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皆殺し合い


 俺たちはコロシアムの会場へと向かった。これといって必要な持ち物はなく、とにかく頭脳さえあれば優勝の可能性は誰にでもあるらしい。


 (本当にただの頭脳戦で終わるとは思えないが。)


 俺はなんとなく頭脳戦の裏に何か他の戦いが潜んでいると思いながら歩みを進めた。


「はぁ、緊張するなぁ。」


 そんな俺とは対照的にテリーはかなり緊張している様子だった。


「大丈夫だ、負けても死ぬわけじゃないだろう?」


「た、たしかにそうだけど……」


 (まあ優勝しないと旅に着いてこないっていうからには優勝してもらわないと困るけど。)


「いざとなったら私の力でどうにかするから安心してればいいさ。」


「そ、そうだね。でも、まずは僕自身の力で戦い抜いてみせるよ!」


「よし、その意気だ。」


 そんな会話をしながら俺たちは会場に着いた。会場は意外にも狭く、テリーの工場と同じような様相だった。会場の入口には機械が立っていて受付を行なっている。


「エントリーNo.141番テリーさん、助手の福さん。これを付けて中へどうぞ。」


 機械は俺たちを一瞥いちべつするとそう言って仮面を渡し、受付を通した。


 (なんだこの舞踏会で着けるような仮面は?それに……)


「なぜ私たちのことを認識しているんだ?」


「僕たちのことを認識してるのは僕たちの生体情報をインプットしてるからだよ。コロシアムの参加者は試合当日までに何か生体情報がわかるものを提出してるから。」


「私は何も提出してないぞ?」


「あ、福くんのは勝手に提出しちゃった。寝てる時に髪の毛を一本抜いて。」


 (おいおい、普通に怖いな。)


「そ、そうか。」


 とにかくその提出された生体情報を基に実物かどうかを機械の目でスキャンして判断しているようだ。改めてここの科学技術には驚かされる。


 (もしくはスキルかもしれないがな。)


 トガリ都の闘技場の入口でも受付の女の人がスキルで荷台の中身を覗いてきたことがあった。そう思うと、類似したスキルがあってもおかしくない。


 (まあどちらにせよ戦闘面の脅威にはなり得ないか。)

 

 そんなことを考えながら仮面を付けて俺とテリーは会場内に入って行った。会場内には壇上があり、その方向に向かって椅子が数多く並べられていた。会場には助手を合わせて既に三百人くらいの参加者がいた。もちろん皆一様に仮面をしている。


 (なんだこの異様な光景は。一体どんな頭脳戦が始まるっていうんだ?)


 入場して五分ほどした時、会場の明かりが急に消え壇上にスポットライトが当てられた。現れたのは俺たちと同じような仮面を被った女性だ。


「お集まりの皆様、本日は頭脳コロシアムにお越しいただき誠にありがとうございます。私はこの頭脳コロシアムの開催者兼このジェン都の長のベインです。」


 そう言ってベインは深々とお辞儀をした。


「今回私が招待させていただいたここにいる計300名の皆様はこの都でも特に頭脳が優れた方々です。ゆえに今回の頭脳コロシアムで皆様の奮闘を期待しております。」


 (あれがジェン都の長か。頭脳の都の長ということは相当頭が切れるのは間違いないが、果たして善人か悪人か。)


 だが、ベインの人間性を探りたくとも仮面を被っているため顔が見えず、今のところ服装や声でしかイメージできない。そして、そこから導き出されたイメージは子供っぽいということだ。真っ赤で長い髪に真っ赤なドレス、女の子らしい声、そしてなにより丁寧な口調が逆に貴族の子供のようなイメージを抱かせる。


 (まあ、見た目のイメージは所詮当てにならないものだ。テリーに少し長について聞いてみるか。)


「テリー、ベインはどんな人物か知っているか?」


「うーん、僕は基本工場と訓練場にしか出向かないから世間知らずなんだよね。だから人物像を知らないどころかか名前も初めて聞いたよ。」


 (そういえばそうだった。)


「そうか。だが機械製造の依頼者は都の長じゃないのか?その関係で少しくらい知った仲にならないのか?」


「ならなかったね、というか誰が依頼者なのかも知らないもん。定期的に通達が来て、そこに書いてある指定日に作った機械を知らない人に手渡してお金を貰う。その繰り返しをやってきただけだからね。」


 (まじか、てことはテリーは今まで名前もなにも知らない相手の依頼を受けてたってことか?)


 親がいないまま育ってきた子供の価値観を舐めていた。


 (普通で考えれば顔も名前もしらない相手の仕事を受けるなんてありえないが、そうしなくては生きていけないという状況下で生きてきたテリーにとってはそれが常識なんだ。)


 常識なんて所詮大衆的な価値観でしかないことを思い知らされる。


 (とにかくテリーもベインについて全く情報を持っていないということだな。)


 俺たちがそんな会話をしている中、ベインが再び喋り出した。


「では早速今回の頭脳コロシアムのルール説明を行います。前回大会までは形式がランダムと言っても、訓練場で皆様が星を獲得するためにやっているような訓練セットを使った頭脳戦にある程度似た形式で行われていました。」


 (テリーが形式がわからなくてもある程度対策できると言っていたのはそういうことか。)


「しかし、今回は趣向を変えて見ました。いつも皆さんは頭脳戦をする中で負けても肉体的に傷を負うことはありません。そのノーリスクな戦闘のおかげで、頭脳コロシアムは毎回かなり攻めた戦いが出来ます。それが醍醐味でもありますが、それでは現実の戦闘とは程遠い。」


 (たしかに現実の戦闘で捨て身の攻撃を作戦に入れるというのは非人道的だな。)


「ですのでこれから皆様には頭脳戦と肉体戦を合わせた本当の戦闘、つまり殺し合いをやってもらいます。」


 思わぬ戦闘内容に会場内はどよめきに満ちた。

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