力と頭脳
降伏した九人の鞘を取り上げ、俺たちはまず話を聞くことにした。戦闘が終わるとチニーはレングスの背中から降りて隣に立った。離れていた俺とテリーも合流する。
「お前たち、これで全てが機神とやらの言う通りになるってことがまやかしだって気づいたか?」
レングスがそう聞くと、九人は全員首を縦に振る。
「よし、機神とやらへの忠誠心がなくなったなら質問に答えてもらおうか。ずばりこの鞘はなんだ?なぜ何度もこの鞘から剣が出てきた?」
レングスが質問すると九人は皆黙ってしまった。
「おいおい、別に回答を間違えたところで死ぬわけじゃねぇだから。誰でもいいから喋りな!まあ嘘ついたら殺すかもしれないけどな!」
(最後にそのセリフ言ったら何の意味もないんじゃ……)
レングスの上手いのか下手なのかわからない話術で九人が戸惑っていた時、一人が答えた。
「わ、わかりません。この鞘は機神様から頂いたもので、この鞘からは強化された剣が無限に出るとしか言われていません。」
「ほう?それは誰でも使えるのか?」
「わかりません。」
「そうか、嘘をついているようには見えないな。となると俺たちで解析してみるしかないか。」
レングスはそう言って鞘から出ている剣の柄の部分を引っこ抜いた。すると先ほどまで十人衆が使っていたのと同じ強化された剣が出てきた。
「こいつはすげえな!誰でも使えるってことか!」
(たしかにこれはすごいな。こんな武器が誰にでも使えるのならスキルがなくてもスキル持ちに勝てる可能性だってある。)
俺が武器に感激していると、レングスが俺に向かって言った。
「福もこの鞘から剣を出してみろよ!ほらっ!」
そう言ってレングスは俺に鞘を投げた。俺は鞘を素直に受け取ったが、その瞬間あることに気づいた。
(あれ?この鞘って確か"破壊伝道"とかいう能力が付与されてるんじゃなかったか?俺触っちゃったけど……)
しかし、俺の体に変化は起こらなかった。
「レングス、そういえばこの鞘には"破壊伝道"が付与されてるんじゃなかったか?それとももう解除したのか?」
「あー!それのことか、あれは嘘だぞ!」
レングスは高笑いしながら喋る。九人衆も俺とテリーも笑えずにその場に立っていた。
「悪い悪い!俺のスキルは敵を生捕りにするには向いてないからな!だから相手を生捕りにしたい時はブラハを張って相手の戦意を無くすのが常套手段なんだ。そして、いつも戦闘中にどんなブラフを張るか考えてくれてるのが俺の頭脳である……」
「チニーだ。」
チニーはドヤ顔をしながらレングスのセリフに被せる。
(なるほど、それで背中にくっついて戦っていたわけか。)
だが"破壊伝道"がブラフならば、なぜ鞘に触った十人衆のリーダー格は体が破壊されたのか。
「チニー疑問に答える。鞘に触ったやつが死んだのは"破壊連道"でそいつにだけ破壊を付与した殴りをしておいたから。」
チニーは皆が疑問を口に出す前に説明しだした。
「あのリーダーみたいなやつはとりわけ機神への信仰心が大きかった。だから、そいつが最初に鞘に触ると予測できた。」
全てを完璧に説明し終えたチニーはやはりどこか自慢気だった。
(作戦もそうだが、人の思考の先を読んで会話をできるチニーの頭脳は恐ろしいな。それにレングスのあのスキルが加わればたしかに最強に近いペアだろう。)
レングスたちとの戦闘という最悪の場合に備えて俺はレングスとチニーの分析をしておく。
「おい福!ぼーっとしてないで早く鞘から剣を出してみろよ!」
そんな思考に耽る俺を見兼ねたのか、レングスは俺に剣を抜くように催促した。
(そうだった、今はこの魔法の鞘について考察しなければ。)
早速、俺は鞘から剣を抜いた。すると十人衆の時やレングスの時と同じ剣が出てきた。
「おお!チニーとテリーも抜いてみな!」
そしてチニーとテリーも見事に強化された剣を出すことができた。
「これでこの鞘が少なくともここにいる中の全員には使えることがわかった。次はこの剣に付与されている強化の調査だな!」
どうやらレングスはこの魔法の武器についてとことん調べるようだ。
(やっぱ力の都出身だけあって力の研究にはかなり熱心だな。)
俺はレングスが剣の調査をしているうちに捉えた九人衆に話を聞くことにした。
「お前たちは、なぜこの頭脳コロシアムに参加した?」
「それは優勝商品と名誉が欲しかったからだ。」
レングスの時よりは緊張感が薄いのか、九人衆は俺の質問にはすぐに答えた。
「それならなぜこんな共謀を企てた?」
「僕たちだってこんなこと別にやりたくなかったさ。ただ、あの機神の言うことに逆らえば命はないと思った。だから従うしかなかったんだ。」
(まあよくあるパターンだな。)
「そうか、では質問を変える。お前たちこれに見覚えは?」
俺はそう言ってテリーが機械の部品だと言ったものを見せた。すると九人衆のうちの機械製造に関わることを生業としている一人が答えた。
「それは機械の部品だと思います。そして、それを百ほど集めれば一体の機械ができるかと。」
(やはりそうなのか。それに部品を見せても特に驚きのないところを見るとこいつらも既にこの部品を持っているっぽいな。)
「お前たちは何個持っている?」
「二十個ほどです。」
(そんなに持っているのか!一体どんな手段を使ったんだ?)
仮想現実に来てほぼフルに動いた俺たちが三個なのだ。どう考えても不自然な量を持っていると感じた。
「それはどう手に入れた?」
「それは……言えません。」
「なぜ?」
「それも、言えません。」
「言わなければ殺すとしてもか?」
「はい……。」
(なるほど、そうなると機神とやらに死に関連する制限をされているっぽいな。)
部品に関してこれ以上聞くことはできないと思った俺は最後の質問をした。
「機神はどんな奴だった?」
「それは……やはり言えません。」
(だろうな。)
部品のことで言えないように制限しているなら、自分を詮索することについて制限をするのも当たり前だ。俺はほんの少しだけ抱いた希望を捨て、こいつらとの会話を終わろうとした。
「あ、あの!」
しかし俺が立ち去ろうとした時、九人衆の中の一人が声をあげた。