出会った少女
ゼンは森の空気の気持ちよさに少し休むつもりが、思わずうたた寝してしまっていたらしい。
誰かの大きな声で目を覚ましたゼンの目の前には良くない状況が広がっていた。
どうやら柵の向こう側に誰かが入ってしまったらしい。
「おい、お前!どうやってそこに入った!ここは聖女様の澄む聖域だぞ!立ち入ってはいけないことは知っているだろう。」
飛び起きてそう告げてくるゼンに向かって、ノアは慌てたように首を振った。
「違います!私、入ってません!逆です!」
「何が逆だ!どう見たってお前、柵の中に入ってしまっているじゃないか。この柵は電気が通っているはずだが、どうやって入ったんだ。入ってしまったら、管理局に連絡しないと出られないんだぞ。親は麓の村の者だろう?管理局への罰金・刑罰に耐えられるのか?!もう子どもでもないのに、どうして入ってしまったんだ!」
ゼンはノアの両親が、世界の柱に入ってしまった罰として科される重い罰金、刑罰を思い、声を荒げて叫んだ。
どうにかして助けてやりたいが、電気柵もあるし、どうにもできない。
うたた寝してしまった自分を殴りたい気持ちでいっぱいだった。
もちろん、うたた寝して、侵入を許してしまった自分にも罰はくだる。それが軍の規則だ。
「村?近くに村があるの?人がたくさん住んでいるところがあるんですか?」
ノアは自分は元から世界の柱の中にいるのだと説明するよりも、ゼンの「麓の村」という言葉が気になった。
「何言ってるんだ。お前の住んでる村はこの麓の村じゃないのか?どこの村から来たんだ。」
ノアは今まで、この近くに他の人は住んでいないと聞いていた。
柵の向こうには大自然が広がっていて、人の足ではいけない遠くの方に他の人が住んでいるのだと聞いていた。
その証拠にノアは柵の向こう側の人を見たことも、気配を感じたこともなかったのだ。
「違うんです、私、柵を越えてません。初めからここにいます。」
「何を言ってるんだ、そこは聖女様の住まう場所だぞ。え…まさか…。」
ゼンはようやく理解したのか、顔が真っ青になった。
「そうです、あの…私が聖女です。」
入隊時に厳密に言われていたこと、「聖女に見つかるな」。だからこそ、訓練を重ね、気配の読める腕利きの騎士が特別軍に求められた。聖女に見つかったと分かれば、どんな罰がくだされるかわからない。
ただ単に柵を越えてしまうことよりも、大きな罰がくだされることは目に見えていた。
ゼンはやってしまったとばかりに、頭を抱えた。
「どうしましたか?やっぱり電気柵にあたってしまいましたか?」
急に頭を抱えたゼンを心配して、ノアはそう言った。
その優しい声色にゼンは思わず顔を上げてノアの顔を見やった。金色の長い髪をなびかせ、絹の上質な白いワンピースを着た儚げな少女だった。憂いを帯びた瞳は、ゼンの瞳の色よりも鮮やかで明るい緑色をしていた。