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闘技場歴代王者


 (なぜ"断罪"が効かない?なにか発動の条件が違ったのか?)


 だが、赤い稲妻が出たことから発動していることはたしかだ。


「なぜ効かない?という顔をしているな、上之手かみのてよ。」


 奴がルカスの顔でにやけながら喋っている。


「さっきあの老婆の体でその技を喰らった時はまさに俺の天敵だと思ったが、この体には効かないな。」


 (この体にはということは、ルカスの体にはということか?)

 

 さっきの老婆とルカスの体の違い、というよりスキルの違いを考える。


 (老婆は"雷"、ルカスは六つの能力。"飛翔"、"発砲"、"破壊"、"回復"、"通話"……まさか!)


「"状態異常回復"か。」


「その通り。お前が赤い稲妻の技を出す時の人差し指を向ける動きに対応させて、"状態異常回復"を行えばほとんどノーダメージであの技を防げるんだよ。」


 "状態異常回復"はアンネとの戦闘の際に手に入れた強化だ。具体的に言えば、彼女のスキル"不自由"による俺の体の不自由を治すためのものだった。


 (それに、さっきのオート操作された人々を解除する時の"状態異常回復"も操られた体を治すためのものだった。)


 そのため俺は"状態異常回復"を体の不自由を解除する能力だと思い込んでいた。だが、俺のスキル"信仰心"は信者のイメージを具現化するものだ。


 (アンネのイメージには精神的な"状態異常回復"も含まれていたということか。)


 それなら"断罪"をほとんどノーダメージで防げるということの辻褄は合う。


 (良くも悪くもこんなに"状態異常回復"が優秀だったとは……。)


 "状態異常回復"の優秀さと、ルカスとはまともに戦うしかないということがわかった俺はすぐに戦闘態勢に入った。


「やっと戦う気になったか、上之手。だが、ここで朗報だ。」


「なんだ?」


「お前も噂くらいは聞いたことあるだろう、俺に挑戦してきた過去の闘技場優勝者が全員姿を消してるってことを。」


 (そういえばこの都についてすぐにルカスがそんなことを言っていたな。)


「それがどうしたというのだ?」


「まあお前なら察しがついてると思うがそいつらは俺の操作対象になってるんだよ。だが、操作対象にしてからずっと地下のある部屋に保管しててな。だから失踪したなんて噂が広まったんだが……」


「貴様まさか、」


「そう、つまり俺が動けと命じればそんな歴戦の猛者たちが一斉に動くわけなんだ。」


「その前に貴様を殺す。」


「残念。さっきそいつらには命令を出しておいたんだよ、都の人全員を殺せってね。俺のことを知った奴らは要らないからな。」


「だが、貴様が今マニュアル操作しているのはルカスだ。つまりはその猛者たちはオート操作だということ。そんな意思もスキルも持たない人形に負けるほど都の人々はやわではない。」


「なかなか俺のスキルを把握しているな。だが、物心ついてすぐにこのスキルと向き合った俺には圧倒的に及ばない。」


「なんだと?」


「たしかにオート操作では操作対象はスキルが使えないし、スキルがなければいくら猛者でも奴らには勝てない。だが……」


 奴はまたにやけ顔をしながら喋り出した。


「マニュアル操作でスキルを使ったままオート操作に戻せばオート操作にした後もスキルを使ったままにできるんのさ。そして俺は総勢三十人の猛者にそれを仕込んでおいた、都の人々を殺せという命令と共にな。」


 (老婆のときはマニュアル操作を解いた瞬間に肉体も精神も老婆のものとなっていた、もちろんスキルも解除されていた。まさかあれはこの展開を読んで……)


「老婆はブラフだったか。」


「そうさ、老婆のマニュアル操作解除の時にはスキルも肉体も精神もあえて全部解除しておいた。この時のためにな。」


 (さすがに人を操ることに関しては誰よりも長けていると言っても過言ではないな。)


 俺は神の知恵でも及ばなかったヤガナの思考回路に関心しつつも、内心焦っていた。


 (もし、奴の言った通りに歴代の猛者たちが暴れてしまったら確実に大勢の都の人々が死ぬ。そうなれば助けられなかった俺への不満が"信仰心"の能力に響いてくる。それに信者を失うのは嫌だ。)


 急いで"通話"を都の人々に繋ぎ、状況を把握しようとした。するとすぐに応答があった。


 (さき様、どうされました?)


 (そちらに異常はないか?)


 (異常…ですか?特にありませんね。)


 どうやらまだ猛者たちと遭遇していないらしい。


 (おそらくもうすぐそちらに歴代の闘技場王者たち三十人が、諸君らを殺しにやってくる。ゆえに諸君らはできるだけ闘技場から離れておくのだ。)


 (行方不明になっていた歴代の王者たちが僕らをですか!?)


 通話に出た男性は相当動揺している。


 (でも、今ぼくたち福様の跡を追って闘技場の近くまで来てしまっています……)


 (なんだと!!)


 (すみませ……わ、見えました!本当に行方不明だったはずの王者たちがこちらに向かってきます!!)


 俺はとにかくやるべきことを伝えた。


 (その三十人もヤガナに操作されており、しかもスキルを使ってくる。なんとかして都の人々で団結し、時間を稼ぐのだ。私がヤガナを倒すまでの辛抱だ。)


 (わかりました!歴代王者だろうが関係ありません!福様に救ってもらったわれわれ数万人で必ずやその三十人に勝ってみせます!!)


 男がそう言うと"通話"が切れた。


 (なんとも頼もしい信者たちだ。さて、俺は俺のやることをやらないとな。)


 一刻も早くヤガナを倒さなくては都で何人の犠牲が出るかわからない。


「なにやら考え込んでいたようだが、そろそろ行くぞ。」


 奴はそう言って"発砲"の構えをした。


 (ルカスを解放しなければならないのはわかっているが、"断罪"も"状態異常回復"も効かないとなると解放は難しい。ならば動きを止めてヤガナ本体を叩く。)


 俺も"発砲"の構えをし、お互いまるで西部劇のガンマンのような立ち振る舞いだった。


「第3ラウンドだ、上之手!」


 その言葉を引き金に俺と奴は黒玉を同時に放った。

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