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神の概念がない世界


 (ここは…村か)


 土砂降りの雨の中、俺は赤ん坊としていきなり村の中に転生したようだ。それに今は何かの祈りの最中のようで、村人たちが集まっている。もちろん集まっている村人たちは全員唖然としている。

 

 普通こういう異世界転生ってのは、空が綺麗に晴れていて、お家の中で親に見守られながらされるものだろうに。俺の近くには人っ子一人居なく、ただたくさんの農具や祭具が祀られているばかりだった。


 (この状況から察するに、どうやら俺はどこかの辺鄙へんぴな村で豊作か何かを祈る儀式か何かの最中に呼ばれたっぽいな。)


 遂に果たした異世界召喚の割に冷静な判断ができたのはあの爺さんが俺に与えた知恵のせいかもしれない。とにかく状況を正確に把握しないことにはどうしようもない。まずは情報を集めるところからだ。


「汝らは何を望む?」


 情報を集めると言いつつも、この召喚状況から考えて普通に喋るのはあまりTPOに合わないと考えた。だから、願いを聞き入れる者っぽく喋った。


「赤ん坊が喋った!?」


 だが、喋り方の問題ではなかった。赤ん坊になったことを忘れたまま普通に喋ってしまった俺を見て、村人たちの驚きは一段と増し、情報の収集はおろか、事態の収拾がつかなくなりそうになったその時、


「皆のもの静まれ!」


 と村長らしき人間が叫んだ。そしてさっきの俺の質問に答えた。


「まずは、私たちの無礼をお許しください。ただでさえ田舎で何もないこの場所に、このような驚嘆すべきことが起きるとは誰も予想できなかったのです。


 そして、あなた様の質問に答えさせていただきます。私たちの望みはひとえにこの村の平穏でございます。」


「ほう。具体的にはどんなことを、誰に願っていたのかな?」


 ここにくる直前にあの爺さんは言っていた。この世界には神の概念がない、すなわち信仰心がないと。それなのに誰に願うのかとふと不思議に思ったのだ。


「はい、私たちは干ばつや不作を防ぐために、ご先祖様たちが使っていた農具や祭具に雨乞いをしていたのです。そして、雨乞いが成功したと思った矢先あなた様が現れたのです。」


 どうやらこの世界では、神や仏に祈ることはなくとも、物やおそらく人などの実際に存在するものには祈るということをするらしい。


 (信仰心はなくとも単純な懇願心はあると言ったところか。)


「明らかに高貴なお方、無知な私たちに一つお教えください。あなた様は一体どのような方なのでしょうか。いきなり現れたことや赤ん坊なのに喋れること、また、雨がこの上もないほど降ってきたのはあなた様のスキルによるものなのでしょうか?」


 この質問はなかなか難しい。なにせ俺はまだ転生して数分程度しか経っていないからだ。だが、この状況でわからないと答えるのは神として駄目だと思い、俺はとりあえず答えてみることにした。


「私がここにいきなり現れたことや喋れること、この雨が降ったことはスキルによるものではない。私がいったい何者か、その問いに対する答えは一つである。私は……神だ!」


 (言ってしまった……この神の概念がない世界で神であると…。)

 

 とりあえずで開いた口から出た答えは"神"だった。とうぜん村人たちはポカンとしている。村長でさえ何を言っているかわからないという顔をしている。


「神とは全てを持ち、それを与えることのできる者のことである。手始めに、汝らの願いを我が力で叶えたではないか?雨乞いをしていたのだろう?それは私が叶えたのだ。」


 神と言ってしまったからにはもう止まれないと思った俺は流れるように嘘をついた。


「そして神には人間の常識は通じない。それゆえに急に現れることや赤ん坊なのに喋ることができるのである。」


 一度嘘をついたら、そこからは簡単だ。嘘を上塗りしていくだけの作業。もし矛盾が生じてしまっても神という言葉を使えばどうにでもなる。


「ああ、なんたる幸運でしょう。こんな辺鄙な村に神?と呼ばれる人智を超えたお方が現れるとは!いくら感謝してもしたりません!」

 

 どうやら信じてくれたようだ、このまま押し切るほかない。


「作物のことに関しても任せるが良い。私が知恵を授けよう。」


 幸いにも神の知恵で豊作の方法なら思いついた。


「ああ、なんと尊きお方。皆のものこのお方に平伏するのだ!」

 

 その場にいる村人たち全員が地面に手足をつき頭を垂らす、いわゆる土下座フォームをとっていた。


 そしてそのとき俺は思った。この世界に神という概念がないなら新しく作ってしまえばいいと。 

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