強化内容"発砲"
人を陥れる顔をしながら奴は嬉々として喋りだした。
「全てを持つ神だぁ?俺にやすやすと出し抜かれちまうような野郎が全てを持つとはよく言ったもんだ!肝心な人を見抜く力も持ってねえやつがな!」
奴は得意げに喋りを続けた。
「聞いたぜ。お前、俺の部下に俺のスキルを聞いたんだよな?俺のスキルは"権利"、一度得た権利はもう一度無条件で使える能力。ここまで言えばわかるか?」
哄笑をしながら奴は俺の顔色の変化を期待している。だが、俺の顔色が一切変わらないことを疑問に思っているようだった。
「話聞いてたか?お前は俺に願いを叶える権利を与えたんだぜ?これからお前は俺の願いを何でも一つ叶えなきゃならないんだぞ!俺がここから出せと言ったら出さなきゃならねえし、死ねと言ったら死ななきゃいけねえんだ。それがわかってるのか?」
「お前のスキル内容はわかっているし、お前の言っていることもわかっている。そして、お前の結末もな。」
俺がそう言うと、奴は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「そうかぁ!じゃあてめぇに願いという名の命令をしてやるよ!俺をここから出し、村人を皆殺しにして、てめえは自殺しろおお!!どうだ!?一度の願いで一つだけとは限らないんだぜ!安心しな、死に顔くらいは看取ってやるからよ!」
俺が奴の前に立ったまま、数秒が経った。何も起こる気配のないこの状況に奴は焦り始めた。
「おい、何してる!早く願いを叶えて俺に自由をよこせ!」
「今まで散々他人の権利を踏みにじってきたお前に自由が与えられると思ったか?」
奴の顔に再び恐怖と疑問の色が浮かび上がる。
「なぜだ!?なぜスキルが効いてねぇ?」
「簡単なこと、それは私が神だからだ。」
「そんなの答えになってねぇ!」
「いや、なっている。神は全てを持つのだ。お前のスキルが効かないという権利や、それこそ、お前を裁く権利をもな。お前は今まで多くの人々を騙し、苦しめ、殺してきた。よって死で償え。」
「そ、そんなのおかしい!そんな存在が人の世にいていいわけねぇ……。それに死んだところで今までの償いなんてされるものじゃねぇだろ!」
「それも私が決めることだ。よく想像しろ、お前は今から鉛玉が高速で貫通したように胸に穴が開いて死ぬのだ。」
俺は奴にそう言って奴の死の想像を具体化させた。今の俺は奴にとって死神とでも呼ばれるような立場だろう。それゆえに村人たちとは違う"恐怖による信仰心"を感じる。だが信仰心は信仰心、奴にも俺のスキルは通用するはずだ。
(こんな奴に信仰されるのはまっぴらごめんだが仕方がない。信仰、強化対象共に上之手福、スキル"信仰心"追加発動。)
今発動している"飛翔"の強化で体に光と力は既に出ているが、追加発動の宣言でさらに溢れてくる。奴の目からは涙が溢れている。
「頼むぅ、殺すのだけは勘弁してくれ……。」
「駄目だ。」
俺はグーの形をした状態の右手の親指を上げ、人差し指と中指を奴に向けた。そして、奴の死を願った。
「ほんとに命だけ…命だけは……がはっ…」
右手を構えて奴の死を願った瞬間に奴の胸にぽっかりと穴が空いた。どうやら奴の想像力はしっかりと働いていたようだ。
(一応村長への弔いにはなるのかな…。)
それにしても一歩間違えれば危なかった。奴の言った通り、もし奴の願望を叶えていたら俺は村人と自分を殺すことになっていただろう。
(だがさすがは神の知恵、奴の作戦はある程度俺に予想できていた。)
まず奴は俺が音を立てずに独房に向かったのにも関わらず俺にすぐ気づき、先手で話しかけてきた。ここで、俺が来ることを心待ちにしていたということと、会話の主導権を握ろうとしていたことがわかる。そして、反省の素振りを見せつつ会話の流れを自分の願いを叶えてもらうことに持っていった奴は村人と俺の殺害を叶えようとした。
(しかし、それは叶えられなかった。それはなぜか?)
答えは"神とは全てを持ち、それを与えることのできる者のことである。"という言葉にある。その言葉を前置きに言ったことで、あの問答において、奴が"願いを叶えてもらった"のではなく、俺が"答えを与えた"という認識になったのである。俺が何者かを知るという結果は変わらなくとも、奴のスキルで大事な過程は全く違ったものになったのだ。
(そういえば信者が亡くなったのは二人目だが、今回は信仰心の増減がないな。)
奴を今回殺したことで信仰心が減ると思ったが、そうでもないらしい。
(奴の信仰心が微弱すぎたか?だが、あの威力のスキルが使える時点で村人たちと方向は違えど相当な信仰心のはず。そうだ、奴の信仰心で得た強化を試せば…)
俺はスキルを発動し、奴の信仰によって得た"発砲"を壁に撃ち込んだ。するとしっかりと壁に数センチの穴が空いた。
(ということは、信者が死んでも信仰心は減らないということか。)
もし死者の信仰心がなくなるならば、奴の中にしか存在しないこの"発砲"のイメージはもうこの世にはないことになるはずだからだ。
(じゃあ、村長が死んだ時に信仰心の総量が増えたのは、村長の信仰心が減った分を村人の信仰心が上回ったんじゃなくて単に村人の信仰心が上乗せされたからだったんだな。)
正直、あのときもし村長の信仰心が失われているのにも関わらず、総量が増えたとしたらそこまで村長の俺に対する信仰心が大きくなかったということになるため少し残念だったのだ。
(杞憂でよかった。そういえばさっき奴が会話の中で都がどうとか言っていたな。)
この世界に来て村しか知らない俺にとって都という単語はとても魅力的だった。俺は三下の元に行き、早速都のことについてあれこれ聞いた。すると様々なことがわかった。
・都にはたくさんの人がいること。
・都はこの村を出てかなり進んだ場所にあり、そこには多くの商業施設や冒険者ギルドがあること。
・都では半数以上がスキル持ちで、それを駆使した生活を営んでいること、などなどだ。
(三下との会話にしては中々の収穫だったな。さて、そろそろこの村ともお別れかな。)
もともと俺の目的はこの世界の神になることだ。この村で祀られるのも悪くはないが、やはりスケールが足りない。だから、きっかけさえあればこの村から出て行くことは前々から考えていた。
(それに三下をいつまでもここに放置しておくわけにもいかないしな。)
リーダーが死んだ今ではこいつらに悪さをする度胸もないだろうと思った俺は連行という名目でこいつらのうち誰かを都までの案内人にすることにした。
(今の俺に可能な強化内容は、"雨乞い"、"飛翔"、"破壊"、"回復"、"発砲"…これだけあればある程度のことには対応できるだろう。)
そんなことを考えながら、監禁場所から出ると世話役が俺の元に駆けてきた。
「福様!どうかこの村の村長になってください!」
あまりにタイミングの悪い言葉に俺は天を見上げた。




