表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/23

A gohst in the warehouse(サイラスの場合)

 法務省。サイラスの執務室にて――


「なに? 修道院にゴーストが出たと思ったら、その正体は孤児のガキで、そのまま修道院で引き取ることになった。だと?」


「はい」


 手を止め、胡乱な表情を見せるサイラスに、バスティアンは頷いた。


「貴様、まさかそんなくだらん話を聞かせるために、オレに時間を取らせたのか?」


 ギロリ。と、不機嫌な視線を向けてくるサイラス。

 相変わらずの眼光の鋭さだ。しかしバスティアンは、怯まない。なぜなら――


「その孤児と言うのが、どうやら男子のようなのです」

「なにっ!?」


 ――と、動揺する主を前に、してやったりのバスティアン。

 主にとってこの報告は、重要なものであることが、バスティアンには分かっていたのだ。


「孤児が修道院に入り込んだだと!? なぜ報告しなかった!」


 サイラスはガタッと椅子を倒して立ち上がると、そのままバスティアンに詰め寄ってくる。


「私もつい今し方知ったので。取り急ぎ報告にあがったのですが――」


「遅すぎる!」


「……」


 主の一喝に、バスティアンは黙った。




 アン元王女がゴースト騒ぎを解決した。――バスティアンがこの情報を知ったのはついさっきのことだった。

 きっかけは、バスティアンが潜り込ませておいた間諜役(キャットフェイス)が、報告を寄越してきたこと。


 バスティアンは最初、この件をサイラスに報告するつもりはなかった。

 キャットフェイスはサイラスに内緒で送り込んでいたスパイだったからだ。もし情報源について問われれば、痛い腹を探られることになる。


 しかしバスティアンは報告に踏み切った。

 内容がアン元王女に大きく関わることだったからだ。


 この主のこと。アン元王女に関わることであれば、どんな些細な事でも報告した方がよいのだ。

 もし、報告漏れが発覚したら、どんな叱責を食らうか分かったものじゃない。

 それに……


(看過できない情報も書かれてたしな)


 バスティアンが、こんなしょうもない話をわざわざ報告した理由はそこだった。


――(くだん)の少年。魔法を使える可能性あり――


 もしそれが本当ならば、由々しき事態だ。


 魔法は、貴族を貴族たらしめている最大の拠所(よりどころ)なのだ。


 アン元王女の左遷もそうだ。

 表向きは素行不良などそれらしい理由を付けられてはいる。が、本当の理由は単に彼女が魔法を使えないからなのだ。

 少なくともバスティアンはそう睨んでいる。




「そいつは何者だ? どこから来た? 容姿は? 性格は? 危険はないのか? まさかあいつと釣り合いが取れるような家の出身とかではないだろうな?」


「さあ。そこまでは……」


 けれどサイラスは、そんなバスティアンの深慮もどこ吹く風だった。矢継ぎ早にしょうもない質問ばかり投げてくる。


 少年の家柄? そんなことを聞いてどうするのだ?

 最初に孤児だと言ったはず。孤児が名家の出であるわけがない。


 危険はないのか?

 あるわけがない。

 アン元王女はバスティアンが見る限り、相当な切れ者だ。

 その彼女が、その少年は無害だと判断した。

 少年の危険度を判断したいのなら、それで十分のはずだ。


(男子ってことで、アン様の身を案じたんだろうが……)


 バスティアンは腹の中で苦笑した。


 一体なにを想像したんだ、このむっつりスケベめ。


 最近、特にそう思う機会が増えたが、主はちょっとアホウ過ぎじゃないだろうか?

 アン元王女が王都を去って以来、アホウぶりに磨きがかかった主だったが、まさかここまでとは。




「今すぐノースケイプに向かう! オレは休暇の申請を出してくる! 貴様は馬車の手配を――!」


「それは結構ですが、休暇はつい先月とられたばかりです。このペースで行きますと、半年と持たずに休暇が尽きてしまいます。本当にそれでもよろしいので?」


 バスティアンの忠告に、サイラスの動きがピタリと止まった。

 どうやらそこまで見境がなくなったわけじゃないらしい。


「それは……む……」


 そう呟いたサイラスは執務室をぐるぐると回り始めた。


 ノースケイプは日帰りで行けるような場所じゃない。

 ここぞというところを見極めて向かわないと、あっという間に休暇が枯渇する。

 限られた休暇を最大限有効に使う試案でもしているのだろう。


「おい! ノースケイプへの出張の予定は――?」


「ございません」


「チッ!」


 バスティアンの迅速すぎる報告に、舌打ちするサイラス。

 執務室をぐるぐる回るのをやめると、今度はソファーにドカッと腰掛ける。


「出張がないのならこっちから……」


「サイラス様」


 バスティアンは、いつのまにか親指の爪をかじっていたサイラスを咎めた。


 今の主は完全に子どもだ。

 アン元王女のことがそんなに心配なら、ノースケイプ行きなど認めなければよかったんだろうに。


「その孤児については、わたしの方で調査いたします。危うい存在だと判断しましたら、内々に処置いたしますので」


「……頼む」


 無念そうなサイラスの返事。


 バスティアンは、この件で最も重要だった事項――その孤児、魔法が使える可能性あり――については、今は黙っていることにした。


【登場人物とか】

アン王女      ……ローレンシア王国第8王女。ボクっ娘15歳。星彩の花

サイラス      ……ヘーゼル侯爵家嫡男。オレ様系18歳

ミセス・アラン   ……アン王女のメイドを束ねる婦長。しっかり者系三十路(アラサー)

アボット      ……ノースケイプ修道院の院長。小太りの中年

エラ        ……アン王女のメイド


わたし       ……アン王女のメイド

バスティアン    ……サイラスの執事。腹黒系


ローレンシア    ……西の方にある小さな島国

ノースケイプ修道院 ……ローレンシアの最北端にある修道院


タイトルについて……倉庫の幽霊。「phantom(ファントム) inventory(インヴェントリー)」のこと。


【更新履歴】

20204.10.11 微修正


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ