目覚めると土の中2
目を覚ますと、目の前に土壁があった。
どうやら気絶していたらしい。
体を起こすと軽い頭痛がした。
頭を押さえながら周囲を確認すると、倒れる前と同じ地中だった。
やっぱり夢じゃないのか…とため息を吐いてから、倒れる前のことを思い返す。
とりあえず大部屋を作ろうとして、シャベルで掘りまくっていた。
シャベルの能力を使えば、ひと振りで1m四方が掘れる。
それを使って、まずは高さと横幅が2mずつの通路を掘っていた。
そして60mほど進んだところで、急に体の力が抜けて倒れたのだった。
頭痛が治まったので、シャベルを拾って立ち上がりながら考える。
シャベルの能力を使うときになにか力が体から抜けていく。
多分今の俺には魔力か何かがあって、シャベルの力を使うときにそれが消費されているらしい。
そして魔力を消耗しすぎると気絶するようだ。
今度はそのあたりを気にしながらゆっくり掘っていく。
すると、30mほど進んだところで疲労感というか、体が少し怠くなった。
更に20mほど掘った所で、気分が悪くなって作業を中断せざるを得なかった。
太陽も時計もないので正確な時間は不明だが、体感30分ほどで体調は元に戻った。
つまり50mほど掘ると、30分ぐらいは休憩しないといけないらしい。
なんか無駄にスタミナ機能を付けて不便になったVRゲームみたいだ。
とりあえず折り返して、最初の部屋側に向かって掘る。
そして石壁に当たった所で部屋に戻った。
部屋の中は何も変化はなかった。
溜息を吐きつつ作業に戻ろうとしてふと気付いた。
そういえば結構動いているのに全然喉が渇かない。
それどころか、魔力の消耗以外で疲れたり体が痛くなったりもしない。
見慣れない華奢な両手を見ると、シャベルを何百回も振ったにもかかわらず豆一つ出来ていない。
どうやらこの体はとても高性能らしい。
もしかしたら食事も不要かもしれない。
異世界チート要素、本来なら喜ぶべきところ。
でも、説明もなくブラック労働現場に放り出されたような現状では素直に喜べなかった。
落ち込んでいても仕方がないし、渋々作業に戻る。
先ほどとは違ってノロノロと掘り進めて行く。
明確なゴールがない単純作業とか何の拷問だよ。
そんなことを考えつつ作業をしている内に、ふと思い浮かんだ。
目の前には抵抗なく壁に刺さるシャベル。
これ魔力を使わなければどうなるんだろうか。
早速試してみることにした。
両手でシャベルをしっかりと握り力を籠めると、今まで通り魔力を引っ張り出される感覚がある。
意識を集中して、魔力が持っていかれないように体に力を入れる。
すると、魔力が引っ張られる感覚がなくなりシャベルの能力も発動しなかった。
そのまま腕に力を入れて壁を掘る。
すると、まるで素振りでもするような軽さで壁が掘れた。
そして壁から離れた土は、地面に落ちる前にいつものように消えた。
そのまま二度三度四度、と掘り進める。
回数を重ねるたびに、慣れて魔力に意識を集中しなくても良くなっていく。
そのまま自分の手で掘り続けて、最初の通路と同じ距離を三往復して手を止める。
魔力を使わずに掘った所は、今の俺の身長ギリギリの高さで床も壁も天井もボコボコしている。
だが休憩が必要ない分、時間効率はこっちのほうが遥かにいい。
まさか魔法のシャベルの能力を使わないほうが効率がいいとは…。
それなりの広さを掘れたので、一度最初の部屋に戻ることにした。
開きっぱなしの巨大な引き戸を潜って部屋に入った時だった。
右手の壁から、バンッ!と大きな音がした。
びっくりして思わず左後ろ側に跳んで壁に激突した。
チートボディのおかげで特に怪我もなく痛みも大したことはなかった。
恐る恐る音がしたほうを見ると、右の壁の一番手前の扉が開いていた。
どうやら最初の条件をクリアして開いた扉が壁にぶつかった音らしい。
俺はビビリなのでホラーや、今のようなビックリ系なんかが苦手なので、こういうのは本当勘弁してほしい。
恐る恐る開いた部屋に近付く。
外から覗いてみるが、部屋の中は真っ暗で何も見えない。
仕方なくゆっくり部屋に入ると、中は普通に明るかった。
床や壁は最初の部屋と同じ石造り。
ただし横幅は3m程度で、高さは10mはありそうなほど高い。
そして奥行きだが、暗闇が広がっていてわからない。
暗闇を見続けていると、飲み込まれるような感覚になって怖い。
思わず目を背けると、そこに半透明のウインドウが現れた。
右を向けば右に、左を向けば左に、部屋を出るとウインドウも一緒に。
どうやらこいつは俺の目の前を常に付いてくるらしい。
覚悟を決めてウインドウの内容を確認する。
『倉庫開放 倉庫機能が解放
画面は念じれば開閉可能
容量:無制限 時間:たぶん凍結
リスト
毛布 × 1
土 × いっぱい 』
とりあえず誰か説明してくれ…