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引き立て役


「テリーくんさ、純粋すぎるとか言われない?」


「ヴァンスくん……どうして。」


「どうしても何も、初めから何も変わってないよ。僕は機神様のためにのみ行動する。ただそれだけさ!」


「でも君は福くんのことを神様だって……」


「あの時は本当にそう思ったよ。だけどあんな奴を神と思うなんてすぐ辞めたさ。」


「そうだとしても、なんでそれが僕やチニーちゃんへの攻撃に繋がるのさ!?」


「別に君たちを攻撃したいんじゃないよ。ただ君たちを使った方があいつを苦しめられると思うからね!」


「そ、そんな……。」


 ヴァンスの変わり様を見たテリーは悲痛の表情を浮かべている。そして、俺に言われた"正しいだけ"という言葉を思い出す。


「そっか、福くん。そういうことだったんだね。」


 テリーの呟きにヴァンスは納得の表情を見せる。


「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶって言うけど、君って愚者の典型だよ。純粋な自分の気持ちでしか動けない馬鹿、でも君みたいな馬鹿のお陰で僕のような選ばれた人間が目立つんだから嫌いじゃないよ。」


「くぅ……」


 テリーはなんとか剣の動く力に抵抗しようとするが、剣を握りしめた両手はチニーの方へ近づいていってしまう。


「チニーちゃん!!お願い!起きて!!!」


 自分ではどうしようもないと思ったテリーはチニーを起こそうとするが、反応はない。


「いやぁ、それにしても色々タイミングがよかった。上之手福とレングスの戦闘系二人は居らず、化物級に強いチニーも寝ている。舞台上に残るは引き立たて役の雑魚一人。ハハッ!やっぱり選ばれた人間にはツキがあるんだ!!」


「うぅ……僕がちゃんと福くんの言葉を間に受けてさえいれば。」


 そうすれば元々敵であったヴァンスに心を許すような真似はしなかっただろう。それに、先の戦闘でヴァンスは剣を使った攻撃を用いていた。だから、剣にも警戒を怠るべきではなかった。しかし、テリーの純粋な心は教化でヴァンスの心が矯正されたと思い込んでいた。あるいは、ヴァンスに憐れみさえ覚えていたのかもしれない。


「君は所詮機械としか通じ合えない!環境のせいか、君のせいかは知らないけど、疑うことを覚えられなかった自分の純粋無垢さを呪うんだな!!」


 そして、ヴァンスはテリーの手が持っている剣をチニーの首に振り下ろさせた。


「いやだぁ!!」


「やれぇぇぇ!!」


 しかし、テリーが振り下ろした剣はチニーに届くより前に破壊された。


「は??」


 あり得ない状況にヴァンスはハテナマークを浮かべる。


「どうした、ヴァンス。そんな馬鹿みたいな顔をして。」


 俺はレングスと共に上空から降り立ち、ヴァンスに純粋な疑問を投げかけた。


「え、福様。どうしてここに?」


「どうしても何も、初めからこうなるようになっていただけだよ。私が神であり、全ては私の意のままにある。ただそれだけだ。」


「貴様ァ!!」


 ヴァンスは猫をかぶる意味がないことを知って、口調を直した。


「こうなったら!」


 少しでも形勢を逆転しようとヴァンスは十本の剣を取り出し、何が起きたかわからず突っ立っていたテリーを人質にとった。


「動くな!少しも体を動かすんじゃねぇぞ!動いたらこいつがどうなるかわかるよな?」


 (おいおい、前世で何百回、何千回聞いたセリフじゃないか。)


「喋りもするな!ただ僕の言うことに従っていろ。とにかく今は動くな。」


 全くのノープランでこの態勢に入ってしまったようで、動くな以外の指示がこない。


 (もう終わらせるか。)


「ヴァンスよ。お前は純粋無垢なテリーを馬鹿にしていたが、考えすぎて動けないお前と心に従って動くテリーのどちらが本当の馬鹿か考えてみるんだな。」


 俺は素直に思ったことを口にしてやった。


「おい、おまえぇ、喋るなと言ったよなあ!!」


 指示を聞かなかったことと、図星を言われたことに対する憤怒で顔を真っ赤に染めたヴァンスは十本の剣全てでテリーへの斬撃を開始した。


「た、たすけて!」


「大丈夫だ。もう助かっている。」


 テリーの体に触れるより前に、十本の剣は粉々に"瓦解"した。


「え?」


 テリーとヴァンスが同時に疑問符を浮かべた。


「なぜだ!なぜこいつにお前の能力が!?」


 そう、ヴァンスの言う通り今あの剣を破壊したのは俺の"瓦解"だ。


 (俺は"瓦解"の設定の自由度を手に入れた時、あることを思い付いた。それは他人を対象として"瓦解"を発動できるかということだ。)


 "破壊"や"発砲"、"飛翔"のような自分を対象とすることが定まっている強化内容は、他人に強化を施し、その者自身によって使われなければ発動できない力になっている。


 (これだと俺が他人に強化を施し、強化を施された者がまたそこから力を呼び起こすという二重構造になっている。)


 しかし、回復系は俺から他人へ直接力を付与できる。


 (これは俺から他人へ回復をするだけという単純(一重)構造だ。)


 この回復系の要領で"瓦解"も直接付与できると考えたのだ。そして、今目の前に広がる光景から結果は成功だとわかった。


「くそっ!もう一度……」


 もう一度剣を鞘から取り出そうとしたヴァンスの前に、息を潜めていたレングスが一人で現れる。


「お前は!」


「"破壊爆道"。」


 レングスはヴァンスの腹辺りに拳を当てた。ヴァンスの下半身が爆発で吹っ飛ぶ。


「ぐわぁぁあ!!」


 あまりの痛みに鞘から剣を出す動きが止まる。


「少し待ってくれ、レングス。」


「福、こいつはチニーを殺そうとしたんだぜ?一秒でも早くこの世から消さねえとダメだ。」


「早く消すことが罰になる訳でもないだろ。」


「……わかった。そのかわりトドメは俺が刺す。」


「もちろんだ。」


 ギクシャクの名残が少しあったせいでお互いが若干喧嘩口調だったが少し会話の時間を得ることができた。


「上之手福……こんな半身の俺を見て楽しい……のか?」


 ヴァンスは今にも息を途絶えそうになりながら言う。


「いや、楽しくなんてない。ただ最後に感謝を言おうと思っただけだ。」


「感謝だぁ?」


「そうだ。お前はテリーに人間の汚い感情を教えるための良い教材になってくれた。お前という一つの経験がテリーにとっての歴史の一頁に刻まれたのだ。」


「何が言いたい?」


「つまり賢者も最初は愚者であり、愚者でも経験を幾重にも積み重ねれば賢者になれる。そしてお前は今は愚者であるテリーが賢者になるための引き立て役にすぎなかったのだよ。」


「ち、ちっくしょぉおお!!!」


 俺はその場を去り、後をレングスに任せた。


「福に言われた考えを変えた。お前はスキルを使わずに俺の拳でなぶり殺してやる。」


 その後、長時間に亘り殴られ続けたヴァンスは人間の体の原型がない遺体となった。

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