新たな都長と出立
俺はゼラの店を出た後、数日かけて全ての娯楽施設を堪能した。そして、ついにルカスを都長に推薦するための集会の日が来た。
(村で話をした時は全く緊張がなかったが、さすがに数万人の前で話をするとなると少し緊張するな。)
「さ、福様、俺はどうしてればいいんでしょうか。」
「ルカスはただ立っているだけで良い。」
(まあ最後に一言くらいは言ってもらうつもりだが、これは言わないでおこう。)
俺よりも遥かに緊張しているルカスは目に見えて震えていた。そんなことを露ほども知らない都の人々はどうやら集合が終わったようで、集会場への案内役から集会準備ができたとの報せが来た。
「いくぞ、ルカスよ。」
「は、はいぃ。」
そして、俺たちは案内役と共に"飛翔"を使い集会用の建物へ向かった。
(街の様相はすっかり元通りと。さすが建築系のスキルだ、前の世界だったら数年かかるような大工事を数日で仕上げてきたな。)
復興の速さに感嘆しながら集会場に着いた。
「この中に皆います。お好きな時にお話をなさってください。」
「わかった。」
俺はルカスと案内役の"飛翔"を解除した。そして、自分は"飛翔"をしたままその中に入った。ルカスも続けて入ると会場がざわつく。
「皆、まずはよく集まってくれたな。今から話すのは現時点で仮の長である私から私の提案だ。」
都の人々に緊張の色が見え、会場が静まり返る。
「私の提案とは、ずばり次期都の長にこのルカスを据えてはどうかというものだ。」
さっき以上に会場がざわつく。
「静粛にせよ。あくまで提案だ。だが、私は決してこの都の長にはならない。なぜなら私は魔王を討伐しに行くからである。」
この発言に会場中が驚きの声をあげたが、それよりもルカスが一番驚いているようだった。
「私は神だ。この都で諸君らを救ったように他の都の者たちも救わねばならない。それが神の義務であり、そのために私の力はある。これが私が都の長になれない理由。そして、なぜ次の長にルカスを推薦するのか、その理由は彼の言葉を聞けばわかる。」
そう言って俺はルカスに"通話"をした。
(ルカスよ、演説をするのだ。)
(え!?福様がさっき立ってるだけでいいって……)
(状況が変わったのだ。いつか私に話していたようにこの都をどうしていきたいかを言うんだ。私は君を信じているぞ。)
(福様がそう仰るなら……わ、わかりました。)
ルカスは無茶振りをされながらもなんとかそれに応えよう演説を始めた。
「俺が、じゃなくて僕が今福様に推薦されたルカスです。僕はこの都で育ちました。でも当時から強さが絶対だったこのトガリ都で弱かった僕は強いと評判だった兄貴と呼ばれる人にいつも付いていくだけの人生でした。善悪を考えることもなく、ただ兄貴に従うだけの毎日です。でもそんなある日福様に出会い、その日から全てが変わりました。」
(まるで我が子のスピーチを聞いているようだな。)
「神という圧倒的な力を持つ存在でありながら、他人を力で従わせるのではなく、その高貴さで従わせていく福様の姿を見て力は一つの手段にすぎないことに気付きました。だから、僕がもし次期都の長になれたなら、この故郷であるトガリ都を力じゃなく、優しさで溢れる都にしたいです。そして、福様に負けないくらいの気高さをこの都にも溢れさせたいと思います!!」
ルカスは思っていたことを全て言えたようだった。
「あ、すみません!福様に負けないなんて無理に決まってますよね。」
「いや、それでよい。大事なのは事実ではなくその気持ちだ。」
「は、はい!!」
すると会場の方から次々と拍手と歓声が聞こえてきた。
「いいぞ〜ルカス!俺はあんたを応援する!」
「あたしもあなたの理想を実現させたいわ!!」
賛成の声が続々と上がってくる。どうやらルカスを次期長にすることに成功したようだ。
「では、諸君。私は現時点をもって長の地位をルカスに渡す。異論がある者はいるか?」
誰も声をあげない。
「よろしい。」
こうしてルカスはトガリ都の長になった。
(よし、これで全て予定通りだな。)
翌日、俺はこの都を出発することにした。見送りには都の全員が来てくれた。
「福坊や、もう行くんじゃな。」
「ああ、世話になったな。ゼラよ。」
「あたしの方こそ助けられたよ。またここに来た時はマッサージしせとくれよ。」
「そのときは頼む。」
ゼラとの別れを済ませた後、ルカスが別れの言葉を言ってきた。
「福様、今まで本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません。」
ルカスは泣きそうになりながら喋っている。
「よい、また帰ってきたり通話したりすることもあるのだ。その時は長として立派になっているのだぞ。」
「はい!必ず福様の役に立って見せます!!」
ルカスとの別れが終わると都の全員が俺に歓声を送った。俺は別れ際にこう言った。
「諸君らは、この上之手福の誇りだ。諸君らの祈りは必ず私に通じる。ゆえに祈るのだ、諸君らの名の下に私の勝利を。さすれば私はどんな者をも打ち砕く剣となり、どんな者をも守る盾となろう。」
都の人々からの歓声は最大限に高まった。俺はその大歓声を受けながら"飛翔"でトガリ都を旅立った。