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復讐心と平常心

通常ルートです。第17部の「復讐の結末」と内容が大きく被りますが、最後が変わってくるのでお楽しみください。


 (まだ隠しダネがあったとはな。仕方ない、最終手段を取るか。)


 俺は"発砲"を使い、脇腹から自分の胸の皮膚と心臓の間に三センチほどの黒玉を撃ち込んだ。常に心臓を狙われていることはさっきまでの攻撃で十分にわかっていた。ならば心臓の前にカウンターを置けばいい。


 (だが、見える位置にカウンターを置いては"伸縮"をキャンセルされるだけだ。)


 だからこそ、体内という見えない位置のカウンターが必要であった。この作戦はとてつもない痛みを伴うため最終手段にしていたが、読み合いに負けたからには仕方がない。


「神とやらの心臓、打ち取ったり!」


 一心がそう叫び、心臓を貫通するかと思われた刀は黒玉に飲み込まれて刀身の部分が全て消えた。


「な、なんじゃ!?たしかにお主の心臓を貫いたはず、なのになぜわしの刀の刀身が消えているんじゃ!」


「言っただろう、神は全てを持つと。そして、私は神なのだ。」


 相手の質問にいつも通りの言葉で返しながらも、作戦通り進んだことに俺は内心安堵していた。


「一体どんな手を使ったんじゃ!そもそもお主のスキルは何なんじゃ!わしは今まで数多くのスキルを見てきたがこんなに様々な能力が使えるスキルは見たことがない!」


「この私の能力はスキルによるものではなく、生まれ持ったものだ。神は生まれながらに全てを持ち、そして与えることができる。」


 少しの間沈黙が続いた後、一心は口を開いた。


「神……か。たしかにお主はわしの求める強さを持っておるのだろう。しかし、全てを持ち、"与える"ことができるのならばわしにその力を与えることもできるということか?」


「無論。」


「ならばその力を一時でいいからわしに与えてくれ、頼む……。」


「一心よ、なぜ力を望む?」


「どうしても許せない奴がいるんじゃ。」


「それは?」


「この闘技場のSランク帯にいる王間おうまという男じゃ。わしは奴に息子を殺されたんじゃ。」


「なるほど、そいつはまだこの闘技場に?」


「そうじゃ、長い間Sランク帯は一人しかいない、なぜなら、王間がいるからなんじゃ。奴はSランクの優雅な暮らしをずっと続けるために、都の長には挑まずAランク帯から上がってきた者を殺し続けるだけの存在なんじゃ。」


「ほう、それは相当に強いのだろうな。そして、そいつを倒すために君は闘技場を勝ち抜いてきたと。」


「そうじゃ、それがわしの力を求める理由じゃ。」


「理由はわかった。次は手段だ、君はこの闘技場で今から私に負けるわけだが、どうやって奴の元に行くと言うんだね?」


「それはもちろん、わしのスキルじゃ。スキルを使えばどんな距離でも一瞬で縮められるからの。」


 (この話に乗れば少なくとも俺が目指すSランク帯の相手、王間のスキルがわかるだろう。それに、爺さんに恩を売ることもできる。)


「いいだろう、では一時的に私の能力を与える。」


「本当か!?」


「ただし、条件がある。私の能力を得たものはそれを返す時に自分のスキルを失うのだ。強大な力を手に入れる代償としてな。それでも望むか?」


 俺はスキルを手に入れる能力を手に入れるため、流れるように嘘をついた。


「もちろんじゃ、奴を殺せるならばこの命ほしくはない。」


「ならば、試合後私の部屋に来るがいい。そこで力を与える。」


 一心は降参を宣言した。この長い話し合いの間観客たちの凄まじいブーイングがあったが、俺は全く気にしなかった。


 (やはり、この観客たちは俺の信者に相応しくないな。)


 試合後、武器を新調して一心はすぐに部屋に来た。


「福くん、いや、福様。わたくしめにどうか力を与えてください。」


「よろしい、本当によいのだな?」


「はい。」


 その短い返事はとても重い響きだった。俺は"雨乞い"と"通話"以外の全強化を施した。一心の体に光と力が溢れる。


「これが福様の力…ありがとうございます。必ず息子の仇を成し遂げてきます。」


「よろしい、力を使うときは力ある自分をイメージするのだ。それと、通話を常時繋げておくから危なくなったら連絡するのだ、君の息子が何より望むことは君が生きることなのだからな。良いな?」


「そうですね……わかりました。」


「では行くがよい。」


 一心は"伸縮"を使って一気にAランク帯の奥にあるSランク帯の休憩場所に行った。俺は"飛翔"で一心の後を追った。一心はSランク帯休憩所に一つだけしかない部屋を斬り開け、息子の仇と向かい合った。


「誰だお前は?」


「わしは貴様に息子を殺された、その仇討らせてもらう。」


 その言葉だけを残して一心はすぐさま王間に斬りかかった。だが、王間はそれをとてつもない反応速度で避けた。その後、狭い部屋では戦いにくいのか、王間は部屋のガラスを突き破り、Aランク帯の試合中である闘技場の試合会場へ出た。一心は"伸縮"でそれを追い、俺は"飛翔"で会場の空中に滞空した。


「なんだ!?あ、あんたはSランク帯の王間!それとそこの爺さんはさっきの試合の!」


「なんで俺たちの試合中にあんたらが!?一体どうなってるんだ!」


 試合中の二人はその状況に混乱し、試合は一旦中断された。だが、王間と一心は互いに向き合ったまま一歩も動かない。その雰囲気に飲まれ、試合中だった選手も動けずにいる。


「試合の妨害が入ったことにより試合中断!そこの二人は直ちに出て行きな……」


 緊張の雰囲気の中、乱入者を追い出そうと審判が二人の間に入った瞬間、審判の首が宙に舞った。


「痴れ者が、俺の間合いに入るなど万死に値する。」


 王間がそう言うと試合中だった二人はすぐさま逃げ出した。しかし、逃げ出そうと王間に背を向けた瞬間、その二人の首も宙に舞ったのだった。


「戦場にいながら俺に背を向けることも死を意味する。」


 一瞬で二人のAランク帯がやられてしまった。観客たちは大騒ぎだ。もちろん、観客たちの騒ぎというのは恐怖によるものではなく歓喜によるものだ。


 (一心よ、王間のあの謎の能力にどう対応するのだ?)


 俺は一心に"通話"を繋げ作戦を聞こうとした。


 (今のところ斬撃系の遠隔攻撃があるということ以外王間のスキルの概要はわかりません。息子の死に方も先ほどの審判やAランク二人の死に方と似たものでした。なので不用意に近づくことは避けたいと思います。)


 そんな"通話"をしていると王間が口を開いた。


「これで復讐の場が整ったな、老人。お前のさっきの動き、移動系のスキルか時を操るスキル……もしくは空間にまで作用する物質変化系スキルだな?」


「そんなことを教えるわけがなかろう。」


「まあ、そうだろうな。だが、その不自然に長い刀を見れば三番目の物質変化系スキルということはわかる。今の質問はお前の度量を試したのだ。だが、知れていたな。」


 王間はどうやら頭も回るらしい。それに相手の気持ちをコントロールするような喋りをする。俺は一心の頭に血が昇ることを予測して、一心を落ち着かせた。


 (一心よ、動揺するでない。王間もこちらのスキルの概要がわかっただけで詳細がわかっているわけじゃない。あくまでも冷静に対処するのだ。)


 (はい、福様。)


 そして一心は言葉を返した。


「そういう貴様のスキルこそ、空間に作用するものなのではないか?わしの初撃を躱した異常な移動速度、距離に関係なく相手の首を刎ねた攻撃、それらを見れば空間に関係のある能力なのだとわかるぞ。」


「ほう?なかなか冷静な老人だな、それに頭も回る。そういう人間は嫌いじゃない。」


「お前に好かれても一ミリも嬉しくないわ!本当に嫌いでないなら死んでわしを喜ばせてくれ。」


「ふん、この俺に指図するとは……少し度が過ぎたな。」


 そう言うと王間から鋭い殺気が出た。一心もそれを感じたのかすぐに剣を構えた。だが、俺はこのままではやばいと感じすぐに一心に指示を出した。


 (一心よ、すぐに"伸縮"でできるだけ不規則な動きをするのだ。このままそこに留まっていてはおそらく先の三人と同じ運命を辿ることになる。)


 (は!かしこまりました。)


 一心は構えを止め、"伸縮"で不規則な動きをしながら王間と距離を取ろうとした。だが"伸縮"を使う寸前、一心の左腕は宙に舞った。

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