A gohst in the warehouse(5)
「ぎゃ――」
背後から攻撃を受けたわたしは、とっさに防御姿勢をとった。
まさかゴーストが!?
でも、もし本当にゴーストなら、今のわたしにはどうすることもできない。
「ご――ごめんなさい!」
無意識にそんなことを口走る。
「――頭おかしいとか言ってごめんなさい。全部うそです。倉庫の中身が欲しいならいくらでも差し上げます。ですから、この愚かなわたくしめの戯れ言を、どうか寛容な心で見逃していただけますと――」
我ながら何を言っているのやら。でも今のわたしにできることなんて、これが精々。
けれど――
「どうしたんだい? 突然しゃがみ込んだと思ったら、急にブツブツと……?」
「――て……え?」
聞き慣れた声に、わたしは振り向いた。と、そこにいたのはアン様で。
「キミ、こちらに気付かずに行ってしまうから……」
アン様は後ろを指差して言った。
どうやらアン様に気付かずに行ってしまったわたしを呼びに来てくれたらしい。
「え~……こほん」
恥ずかしいところを見られてしまったわたしは、とりあえず立ち上がった。そしてスカートについた埃をパパッと払うと、
「アン様自らお迎えくださるなんて大変痛み入ります。さ、行きましょう?」
「……? ああうん。そうだね」
何事もなかったかのように振舞うわたしに、アン様が応えた。
◇◆◇
アン様に案内されたわたしが行き着いたのは、2階のどん詰まり。満月の明りが射し込む小さなスペースだった。
「あぁ~……あぁ~……また一人増えてしまったわ……来ないでくださいって言ったのにぃ……」
そして、そんな場所でそんな恨み言を言っているのは、わたしのメイド仲間のエラ。
その様子はまるでゴーストだ。
これだけ明るいから、あれはエラだと分かるけれど、そうじゃなかったら本物と間違えそうな、そんな迫力。
どうやらこの子、本気でわたしたちのことを歓迎していないらしい。
「ねえエラ。あなた。今回の件、なにか知ってるの?」
エラの言い方が気になったわたしは尋ねた。
「えぇ!? えぇ~と……なんのことやらぁ……?」
白々しい答えが返って来る。
けど惜しいかな。この子、目が泳いでいる。
「とぼけないの。あんたさっきわたしたちを追い返そうとしたじゃない。なんでよ?」
「そ、それはぁ……」
エラはしどろもどろになっていた。
エラは基本的に、ウソをつけるような子じゃないし、あんまり追い詰めるのもかわいそうと言えばそうなんだけど、とは言えこれもお仕事。
「あ! まさか……今回の件、アンタが犯人なんじゃ――!?」
「えぇ? ふえええぇっ!?」
わたしの言葉にエラが反応した。
え? 今のはただ、適当に思いついたままを言ってみただけなんだけど。
まさか。本当にエラが?
にわかには信じられない。いや。でも……
「まあまあちょっと落ち着きたまえよ」
わたしを止めたのはアン様だった。
「たしかにエラは育ち盛りだけど、他人様の物に手を出すような子じゃないじゃないか。 それに、もし彼女が犯人だとすると、さっき見たあれ、どう説明するんだい?」
「あー……」
わたしはハッとした。
なるほど。確かにその通りだ。エラは他人様に後ろ指を差されるようなことをするような子じゃないし、ゴーストの件も説明がつかない。
「それに、考えても見たまえよ。折角ここにボクと言う稀代の名探偵がいると言うのに、助手のキミが解決してしまうなんて。そんなこと、許されるはずがないじゃあないか!」
「……」
それは何と言いますか……ねえ?
と、そこでわたしは気が付く。アン様が、さっきからチラチラと意味ありげな眼差しを向けているのだ。
おや? これはもしかして――
「な、ならアン様――じゃなくって、先生は……今回の事件、真相は別にあると、そうおっしゃるのですね?」
「フフフ……その通り――」
わたしはそれっぽく話を振ってみた。するとアン様、ぱっと目を輝かせて語り出して……
「さあ! それじゃあ今より、このボクの名推理を披露しようじゃあないか!」
【登場人物とか】
アン王女 ……ローレンシア王国第8王女。ボクっ娘15歳。星彩の花
サイラス ……ヘーゼル侯爵家嫡男。オレ様系18歳
ミセス・アラン ……アン王女のメイドを束ねる婦長。しっかり者系三十路
アボット ……ノースケイプ修道院の院長。小太りの中年
エラ ……アン王女のメイド
わたし ……アン王女のメイド
バスティアン ……サイラスの執事。腹黒系
ローレンシア ……西の方にある小さな島国
ノースケイプ修道院 ……ローレンシアの最北端にある修道院
タイトルについて……倉庫の幽霊。「phantom inventory」のこと。




