森のボス
現れた大蛇は真緑の鱗を数多纏い、森のボスにふさわしい出で立ちだった。
「これがボスモンスターか!!」
骨のある相手を前にレングスは興奮気味だ。確実に連携を取る気はないと思われる。
(まあこれでレングスの本当の実力が見られるならいいか。)
ヴァンスとの戦いはあまりに特殊な状況すぎたため、レングスの本当の実力は測れなかった。だからこそ、ここでそれを確かめておきたいのだ。
「シャアァァァァァァァ!!!!」
大蛇は眠りを妨げた俺たちという敵を捕捉すると、唸り声を上げて襲いかかってきた。動物には話が通じないため、出会ってすぐに戦闘が始まる。
「福!今度こそ俺に暴れさせてくれよな!!」
やはりレングスは先走っていった。もちろん、チニーを背中に乗せて。
「とりあえずバランス型でいくか!」
「チニーも同感。まずはバランス型で様子見。」
「よし!!"破壊道"!」
レングスがそう唱えると、レングスの全身にオーラが纏われた。
(前の戦闘と戦いのスタイルが変わってる?)
前にヴァンスたち十人衆と戦っていた時は拳にオーラを集めた戦いのスタイルだった。だが今は全身にオーラを纏い、まるで甲冑を着ているようだ。
「後ろから一発行くぜぇ!オラ!!」
大蛇の死角に回ったレングスがオーラを纏った拳で大蛇を殴ると大蛇の体に破壊が始まった。だが、一枚の鱗が破壊されると大蛇の体の破壊は止まった。
「ま、そんな簡単に終わるわけないよな。」
「さすがボスモンスター。」
レングスの"破壊道"による破壊も俺の"破壊"も殴った対象が破壊されれば効果は消えてしまう。だから破壊を纏った拳であの大蛇を殴ったとしても幾重にも重なった鱗の一枚が破壊されて効果が終わってしまうのだ。
(これは強敵かもな。)
だが蛇には腹がある。腹に鱗などないためそこを狙いさえすれば一撃で勝負が決まる。チニーもそれに気づいたようでニ撃目は腹に狙い定めているようだ。
「レングス、腹。」
「オーケー!いくぜ!!」
レングスが今度は正面から腹を殴った。
(決まったか?)
しかし、大蛇の腹には何も起こらない。
「なに!!」
「レングス離れて!」
レングスはチニーが指示するより前に大蛇から距離を取ろうとしたが、大蛇はレングスが離れるより早く自分の頭でレングスを吹っ飛ばした。
(あの巨大生物の頭突きなんて想像しただけでやばいな。)
大蛇の腹を狙ったはずが、逆に自分の腹を大蛇に頭突きされたレングスは地面に背中から叩きつけられた。背中にいたチニーはいつのまにか正面で抱きしめられていた。
(レングスは吹っ飛ばされた瞬間に背中から着地することを予想し、素早くチニーをお腹側に移動させたのだろう。)
自分よりもチニーのダメージを先に考えるという仲間愛には感動するが、やはり一人を背負って戦うのは難点が多い。
(だが、そんなことはあの二人が一番わかっていること。それでもああしていると言うことは理屈ではない何かがあるんだ。)
その何かはおそらく人間が持つものの中で一番重要なものだ。そして、それは神にはわからない。
(だが、俺はそれがわかる神でありたい。)
そんな矛盾した願いを抱えながら、俺は戦闘の続きを見ていた。頭突きで吹っ飛ばされたものの、レングスはピンピンしていた。
「やっぱり攻守どちらもこなせるバランス型にしといてよかったぜ!!」
「うん。」
(なるほど。全身に破壊のオーラを纏うことで浅く広く攻守に対応できるようになるわけか。)
「それよりなんでレングスの"破壊道"効かなかった?」
「ああ、後ろから殴った時は発動したのにな。」
チニーは少し考えてすぐに一つの仮説を立てた。
「眼かも。」
「眼って?」
「うん。昔から蛇の眼には何らかの力が宿るって言われる。」
「なるほど。じゃあ大蛇の眼に見られてたから"破壊道"が発動しなかったってことか?」
「たぶんそう。」
「となると、あの大蛇の眼に見られると……」
「スキルが発動しない。」
「なるほど。だが、それなら死角から攻め続ければいいだけのこと!」
「でもまだどんな攻撃あるかわからない。だからバランス型ベースで。」
「了解、相棒!」
レングスはチニーを背中に乗せて再び大蛇に向かって走り出した。向かってくるレングスに対して大蛇は厳然と構えている。レングスは再び大蛇の後ろに回り、鱗の上から攻撃を始めた。
「"破壊連道"!」
連撃で一箇所に集中して鱗を破壊していくレングスだが、大蛇の方はなんともないような顔をしている。
「細かい連撃じゃあこの層の厚を突破できそうにないな。」
「そうだね、もう少し攻めよう。」
「了解!"破壊爆道"!!」
レングスの体全体にあったオーラが両方の拳に集まっていく。
(攻撃重視に変えるっぽいな。)
「よっしゃぁ!いくぜぇええ!!」
心なしか攻撃的な態度になったレングスが大蛇の鱗を殴るとその鱗が爆発し、周りの鱗まで吹き飛んだ。レングスは続けて何箇所もその攻撃を叩き込んでいく。
「シャアァァァ!!」
凄まじい威力のこの攻撃にさすがの大蛇もダメージを負っているようだった。
「いい声あげれるじゃねえか!まだまだ行くぜぇ!」
レングスがさらに攻撃を続けようとすると大蛇は眼をレングスの方へ向けた。すると、チニーの読み通りレングスのスキルが発動しなくなった。
「この状態であの頭突きをくらうのはまずい!」
レングスは先程くらった頭突きを警戒し、大蛇の背後に回ろうとした。
「レングス!後ろ!」
しかし、大蛇が攻撃に使ったのは尻尾だった。予想外の攻撃にレングスは避けることができない。
「背中で受けるわけには!」
そう言ってレングスは体の正面で攻撃を受けた。腕でガードを試みたものの、大蛇に見られてオーラを纏っていない状態で攻撃を受けたレングスは先ほどよりも一層速く遠くに吹っ飛んだ。
「レングス!!大丈夫!?」
チニーが珍しく感情的に叫ぶ。
「あ、ああ……なんとか生きてる…ガハッ…」
血を吐きながらもレングスは何とか生きている様子だった。
(無防備の状態であの攻撃をくらって生きているとはさすがの体力だが、あのダメージではここまでだろう。)
俺は戦闘役のレングスがやられてしまったのを見て、チニーのたちの助けに行こうとした。
「来ないで。あいつはチニーが倒す。」
チニーはそう言って俺を引き留め、大蛇に向き合った。
「"完全記憶"。」
そう呟くとチニーの体からレングスと同じオーラが溢れた。