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強化付与


 都は高い壁に覆われ、外からは全く様子が見えなかった。そして、のっぺりとした壁の中に小さな門があった。そこまで行くと門番が馭者に話しかけてきた。


「旅人よ、お前はこのトガリ都に何をしに来た?」


 馭者はこの都の出身だが、顔を覚えられていないせいで旅人だと思われているらしい。


 (馭者よ、"力を証明するため"だ。)


「ひゃい、力を証明するためです。」


 ここでもし俺が喋ってしまったら赤ん坊が喋ったということで一気に騒ぎになってしまうだろう。そうなると面倒なため、俺は事前に馭者と"通話"をしておいた。ちなみにスキル使用時の光は荷台で布にくるまって隠している。


「ほう、貴様のような軟弱そうな者が力を証明か!おもしろい、ではここで少し力を見せてみろ。」


 門番の無理難題に、馭者の顔には不安が溢れている。


 (馭者よ、焦るでない。まずはどんなふうに力を証明すればよいかを聞くのだ。)


「ひゃい、ど、どんなふうに力を証明すればいいんだ?」


「口調は怯えているのに、態度は強気とは…少しおもしろいな貴様。では、あそこにある岩を破壊してみせろ。」


 そう言って門番が破壊を要求した岩は、直径五メートル程のものだった。よく見ると岩の所々が欠けていたり、穴が空いていたりしている。どうやらいつもこの岩を力試しに使っているらしい。この都に来た人にとっては文字通り、試金石しきんせきのようだ。


 (ひゃぁ……、あんな岩を破壊なんて俺には無理ですよぉ。)


 (落ち着くのだ、馭者よ。私が今から力を与える、合図を出したら岩に向かって拳を当てるのだ。)


 (わ、わかりましたぁ。)


 俺は一旦"通話"を切り、馭者の強化を始めた。


 (よく考えたら他人を強化するのは初だな。まあ元々このスキルの能力は他者の強化なんだし大丈夫か。信仰対象を上之手福かみのてさき、強化対象を馭者にスキル"信仰心"発動。)


 すると俺の中からは光だけが溢れ、馭者からは力が溢れているようだった。


 (そして、強化対象を上之手福としてスキル"信仰心"追加発動。)


 すると俺の中にも力が溢れ始めた。俺は"通話"と馭者の"破壊"を願い、馭者に合図を出した。


 (よし、馭者よ。拳を岩に当てるのだ。)


 (ほ、ほんとに大丈夫なんですかぁ……)


 すると門番が叫んだ。


「何をもたもたしている!さあ、お前の力を証明してみろ!」


「ひゃぁい、もうどうにでもなれぇ!壊れろぉお!」


 馭者はそう叫びながら岩に拳を勢いよく当てた。すると、岩は拳を当てた部分から粉々に崩れた。


「ほ、ほんとにできた……。」


「な、なんだと?ほんとに破壊しやがった……。」


 門番の驚きようも中々だったが、馭者自身の驚きは比にならないほどだった。そういえば、馭者は俺の建物の破壊を見ていなかったから、この破壊が新鮮だったのだろう。


 (ひゃぁ……やりました福様…やりました!あなたはほんとうに神なのですね!)

 

 (そうだ、ようやくわかったようだな。私は神なのだよ。)


 そう言って"通話"を切り、俺は内心安堵していた。


 (他者の強化が本来このスキルの能力だとわかってはいたが、いざやってみると緊張したな。)


 少し間をおいて、門番は再び口を開いた。


「お前さんならこの都でも良いところまで行けるかもしれん。通ってよし!……と言いたいところだが、一応馬車の荷物を確認させてくれ。」


 "通話"を切っている状態でそれを言われ馭者は焦っていた。だが、荷台を注視されている今"通話"をしてしまえば確実に光を見られるだろう。


「ひゃ、ど、どうぞ。」


 門番が荷台の中を見ると、俺と目があった。


「ほう、可愛い赤ん坊と食料が載っているだけだな。問題ない、ようこそ"最初の都"トガリ都へ。」


 そして、俺たちはついに都に入ることができた。


 中に入ると、そこは活気溢れるふつうの街という感じだった。人々は元気で、食べ物も豊富のようだ。加えて、スキルを使った様々な娯楽があるようだった。


 (電気マッサージ、温度調節風呂、飛行体験……etcいろんなものがあるな。)


 とても殺しありの闘技場があるような街だとは思えない。


 (今はとにかく、少し休むか。さすがに荷台での生活は疲れたしな。)


 そう思い、宿を探すことにした。俺の疲れもそうだが、馭者の方も精神が壊れる寸前のことだったからだ。最初はこの街に着いたら馭者は解放するつもりだったが、使い道が見つかったため、もう少し丁寧に扱うことにした。そして、周りに聞こえない程度の声で馭者と会話した。


「馭者よ、この街ではどのように宿に泊まるのだ?」


 俺はこの街がどのような仕組みなのか知らない。村の時のように助け合いで成り立っているのか、それとも物々交換や貨幣経済で成り立っているのか。


「ひゃい、硬貨で皆取り引きをしているであります。」


 (貨幣経済か…元の世界と同じでわかりやすいが、問題は俺が一銭も持っていないということだ。)


「君は硬貨を持っているのか?」


「いえ、俺たちの硬貨は全部兄貴が管理していたので…。」


 (そうだろうと思った、さてどうしたものか。)


 スキルを使っての小銭稼ぎは難しいだろう。赤ん坊のスキル商売なんて誰が信用するのだろうか。馭者を強化してやってもいいが、あいつは機転が効かないから商売には向かない。


 (いっそ、馭者に盗みでも……ってそれは神としてあり得ないな。)


 冗談を考えつつ、最悪の場合は馬車の中で過ごせばいいと考えていると馭者が喋った。


「ひゃ、福様、道中申し上げた通りこの都には闘技場があります。そして、参加者は闘技場での試合が終わるまで出ることができないため、闘技場には宿屋があるのです。もしもの場合はそこに行けばなんとかなるかと……。」


「ほう?馭者にしては中々いい案だな。それで闘技場はどこにあるのだ?」


「ひゃい、闘技場はこの都の門から一番遠い場所にあり、犯罪者や戦闘狂たちだらけで血生臭い雰囲気が漂った場所です。逆にここのような門から近い場所ならば比較的平和な雰囲気になっているんです。」


 (なるほど、それでここの雰囲気は想像と違ったんだな。それじゃあ、今から行くところが本物のトガリ都というわけだ。)


「なるほど、ちなみに君は闘技場に行ったことがあるのかね?」


「ひゃい、兄貴たちと観客として行ったことならあります。」


「それで、どうだった?」


「それはもう地獄でした。相手が死ぬか、降参するまで戦い続けるのですが、強い人は降参する隙も与えません。なので、殺戮ショーになっていることが多々ありました。ですが、一番おかしいのは観客です。観客は殺戮ショーを心の底から楽しんでいるのです。俺には到底耐えられない光景でした…。」


 (前々から思っていたが、こいつはやはりあのリーダーにさえついていなければ中々良い人物になっていたんだろうな。)


「そうか、私が参戦して勝てると思うか?」


「そ、それはもちろん!福様には到底及ばない連中の集まりでございます!ただ……」


「ただ?」


「都の長の方はよくわかりません。長と戦って帰ってきたものはいないと言われているらしいですが。」


 (うーん、まあとにかく行ってみなければわからないか。)


 俺たちは結局闘技場へ向かって歩みをすすめた。歩いていくと、馭者が言った通り闘技場に近づくほど空気が重くなっていくのを感じる。


 (人通りも少なくなっていっている、まるで都の活気が失われていくようだな。)


 しばらく歩みを進めるとある看板が建っていた。


 'ようこそ、トガリ都へ!皆さまの奮闘を心待ちにしております。'


 看板の先を少し進むとそこには例の闘技場と血生臭い空気、それと観客たちの喚声があった。

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