴族たちは魔法を独占しようと魔法省を作った。

 もし魔法因子を外に漏らそうとする者がいたら、それがたとえどんな高位の存在であろうとも容赦なく処断する。

 それが魔法省の主な役目なのだ。


 だと言うのにエラときたら、そこまでして囲い込んだ貴族の特権を、こんな孤児が持っているとか言い出すなんて。


「それ、本気?」


「あの、あの……なら、オリバーさんに直接聞けばいいのではぁ……」


「……そうね」


 わたしはそっちの意見には同意した。そしてまたオリバー君の方を見る。


「……?」


 視線に気づいたオリバー君が困惑気味に頭を下げる。

 わたしはそんな彼に手を振って応えると、またエラとの話に戻る。


「でもね。できないことを言われてもどうしようもないでしょ?」


「あうぅぅ……」


 もういっぱいいっぱいのエラ。


 ところで、なんでオリバー君本人から話が聞けないのかと言うと、実は彼、口が利けないようだったからだ。

 わたしたちが判断できる彼の意志、意見と言えば、「イエス」と「ノー」だけ。


 彼、自分の名前だけは書けたので、呼び方に困ることはなかったけれど、それだけじゃあのすり抜け術の真相を知るには、不足が過ぎると言うもので。


「あ。エラ。あなた、あの子と考えてることが分かる魔法とか使えないの?」


「し、しないですぅ」


 わたしの無茶振りにエラがブンブンと首を振る。


 因みにエラは魔法が使える。なぜなら彼女は、こんなんでも男爵家の御令嬢。一応は立派なお貴族様なのだ。


「わたしが使えるのは一つだけですのでぇ……」


「あー、『月明かりを出す魔法』だっけ?」


「あ。ちがいますぅ。『満月の明かりを室内に届ける魔法』ですよぅ」


 わたしの間違いが彼女のプライドに障ったようで、ぷうっと頬を膨らませるエラ。


 でも「月明かりを出す魔法」と、「満月の明かりを室内に届ける魔法」はなにが違うの?

 どっちでもいいじゃない。どうせ、ほとんど役に立たないことに変わりはないのだし。


 ただ、ここで注意しておきたいのは、エラの使える魔法がたまたま特別しょぼかったわけではないと言うこと。

 実は、低位の貴族が使える魔法は、大半がこんなものらしいのだ。


 特に最下層の貴族ともなると魔法の性質もひどくなるようで、「コオロギの音が良く聞こえるようになる」とか、「考え事をする時に頭を搔くくせがつく」とか……

 そんな魔法、使えるからなんだって話じゃないか。 


「じゃあセンパイは、そのドアをすり抜けた技っていうの、なんだと思うんですかぁ?」


「そう言われると困るんだけど……う~ん……やっぱりそれはないんじゃない? じゃないと、あなたん家の魔法よりも使い道のありそうな魔法を、そこら辺の孤児が持ってるってことになるし。ま、あなたがそれでいいなら、わたしはそれでも別にいいけど?」


「えぇ? うぅ~ん……」


 自分の家の魔法と比較され、唸り出すエラ。


 と――


「やあ君たち! 今日もいい天気だね。それはさておき、作業は中止だ! 今からショウタイムの時間だよ!」


 バァンッッ――!! と、勢いよくドアを開けて入ってきたのはアン様だった。


【登場人物とか】

アン王女      ……ローレンシア王国第8王女。ボクっ娘15歳。星彩の花

サイラス      ……ヘーゼル侯爵家嫡男。オレ様系18歳

ミセス・アラン   ……アン王女のメイドを束ねる婦長。しっかり者系三十路(アラサー)

アボット      ……ノースケイプ修道院の院長。小太りの中年

エラ        ……アン王女のメイド。わたしちゃんの後輩

オリバー      ……孤児。倉庫の幽霊の正体だった


わたし       ……アン王女のメイド

バスティアン    ……サイラスの執事。腹黒系


ローレンシア    ……西の方にある小さな島国

ノースケイプ修道院 ……ローレンシアの最北端にある修道院


タイトルについて……さあなんにしようかな?


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