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強化内容"授受"


 王間と他三名の遺体は早急に片付けられ、次の試合の準備が進められた。俺と一心はAランク帯の部屋に戻り、約束の強化の代償の件について話した。


「一心よ、これでよかったのだな?」


「はい、天国の息子も浮かばれます。」


「そうか、では強化の解除とスキルの移行を行う。」


「お願いいたします。」


 一心は片膝をつきながら頭を垂れる姿勢でそう言った。


 (強化解除、そして信仰、強化対処共に上之手福かみのてさきとしてスキル"信仰心"発動、強化内容スキル"授受"。)


 いつもの文言を唱えると一心の体から光が消え、俺の体に力と光が漲った。


 (成功したのか?)


 確認のため、俺は十メートル先の壁の手前までの空間を"伸縮"で移動しようとした。すると、さっきまで見ていた壁が突然俺の目の前に現れた。正確には、俺が壁の目の前に現れたのだが。


「もう"伸縮"を使えるとは!さすが福様でございます。」


 (成功だな。"伸縮"もそうだが、スキル"授受"も手に入れた。つまりは、新しいスキルを手に入れるために必ずしも信者にイメージさせる必要がなくなったわけだ。)


 実際、まだ信者の少ないこのトガリ都で新しい能力を手に入れるのは至難の業だったのだが、"授受"ができるようになったことでさらに早く強くなることができる。


 (だが、やってみて思ったのは他人のスキルを手に入れてすぐ使いこなすのは難しいということだ。特に"伸縮"のような特殊なスキルは慣れるのに時間がかかりそうだ。)


 そんなことを考えつつも俺は一心の今後を聞いた。


「一心、これからどうするのだ?」


「そうですね、福様のことを見ていたいのは山々ですが、やはり故郷に帰ってゆっくり余生を過ごそうと思います。妻もまだ生きておりますので。」


 (じゃあお別れか。)


「そうか、では気をつけるのだぞ。」


「ええ!最初から最後まで本当にありがとうございました、福様。また会える日を楽しみにしております。」


 そう言うと一心は荷物をまとめてこの闘技場から出ていった。


 (都での貴重な信者が減ってしまったな……。)


 俺は少し感傷に浸りながら自分の部屋に戻り、ルカスに一連のことを話した。そして"授受"の件を聞くとルカスは少し驚いて言った。


「となると、俺にはもう"反復"がないということなんでしょうか?」


 この都に入るときにルカスに強化を施した時にはまだ"授受"を手に入れてなかった。だから"反復"を持っているわけはない。


 (だが、少し実験をしてみるか。)


「そうだ、あの時はまだ私との信頼関係が薄かったためにその条件を提示しなかったのだ。」


「そうでしたか。」


 (さあ、どうなる?)


「多少驚きはしましたが、福様に俺のスキルを使ってもらえるならとても光栄です!俺では持て余していたスキルですので、ぜひ今後は福様のもとで使ってやってください!」


 そう言ってルカスは深々と頭を下げた。


「ああ、もちろんだとも。」


 (まさか、これで"反復"が手に入っているのだろうか?)


 だが、確認しようとしても"反復"は効果が出るのに時間がかかるスキルのため今すぐには検証ができない。


 (ちょうどいい。もし"反復"が手に入っているなら、"伸縮"のスキル練習に"反復"を使ってすぐに使いこなせるようになるだろう。)


 そう思った俺は早速部屋で"伸縮"と、あるかわからない"反復"を併用しながら鍛錬を始めた。


 "伸縮"は一度の使用ならばそこまで難しくはないが、一心がしていたような連続使用をしようとすると格段に移動距離の調整が難しくなる。それに瞬間移動から攻撃に転じるタイミングや他の強化との併用に思考を割くとなると、これまたすぐに距離調整がおかしくなる。


 (一心はあの試合の動きをするために何十年も鍛錬を重ねたんだな。)


 スキルを貰い受けるというのはとても魅力的だが、それには当然スキル保有者が培った努力は含まれていないのだ。

 

 (それにもう一つ問題がある。)


 それは"授受"を使用する際の条件についてだ。一心からスキルを貰う際、俺はいつものような'殴る'や'手を銃の形にする'という動作を起こさなかった。しかし、"授受"の発動は成功した。


 (今までからして発動条件がないということは考えにくい。ということは、おそらくこちら側の動きではなくて相手側に何かの動きをさせることが発動条件だろう。)


 相手、今回で言えば一心の'片膝をついて頭を垂れた'という動きの中に"授受"の発動条件があるということになる。


 (とにかく今は鍛錬だな。"破壊"を一心に使わせてしまった以上、もう俺の手札は全て晒されている。次の試合までには"伸縮"をものにしなくては。)


 当初、八人いたAランク帯は今や五人となった。王間に殺された二人はトーナメントの組み合わせ的に俺が次の試合で当たる相手だったがその二人が居なくなり、俺の次の戦いはAランク帯の決勝戦ということになった。


 (王間も居なくなったことでSランク帯はいない。つまりは、次の戦いは都の長と戦う前の最後の戦いになるというわけだ。)


 そう考えると余計に鍛錬を必要に感じ、俺は次の試合までの二日間で"伸縮"と"反復"を併用した鍛錬を続けた。


 そして、二日後。いつもの看守が俺を呼びにきた。


「福様!この戦いで今回の闘技場の王が決まります。私は福様が勝つことを確信しておりますが、くれぐれも油断はなさらないでください。」


「なぜそう思うのだ?」


 俺は看守の顔に不安を読み取り、言葉の真意を問うた。


「はい……。実は今から戦う決勝の相手はDランクから勝ち上がってきた者なのです。Aランクの方や他のランクの方々は皆そいつに油断して足元を掬われております。なので失礼ながら忠告をさせていただいた所存なのでございます。」


 (Dランクから上がってきたということは何十戦も連続で戦い続けて勝ち続けているということ。他の者が負けてきた理由が油断などという言葉で片付くものではないレベルだ。十二分に警戒をしておこう。)


「そうか、忠告を感謝するぞ。看守よ。」


「ありがたきお言葉でございます。」


「ときに看守よ、君の名前は何と言うのだ?」


「福様のお耳に私如きの名を述べるのは烏滸おこがましいかと存じます。」


「よい、述べるのだ。」


「はっ!リオンでございます。」


「そうか、リオンよ。私の勝利を確信するのだぞ。」


「御意に。」


 こうして俺はできる限りの準備をし、Aランク帯最終試合に臨んだ。

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