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伝説の老婆


「やってくれたな、上之手福かみのてさき。」


「貴様がこの街の人間を操作するのにどれくらい時間をかけたかは知らぬが、もうほとんどの操作は解除された。もし、この戦いに貴様が勝ったとしても人々の信用を失った今、貴様は長としてこの都には居れまい。」


「だから降参しろと?笑わせるな。私がなりたいのは"この都"の長ではなく、"都"の長なのだ。ここに住む人々が全員死んだとしてもまた新しい住人を受け入れればいいだけだ。」


「そうか、やはり貴様は長に相応しくない。私が貴様に相応しい地位を与えてやろう。」


「相応しい地位だと?」


「貴様には罪人の地位が相応しい。」


 俺はそう言ってマニュアル操作の人間にも"状態異常回復"が効くのかを試すため、早速"状態異常回復"を施した。しかし、老婆が解放された様子はない。


「どうやらその能力で他の人間のことは治せたようだが、こいつには無駄だ。今こいつは肉体と精神のどちらも俺に主導権を握られている。他の操作されている者と違って肉体と精神が合致しているということはこの体にはなんの異常も生じてないという認識になるんだよ。」


 (やはりそうだったか、体も心も異常を感じてないならば"状態異常回復"で治しようがない。それならば……)


 俺は二メートル級の黒玉を上空に放った。


「なんの真似だ?」


「気にするな。お前を裁くための準備をしているだけだ。」


 (おそらく奴はオート操作対象の中から任意にマニュアル対象を選び、操れるのだろう。だから目の前のマニュアル操作対象を倒してもすぐに別のマニュアル操作対象が俺を襲ってくるだけ。)


 そのため、俺はもしマニュアル操作の者を"状態異常回復"で解放できなかった場合のために、先ほど解放した者たちとある作戦を立てておいた。それはヤガナに次のマニュアル操作の対象を作らせないというものだ。


①もし俺がマニュアル操作の者を解放できなかった場合は上空に黒玉を放つ。

②その後、全員に"通話"を繋ぎ、都の人々の解放活動の進捗しんちょく状況を逐一受ける。

③全員の解放活動が終わった"通話"を受けたら奴のマニュアル操作の人物を倒す。


 これが作戦の概要である。つまりさっきの黒玉は作戦の第一段階だったのだ。


 (奴のスキルの強さは人間操作の中でも特にマニュアル操作による他人のスキル使用だ。ゆえにマニュアル操作を封じ込めることができれば恐るるに足りない。)

 

 俺は"通話"を繋ぎ、作戦を②の段階に移行した。


 (状況は?)


 (はい、福様。全員でしらみ潰しに操作対象を探していますが、ある程度近づくとなぜか操作されている者たちの方からこちらに近づいてくるので円滑に進んでおります!)


 おそらくそれはヤガナのオート操作対象への設定の問題だ。奴はオート操作対象への設定を操作対象外の者の感知と襲撃に設定しているいうことだろう。先ほどはその設定によって俺やルカスの居場所が見つかったが、今となってはこちらに有利に働いている。


 (よし、残りはどれくらいだ?)


 (おそらく数百人程度かと。)


 (そうか。引き続き解放活動を続け、全員解放を達成したら合図をするのだ。)


 (かしこまりました。)


 俺は一旦"通話"を切り、目の前の敵に集中した。


 (この相手、かなり強いスキルを持っている可能性が高いな。)


 ヤガナがマニュアル操作対象を選ぶ際にスキルを吟味できるのなら、この都の全スキルから任意で一つスキルを選べるようなものだからだ。俺はどんな攻撃が来ても反応できるように"伸縮"を準備しておいた。


「上之手よ、お前がどんな作戦を持っているかは知らないが今お前が死ねばその作戦はダメになるのだろう?」


 奴は妙な笑みを浮かべると話を続けた。


「お前はここに来てまだ数日しか経たないのだから知らなくても無理はないが、このトガリ都には伝説の老婆がいるのだ。」


「伝説の老婆だと?」


「そうだ、その老婆はこの都よりもさらにもっと先にある魔王城に一番近い都からやってきた人でな。この都には隠居生活のためにやってきたらしい。」


「魔王城に一番近い都?」


「冥土の土産に教えておいてやろう。この世界には五つの都がある。世界の果てにある魔王城に一番近い最後の都、その手前に並列に存在する三つの都、そして、最も魔王城から遠いこのトガリ都。つまり、ここは始めの都なのだ。」


 (たしかにこの都に入る時門番は'最初の都へようこそ'と言っていたな。あれはそういう意味だったのか。)


「わかるとは思うが、魔王城に近い都ほど住む者の実力は高い、闘技場の者たちが霞むほどな。」


「それで私の目の前にいる老婆がその御仁というわけか。」


 俺はわかりきったことを口にして少しでも時間を稼ごうとした。


「そういうことさ。さあ、土産話は終わりにして始めるとしよう。」


「もう少し土産が欲しいところだが?」


「いや、よく考えたら冥土の地に土産は必要ないしな。ではゆくぞ上之手、お前を屠る一撃を。」


 お婆さんに全く似合わないセリフを吐きながら奴は手刀の構えをした。


 (とにかく今は時間稼ぎだ。"伸縮"と"飛翔"で逃げ続ける。)


 離れすぎても奴に作戦を気取られたり、解放活動の邪魔になったりする可能性がある。そのため、俺は"伸縮"での瞬間移動を繰り返して狙いを絞らせないようにしつつ、奴が警戒を怠ることができない一定の距離をとり続けた。


「ふっ、無駄なことを。」


 そう言葉を言い放つと奴は構えた手刀に電気を帯び始めた。

 

「"雷閃"」


 そう言って老婆が手刀を一振りする。瞬間、目の前で閃光が光った。

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