表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

俺が家に帰ると両親と俺が食事をしていた

作者: 江口サイト

この物語は、ふぇ…ハックション!…フィクションです。

自宅に帰って自分がいたら、嫌ですねー。

どうしていいかわからなくなります。

物語はそこから始まります。

よろしくお願いします。

俺は玄関のドアを開けた。

部活が終わり真っ直ぐ帰宅したのだが、疲れていたのか、いつもよりドアが重く感じた。

小声でただいまと言いつつ、いつものようにスリッパを履く。

そのままリビングに来ると、家族が食事中だ。

俺が帰ってくるまで待ってくれても良かったのに。

…?

俺の顔を見て、時が止まったように停止する両親。

と、あれ?いつもの席に俺がいる?


「ただいま…。」


俺の言葉がリビングで波紋の様に広がる。

母さんが先に口を開いた。

「…ごめんね?どちら様?」

何言ってんだ?

自分の息子を忘れたのだろうか。

とは言え、既に俺は席についている。

俺、だよな。

「えっと、家を間違えたのかな?」

父さんまで変なことを言った。


俺はびっくりして家を飛び出してしまった。

これは夢なのだろうか。

視界がぐわんぐわんと回る。

無我夢中で走り、近くの公園に到着する。

小さいころはここで遊んだっけ。馴染のある公園だ。

ブランコに座りながら考えてみる。

確かに俺の家だった。

家具の配置、いつも母さんがうるさいから履いているスリッパ。

ただ、俺と同じ顔をした男子が着ていた服も俺の物だった。

どうなっているんだ?


時間を忘れて考え事をしていると、不意に声が掛かった。

「君、高校生だよね?」

俺が顔を上げると、そこには警察がいた。

まだ7時だ。真っ直ぐ家に帰ったら自分がいて、家族は食事をとっていた。あれは誰だったんだ?俺はここにいるのに。偽物の俺が家を、家族を乗っ取った?母さんも父さんも俺を見て誰か分かってなかった。


…もしかして、不法侵入で逮捕される?


いろいろな考えが廻ったが、混乱している俺は夢中で逃げた。

「おい!君!待ちなさい!」

警官の威圧的な声が遠くなる。

何の判断もできない俺は道路に飛び出し、はねられた。


気がついたのは病院だった。

看護師が医者を呼び、問診を行う。

「名前は言えるかな?」

「和人、安田和人です。」

名前を名乗った瞬間に微妙な表情をする医者。

「…そうか、申し訳ないけど、君の持っている携帯電話からご両親に連絡をとったよ。」

その後、聴診器をあてられたりしていると、夫婦が病室に入ってくる。

「敬人!ああ、敬人、大丈夫?」

「敬人!良かった、意識はあるんだな!」

女性から手を握られ、男性からは頭を撫でられる。

事故に遭った息子を心配する様子だが、俺は"敬人"ではない。

なんで敬人って呼ぶんだ?

俺は和人なのに。


医者は夫婦に話をする。

「事故による怪我はありませんが、頭を打ったのか、記憶の混濁が見られます。」

「息子は大丈夫なんでしょうか?」

「しばらくは様子見が必要でしょう。怪我はないので、このまま退院しても大丈夫ですが…」

「自宅に連れて行きます。体調が悪そうでしたら、連れてきますので。」

「はい、その時はお願いします。念のため、安定剤だけ出しておきますね。」

夫婦は会釈をしつつ、俺の腕を引っ張った。


夫婦の自宅に到着し、玄関を開けた。

俺は靴を仕舞い、リビングに移動する。

女性の方が俺を抱きしめてきた。

「ああ、無事でよかった!こんな短期間で2回も事故に遭うなんて…。」

どうやら俺はこの家の子らしい。

どういうことなんだ?


風呂を準備していたようで、入るように言われた。

他人の風呂に入る機会がなかったため躊躇したが、混乱からか声が出なかった。

部活帰りでべたべたするし、しょうがない、風呂を借りるしか無いようだ。

観念して脱衣所で服を脱ぐ。

洗濯籠にシャツを落とし、ふと、鏡があることに気付く。

おもむろに鏡をのぞくと、知らない男子の顔があった。


顔を手で触り、感触を確かめる。

触覚はちゃんと機能しているようだ。

しかし、これは俺の顔じゃなかった。

追い打ちをかける不思議な光景を洗い流すように、俺は風呂に入った。


風呂から上がると、食事を運ぶように言われた。

とりあえず料理を席に置き、自分の席に着く。

もう考え事はしたくない。言われたままに過ごそう。

そして、この間違った今日を終わらせようと思っていた。


この家の息子の寝室に入り、整えられたベッドに横になる。

一応携帯は充電しておく。

なるほど、充電器の種類は一致するらしい。

頭を枕に押し当て、一瞬だけ今日あったことを考えてみた。

だが、どう考えても理解できそうにないので、考えることを諦めた。

どうなっているんだ?



朝が来る。

時計は月曜日から金曜日で設定しているため、毎晩の再設定は要らない。

朝食をとりつつ、昨日の出来事が思い出せないでいた。

父さんは先に会社に行っていて、母さんがわざわざ玄関まで見送りに来る。

「敬人、大丈夫?」

「大丈夫だよ。心配しすぎじゃない?」

「だって!昨日は事故で病院に運ばれて、記憶も混濁しているって聞いていたし、お母さんはもう心配なのよ!」

「そうなの?俺、昨日のことは覚えてないや。」


今日は休んだら?なんていう母さんを置き去りに、今日も学校に向かった。

最近は部活が楽しいんだ。

それに、事故に遭ったっていうけど、どこも悪くないし、休んでられないよ。


休み時間には友達から声を掛けられる。

「敬人、お前大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。何で?」

「いや、事故の後から顔つきがちょっと変わったかなってさ。」

「顔つき?顔色じゃなくて?」

「うん。昨日の帰りも校門で急に立ち止まって、しばらくしたら走り出したからさ。」

「そんなことしたっけ?あんまり覚えてないな。」

「それ!そういうのが心配なんだよ。」

「大丈夫だよ。」

友達との押し問答で休み時間が消費されていく。

俺は大丈夫なんだけどな。

その後、いつも通りに部活をこなし、帰宅する。

家族で食事を食べるけど、話題は昨日の話だった。

どうやら事故に遭ったときに頭を打ったようで、違う名前を話していたらしい。

何だってんだ?いったいさ。



俺は目覚まし時計の音で起こされた。

今、何時だ?

そう思いつつ目を開けると、違和感がある。

知らない天井だ。

いや、一応知っているぞ。

昨日見た天井だろう。

はじめて聞いた音の目覚まし時計を止め、立ち上がる。

勉強机の上にあった鏡を覗き込むも、やっぱり知らない顔だ。

夢だったらと思っていたが、どうやら夢ではないらしい。


コンコン


部屋をノックする音に心臓が跳ねる。

「朝食ができているから、食べなさい!」

女性の声だ。

おそらく、この部屋の住人の母親だろう。

俺はそこに掛けてあった制服を着てリビングに行った。


無言で朝食を済ませ、外に出る。

部活のバッグも忘れずに持った。

中身も大丈夫だ。

ただ、俺が無言だったのには訳がある。

おそらく、俺が声を出せばボロが出るだろう。

そうすれば"敬人"の母親を心配させることになるかもしれない。

まあ、無言でいたことで心配をかけたみたいだけど。


俺は歩きながら昨日のことを考えていた。

帰った家にいた自分のこと。

母さんと父さんの反応。

医者が見せた微妙な表情。

どうなっているんだ?


学校に着いたはいいが、制服が違った。

そういえば"敬人"の通う学校を知らない。

制服的に予想は付くが、考え事をしてると俺の通っている学校に着いてしまった。

仕方がないから校門が見える位置に立ち尽くしていた。


すると、向こうから見知った顔が近づいてくる。

そう、俺だ。

考えるより前に走り出し、声を掛けていた。

「あ、あの…」

「うわ!びっくりした!…君は、一昨日うちに来た…」

「一昨日?昨日だったと思うけど…それより、ちょっと話があるんだ。」

「…俺も気になっていたんだ。分かった。そこの空き地に行こう。」

こうして俺は俺の顔をした男子と空き地のベンチに腰掛けた。


どう話していいかわからず、しばらく無言だったが、向こうから話してきた。

「俺、和人。君は?」

「…和人?お、俺も和人なんだ。」

「同じ名前なのか。なんか気味が悪いな。」

「ごめん。」

「いや、ごめん!自然に君が家に来て、ただいまっていうからさ。その人が俺と同じ名前だったら気味悪いじゃん?俺の立場だったらそうだと思うんだ。」

「うん。俺もその立場なら気味悪いかも。」


俺の知っている顔の和人は正直者のようだ。

今はその方がいい。

心配されて、俺が傷つくのを避けるために嘘でも言われたら困る。

俺は本当のことを知りたいんだ。

「俺は、本当は和人で、その顔なんだ。今の顔は知らない顔なんだ。」

「そういわれてもな。顔を交換できるわけでもないし、交換したこともないしな。」

「俺だって、成形した覚えはないんだ。」

俺は頭を抱えた。

パフォーマンスではなく、頭がこんがらがって眩暈がするんだ。

そして、ため息と一緒に言葉が漏れる。

「これからどうすればいいんだ…?」

俺の顔をした和人は俺の肩に手を置き、こう言った。

「分かんないけどさ、こうなったら絶対に何かがおかしいから、正直に話すべきだと思うよ。俺たちだけじゃどうしようもないと思う。」


そうだよな。俺もそう思っていた。

結局周りにおかしなことが起きていると知らせる方が良いんだろう。

俺は"和人"と連絡先を交換して別れた。

だが、このまま学校に行ったところで、"敬人"になりきれない。

空き地のベンチに戻り、時間を潰すことにした。

ふと、"敬人"の携帯を手に取る。

画像を見てみるが、知らない画像ばっかりだった。

電話帳やメールの履歴も知らない人ばかり。

ゲームアプリも知らないものがある。

唯一知っているのは、俺の携帯にも入っている有名ゲームだ。

どれどれ?

なるほど、なかなかいいキャラ持ってるじゃん。

おお!このキャラ持ってるのか。

課金してんのかな?

デイリーのクエストだけやっとこう。

"敬人"はプレイできないからな。


携帯いじりは結構いい時間つぶしになった。

そのうち携帯が鳴りだす。

"敬人"の母親からの着信だ。

「敬人!学校に行ってないって本当なの?」

「あ、うん。」

「なんで?どこにいるの?もう、心配させないでよ!」

「ごめんなさい。調子が悪くて。今から帰る…。」

「大丈夫なの?タクシー使ってもいいからね?帰ったら病院行こうね?」

いい母親だ。

"敬人"は幸せだっただろうに、今どこで何をしているんだろう。

そんなことを考えながら、"敬人"の自宅に戻った。


"敬人"の自宅に着くと、母親が小走りに駆けてくる。

そのまま家の前まで来ていたタクシーに乗り、病院へと向かった。

タクシー内では状況を説明する。

「あの、俺、どうしたらいいかわからなくて。」

「お医者さんからは記憶が混濁しているって聞いたけど、何かあったの?」

「俺、本当は"敬人"じゃないんだ。本当は和人なんだ。」

「何言ってるのよ!昨日も部活から帰って一緒にテレビ見て、お話したでしょう?あの時は間違いなく敬人だった!」

「昨日?昨日は事故に遭ったって…。」

「それは一昨日!本当にどうしちゃったの?」

母親は混乱しているらしい。

そりゃそうか。説明している俺が混乱しているんだもの。


病院に着き、待ち時間を乗り越え、担当医に会う。

母親が事情を話し、検査入院することになった。

ああ、しばらくは病院か。

"和人"と連絡先を交換していてよかった。


目にライトを当てられたり、口の中をのぞかれたり、レントゲンを撮られたり。

今日は夕方までバタバタした。

6床ある病室でベッドを割り当てられ、微妙に硬いマットに座る。

俺は硬い枕を抱きながら電話を掛けた。

「もしもし、"和人"?」

「ああ、えっと、なんて呼んだらいいんだ?和人?敬人?」

「あ、そっか、ごちゃごちゃになるな。区別を付けたいから、敬人でいいよ。」

「分かった。で、大丈夫なのか?」

「うん。母さん?に話して、今病院に来てる。検査入院だってさ。」

「じゃあ、調べてもらえるんだな。」

「うん。何かわかるといいんだけど。」

「でも、元々情報が少ないからな。医者から話を聞けたらなー。」

「あとで病室に来るはずだから、その時に聞いてみるよ。何かわかったら連絡する。」

そうして電話を切り、医者が来るまで待っていた。

病院食を食べたが、味がしない。

食事が悪いのかと思ったけど、不安と混乱から来るものだと考えなおした。

食事どころではなかったんだ。


電話で話した和人はたぶん本物だ。

敬人という人物は実在しているだろう。

だとしたら、俺は誰なんだろうか。

そんなことを考えていると医者が到着する。

「敬人君。調子はどうだい?」

「…まあ、気分とかは悪くないです。」

「そうか。君は記憶の混濁が起きているようだね。事故で頭を打ったかもしれない。レントゲンも取っているし、そのうち分かるだろう。」

「あの、聞きたいんですけど、俺、事故で入院するのって2回目なんですか?」

「それも記憶にないのかい?」

医者は眉を顰めつつ、説明をしてくれた。


「君はねぇ、1回目の事故で死にかけていたんだ。壁と車に挟まって、臓器の一部がダメになっちゃったんだよ。それで、培養していた臓器を移植したんだ。もちろん、適合チェックも通過して、今も拒絶反応は出ていないから安心してね?」

「臓器移植…ですか?」

「そうだよ?今の医療ではある程度の細胞と細胞核を用意できれば、培養して臓器を作成することができるんだ。もっとも、作って使えるようにするのに2か月くらいかかるんだけどね?だから、君の体組織からサンプルを用意するのには間に合わなかったんだ。」

「じゃあ、他の人の細胞から臓器を作ったんですか…?」

「うん。たまたま、君の前に臓器移植をした子がいてね。その子は臓器を自分の体組織から作成したんだけどね?適合率が高くて、助かっているんだよ。もちろんドナー契約もしているから、心配ないよ?」

「臓器の適合率が高かったんですか?」

「そう!珍しいんだけどね、彼の臓器はたくさんの人に適合する型だったんだ。君の臓器としても…。」


急に医者が固まった。


目がぎょろぎょろと動き、明後日の方向を見て目を見開いた。

何かをひらめいた…違うな。

何かに気がついた感じだ。


医者は立ち上がり、閉じていた隣のベッドのカーテンを開いた。

携帯ゲームで遊んでいる男子がいる。

年は俺と近いかもしれない。

医者は呼吸を荒くし、その男子に声を投げる。

「君!…君の名前を教えてくれるかい…?」

男子はゲームから医者に目線を変え、返答をする。

「だから、俺は和人だってば。」


和人


その名前が聞こえたのか、更にとなりのカーテンが開く。

他のカーテンも開かれ、俺と近い年の男子が身を乗り出して言った。


自分が"和人"だと。

お読みいただきありがとうございました!

また書きます!

良かったら、評価や感想をください!

今まで書いたことが無い方も、お気軽に!


私に届くか、わかりませんけども!

ではでは!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ