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本物の神


 お互い戦闘態勢に入ったとき、レングスが俺に言った。


「さっきあの剣を調べたが、あの剣に付与されているのは切れ味の強化だ。」


「切れ味?」


「ああ。俺が調べた限りではあの剣に特殊な能力は付与されていなかった。だが、この森の木を切ってみた時に普通の剣より切れ味が良いことはわかった。そして、さっき八人が一瞬で真っ二つになった時に切れ味の強化だと確信した。木ならまだしも、普通は人間をあんな簡単に切れない。真っ二つにしようとするとどうしても骨が引っかかるはずだからな。」


「なるほど。レングスの拳はその斬撃に耐えられそうか?」


「俺の拳というと"破壊道"のことか。さっきの戦いでは剣を破壊できたが、あの時は剣の刃先の部分と触れたわけじゃなかった。だから、あの強化された切れ味に俺の"破壊道"が通じるかはわからないな!」


 もしかしたら死ぬかもしれないという状況でレングスは活き活きとしている。


「だがな、福よ。戦う前にそんな不安を感じる奴は力の都にはいないぜ。そしてこの俺もそうさ!チニーと一緒にあいつを破壊する、ただそれだけを考えて戦いに臨むだけよ!」


 己の道を持ったレングスらしい言葉だった。


「チニーは色々考えるけどねー。」


「そこはすまん!」


 レングスはチニーの辛辣な意見に苦笑いを浮かべながらも仲睦まじい雰囲気だった。


 (この対照的な関係こそがこの二人を特別な存在にしているのかもな。)


 俺は漠然とそう感じながら、ようやく目の前の敵に集中した。


「最後の話し合いはもう終わったかな?そろそろ粛清を開始するよ。」


 少年は十本の剣を俺とレングスに五本ずつ仕向けて来た。


「福、大丈夫か?」


「ああ、問題ない。」


 俺は五本の剣の斬撃をスキルなしでなんとか避けきった。レングスもスキルを使わず、身体能力だけで避けたようだが俺より断然動きに余裕があった。


 (さて、ここからだな。このままスキルを使わずにこの戦闘を続けるのはまず不可能だが、スキルを使えばおそらくレングスの戦闘希望対象に入ってしまう。)


 そんなことを考えてスキル使用を躊躇っている俺に少年が言った。


「それで避けきったつもりですか?この剣はまだまだ皆さんを追い続けますよ!」


 すると、避けたと思った剣が俺とレングスに再び襲いかかって来た。レングスは驚異的な反射神経でなんとか避けたが、不意を突かれた俺は対応できず、腹を斜めに切断された。


「福!!」


 レングスは叫び声をあげ、俺の方に近寄ろうとした。


「行かせませんよ!」


 しかし、少年が俺に割いていた五本の剣のうち四本を追加でレングスに当て、九本の剣がレングスが俺に近づくのを阻止する。


「邪魔だぁ!!"破壊連道"!」


「だめ!レングス!」


 チニーの止める声を無視し、さらに刃先に拳を当てることをいとわずにレングスは"破壊連道"を発動した。九本のうち六本は刀身を殴られて破壊されたが、残りの三本は強化された切れ味を纏った刃先でレングスの拳を受けたために破壊されなかった。


「くっ……」


「レングス、手……」


 さらに切れ味の強化を受けた刃先を殴ったことでレングスの拳は二つに裂けてしまっていた。


「あはははは!これが粛清です!!あなたたちは機神様に楯突いた。その罪を今償っているのです!その痛み、しかと受け止めてくださいね。」


 残った三本の剣はテリー、チニー、レングスにそれぞれ割り当てられた。これで全員、一本の剣が目の前に浮いている状態である。テリーとチニーは死を前にしたことで怯えて声が出ないようだった。レングスは拳から噴き出る出血量で意識が飛びかけているようだった。


「では、皆さま。これでお別れですね。」


 少年は狂気に染まった顔をしていた。その顔には信仰心などなく、粛清という大義名分のもとに残虐な行為を楽しんでいるように見えた。


「私は悲しさと嬉しさでいっぱいです。機神様の新たな信仰者を得られなかった悲しさと、そんな不届き者を粛清できる嬉しさでね!」


 少年は全員に剣を振り下ろそうとした。その時、俺は心の中で唱えた。


 (信仰、強化対象ともに上之手福かみのてさき、スキル"信仰心"発動。強化内容"回復"、"飛翔"、"発砲"、"伸縮"。)


 剣が振り下ろされる瞬間、俺は一気に四つの強化を発動した。"回復"で自分とレングスの負傷を治し、"飛翔"と時間"伸縮"で高速移動をし、"発砲"の黒玉で四本の剣を全て飲み込んだ。


「なんだ!何が起きた?」


 気を失ったレングスを除くその場の全員がは伸縮された時の中で起こった一瞬の出来事に理解が及ばず混乱している。それもそのはず、一瞬で剣四本が消え、とどめを刺したと思った人間が完治し、瀕死状態だった俺が後光を携えながら空を飛んでいるのだから。


「どういうことだ?」


「私が本当の神だということだ。」


「なんだと?」


「本物の神として教えてやろう。お前は機神のことを神だと思っているようだが、それは違う。」


「ふんっ、少し強いくらいで調子に乗るなよ。それに機神様を知らない分際で神を騙るなど烏滸がましいにも程がある!」


「それは機神の方だ。本当の神である私を差し置いて神と騙っている烏滸がましい存在はな。」


「ならお前の力を見せろ。本当に神なら、なんだってできるんだろ?なんせ神は全てを持ち、全てを与えることができる存在なんだから。」


「いいだろう。お前の望みを言え。」


 少し悩んで少年は答えた。


「ならばこの剣の斬撃を防いでみろ。この剣の刃先にはどんな物体をも貫通する切れ味とスキルを無効化する力が付与されている。お前が神だというならこの最強の剣を避けずに防いでみろ!そうしたら信じてやる。」


 少年が出した過去一番の無理難題に俺は神の知恵を使わざるを得なかった。

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