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世界の柱の少女と亡国の騎士  作者: 秋乃桜
第一章 ふたりのはじまり
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今ある世界


「ノア様、どうしたのですか?力が途切れてしまっておりますよ。」


ゼンと出会ったノアは次の日になっても、その時の話が忘れられず、朝の祈りの時間だというのに夢見心地になってしまってた。

そのせいで樹に送り込む力が途切れてしまったようで、婆やがノアの横で心配そうにしていた。



「だ、大丈夫よ!ちょっとぼーっとしちゃっただけよ。すぐに続けるわ。」


ノアは手に集中して、自身の中にある力を樹へと流し込んだ。

この力とは、神力、魔力、マナなど様々な言葉で呼ばれる。要はどれも身体に宿るエネルギーなのだが、時代や国によって呼び方は様々である。

ノアの生きる現在においては、そういった力を持つ人間は本当に少ない。昔は力を中心として生活が成り立っていたようだが、だんだんと世界に満ちる力は減ってしまった。



それにしても、とノアは力を流しながら昨日のことを思い出した。


今まで柵の傍にいっても、誰かに出会えたことは一度もなかった。婆やや爺やの言う通り、世界の柱から人が住む場所までは本当に遠く離れているのだと思っていた。

近くに人が住む場所がある。そして、人はたくさん集まって生活をし、幼いころは共に学舎で勉学に励んでいるという。


ノアは自分と同じような子がたくさんいる空間を想像した。毎日暇だなと思う時間も、その子たちとおしゃべりしたら楽しいんだろうなと思った。

柵から出られないことは分かっている。だけど昨日の騎士様のように柵を挟んでおしゃべりすることはできないのだろうか。


すぅっと樹が眠るような音がして、ノアは朝の祈りが終わったのを感じた。

そっと樹に触れると、朝の祈りの前に触れたときは冷たかった木肌がほんのり温かくなっているのが分かった。



「おやすみ、アルベイユ。」


ノアは前聖女から、樹の名をアルベイユというのだと聞いた。はるか昔、世界の歪みを正すためにこの樹を社に人身御供となったのが、アルベイユという女性だったらしい。

それから聖女が樹に力を送り、世界の歪みを正すという行為が行われるようになったらしいが、人身御供になったのが女性だったことからか、代々その役割に選ばれるのは女性だけだった。




「さぁて、今日のお祈りも終わったことだし。ねぇ婆や、爺やと一緒に昨日採ってきた林檎でアップルパイを作りましょう!」


「まぁ、それは良いアイディアですね。爺やも甘いものに目がありませんから、喜ぶことでしょう。」


「あ、あとね、婆や。前にも聞いたんだけど、世界の柱は他の人の住むところからは遠く離れているのよね?」


「そうですね。馬車は何日も乗り継がなければ、着かない場所にありますよ。それがどうかしましたか?」


「いいえ、ただ、婆やや爺や以外の人とも会ってみたいなと思っただけ。」


「そうですか…。それは大変難しゅうございますね。ノア様にはお辛い思いをさせてしまいますが、ここは遠い場所ですから。」


「そうよね、私には務めもあるし…」


ノアは諦めたように婆やから顔を背けた。


婆やの嘘つき。ノアは思った。

でも同時にその嘘がノアのための優しい嘘だとも思った。手の届く存在だと知れば、手を伸ばしたくなってしまう。昨日知った外の世界のことを今まで教えてもらえなかったのも、ノアが一生手に入れることのできない世界を羨んでしまわないようにだということも。


ノアはここに来た12年前よりも小さくなった婆やの背中を抱きしめた。


「ねぇ、婆やはずっと私の傍にいてね。」


手に入れられないものを羨んでも仕方がない。もうノアの人生の歯車は動き出してしまっている。今手に入るものを大切にしなければ…。

婆やは背中にノアの温かさを感じながら、そっとその手を握った。

小さかったノアの手は、今ではもうすらりと伸び、大人の手に成長した。遠くない未来にこの手を離さなければならないことを知っている婆やは、切なさに溺れそうだった。




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