表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/76

強化内容"状態異常回復"


 一回戦を突破して馭者が待つ独房へ戻ろうとする俺を他の独房の者がジロジロ見てくる。どうやらこの部屋のモニターで試合を見られていたようだ。


「ひゃ、さき様、お疲れ様です!相手をほぼ無傷で降参させるとはさすがの試合運びです!」


 (え、手に穴が空いたのにほぼ無傷って、どんだけ他の試合は悲惨なんだよ。)


「あぁ、それより試合前に看守に私のことで問い詰められていただろう?あれは大丈夫であったのか?」


「ひゃい、あのとき看守が福様が浮いていたことや喋ったことに対しての答えを求めてきたので"神だから"と言っておきました。神というのは全てを持ち、与える者なのだと。」


 (おお、あの三下の一人がここまで敬虔な信徒になるとは……少し感動したぞ。)


「そうか、ご苦労だった。それで他の独房の者たちが見てくるのは?」


「はい、福様の試合での実力を見て皆気になっているようです。」


 (まあそういうことだろうな。それにしてもモニターで試合を見られるということは勝ち進んでいくごとに能力をどんどん知られていくということか。)


 つまり、できるだけ手の内を見せずに勝ち進んでいくのが重要だということだ。やっとこの闘技場の雰囲気やシステムがわかってきた。


 (一回戦や二回戦の試合は見ておく必要はないな。)


 なぜなら、最初のうちには強い奴はほとんど手の内を見せずに勝ち上がるからだ。逆にここで手の内を全部曝け出してしまう奴は俺の強敵になり得ない。


 (スキル使用の疲れはあまりないが、一応休んでおくか。)


 俺はこの闘技場に来て二度目の睡眠に落ちた。  


「あの〜福さん、二回戦が始まるので起きてください。」


 声は知っているのに聞き覚えのない口調に違和感を感じて起きた俺はその言葉の主を見て少し驚いた。それは最初の看守だったのだ。


 (勝ち進んだ者に対して言葉遣いが変わるとは、随分と現金なやつだな。)


 そう思いながらも俺は一回戦のときと同じ道を進んでいった。再び奥に光が見える通路を進んだ先には同じ審判と観客、そして新たな対戦相手がいた。


「どうぞ、よろしくですわ。神とやら。」


「こちらこそ、そういう君は何者かな?」


「わたくしはただの人間ですわ、ただの暗殺一家の長女。アンネでございます。」


「そうか。ではアンネ、お手柔らかに。」


 (そういえばこの世界に来て俺以外の名前を初めて聞いたな。)


 俺はこの世界で人の名前を聞いたのが初めてだったことに今気づいた。神をしていると願いを聞くばかりでこちらから何かを聞くということがないためだろう。長い間一緒にいる馭者の名前さえ、俺は知らないのだ。


 (この試合が終わったら名前を聞いておくか。)


 名前の件はさておき、今は試合に集中だ。暗殺一家ということは目に見えない攻撃や毒などを使ってくることが予想できる。どちらにせよ、初めて受けるタイプの攻撃だ、警戒は必要だ。


「両者、構えて。二回戦試合開始!」


 審判が宣言をし、試合が開始した。開始宣言後、アンネは棒立ちのまま微動だにしなかった。


「どうしたアンネ?降参する気にでもなったかな?」


 俺の言葉にも全く反応せずにいたが、十数秒経った後ゆっくりと歩き、俺との間合いを詰め出した。


 (なんだったんだ?)


 無言で棒立ちをするという一見無意味なことをするということはおそらくそれがスキルに関係する動きなのだろう。だが、今のところはどんなスキルか見当がつかない。


 (とりあえず"発砲"の準備を……!?)


 右手を銃の形にしようとしたが俺の手は微動だにしない。少し考えて俺は即座に理解した。


 (なるほど、そういうことか。)


 俺の顔を見て、勝ちを確信したのかアンネは近寄りながら語り出した。


「私のスキルは"不自由"、私が不自由から解放されたときに、その不自由を強いた相手にそのまま返すというものですわ。」


 (さっきの棒立ちは俺への緊張感が強いた、それで俺に不自由が返ってきたのか。)


「先ほどのわたくしの"不自由"は喋ることすらできないものでしたから、今のあなたも喋ることすらできませんわ。死人に口無し、いや、死ぬ前から口無しですわね。」


 そしてアンネは腰に差してあるダガーで俺の首元を切り裂こうとした。


「さようなら、赤ちゃん。」


 アンネが切り裂こうとした瞬間、俺は"飛翔"で上へ飛びダガーを躱した。


「え!?なんで動けるんですの!」


 まだアンネが棒立ちしていた時間分、時が経っていないのに、俺が動けたことに驚いているようだ。


 (なぜといえば"飛翔"は体の動きに関係なく動くことができるものだからだが……ここはブラフを立ててみるか。)


「なぜと問うか、無論その答えは一つである。そう、私が神だからだ。神に状態異常は効かない、よって君の"不自由"も効かないのだ。」


「な、なんですって!?そもそも神ってなんですの!独房部屋であなたの部下と看守が話していましたけれどあんな言葉信じられないわ!」


 (あんな言葉とはおそらくルカスの神に対する説明のことだな。)


「人の言葉は信じられなくとも、今君の目の前で起こったことは信じられるだろう?この私という存在が部下の言葉を物語っていることを。」


「そ、そんなのってないわ!そんなの勝てっこないじゃない……。」


「それが神だ。」


 "不自由"が解けた俺は手を銃の形にし、降参を促した。


「降参するならば、無傷で帰すがどうする?」


「も、もう一度よ!今脅されて動けなかった分の不自由をあなたに!スキル"不自由"発動よ!」


 そう言ってアンネは素早く距離を詰めてきた。そして、ダガーを両手に持ちながらジャンプをし今度は上から斬撃を繰り出してきた。


 (信仰、強化対象共に上之手福かみのてさき、スキル"信仰心"発動、強化内容"状態異常回復"。)


 スキルを発動し、新たな強化内容を試してみると今度は"不自由"の拘束感があまりなく、手を動かすくらいはできた。


 (さすがに全身自由に動けるほど俺のブラフを信じきってはいなかったか。"飛翔"を使ってもいいが、ここは"状態異常回復"を完全なものにするために"発砲"で向かい撃つ。)


 全身の中で唯一動かせる両手で"発砲"を発動し、ダガーの刃部分全体を覆うほどの黒玉を両手から放った。空中にいるアンネはそれをダガーで受けるしかなく、ダガーの刃を失った。アンネは着地した後、悲しそうに言った。


「ほんとに状態異常が効かないのね…いいわ、降参します。」


 (よし、この信仰具合なら"状態異常回復"を手に入れたことになってそうだな。)


「二回戦、勝者は上之手福!」


 俺は勝利と新たな強化内容を得て、ニ回戦を突破した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ