白金の王子 5.
フルールで、私の疑問が解消された翌日。
好奇心も満たされたので、満足だ。
あぁ、そういえば。
今日の朝、たまたまお父様に出会った。そしたら、得体の知れないものを見るような目で見られた。何故。
バレてはいない……と思うんだけど。バレてるのかな、フルールの件。リーリエさんたちは、口外しない、って言ってくれたんだけど。
大丈夫か。大丈夫じゃなくても、クライン家は隠蔽できるか。
まぁ、それは良いとして(よくはないかもしれないけど)。
私の推しについて一つ。
実は、このゲームでの、私の最推しはセルヴィスではない。
いや確かにセルヴィスは大好きなんだけど、最推し—―つまり大本命はセルヴィスではないのだ。
では、誰かというと。
セルヴィスよりも色が濃い、金色の髪。アクアマリン色の瞳は、宝石のように美しい。
そんな王子様のような容姿を持つ、グラスティア帝国ユリウス・ディライト辺境伯令息。彼こそ私の最推しである。
彼だけはヒロインちゃんに奪われたくない。絶対。
言っとくけど、面食いなわけじゃないからね!
ユリウス・ディライト。彼は、誰にも分け隔てなく接し、数多の女性を虜にしてきた。
だが、彼にとって、「身内」と「他人」は違う。完全に線を引いているのだ。特に、異性となれば。そして、家族さえも彼の「身内」でないこともある。
だがしかし。それが一転、彼にとって身内となれば。過保護となる。そう、過保護。嫉妬心が強い……というか。ヤンデレではないのだが。ただ、「甘やかされたい」という人には、ピッタリの攻略対象だった。
だが、ユリウスの攻略はとても難しい。それはもう難しい。
求められるレベルが高いのだ。だから、かなりハイスペックではなくてはならない。選択ひとつで、好感度が滅茶苦茶下がることあるし。いやまぁ、他の攻略対象が簡単って訳じゃないけど。
何すればいいのかわからない……というのが実情である、が。
ユリウスとヒロインが出会う、物語の舞台である貴族学院。ここに入学するのが最短ルートではないか。気付いてしまったのだ。
だとすれば話は早い。
—―勉強祭りのお時間だぁ!
ベルモア王国は、アルヴィアーレ王国、東方獣人王国、西方獣人王国、グラスティア帝国などの大国に囲まれている中堅国家だ。そんな国でも滅亡しなかった理由は、ひとえにベルモア王国は周辺諸国との強い結びつきがあるからである。
他の原因をあげるとすれば、獣人王国。元々一つであった国は、現在東西に分かれている。
東方獣人王国は、主に草食系の獣人、西方獣人王国は、主に肉食系の獣人が住んでいる。これだけ聞けば二国に分かれているのが不思議かもしれない。だって、肉食獣人の方が強いに決まっているから。
—―うん。正直私もそう思ったんだよ。けど誰も何も教えてくれなかったの。で、よーく考えてみたんだけど。
草食獣人→繁殖力が強い、結託力も強い、その代わり力は弱い、肉食獣人よりいろいろな動物がいる
肉食獣人→力は強いが数が少ない、別の種族同士の結託が弱い、種類もそこまでいない
ってことじゃないかなって。
つまり、草食獣人が数で勝っているから、肉食獣人は下手に手だしできないんだと思う。
ここの二国が長い間争っているから、大国筆頭のグラスティア帝国はベルモアを侵攻することができない。
ここまでが、ゲームに出ていた情報だ。え?何でこんな細かく覚えているかって?そりゃ、ユリウス様に勉強教えてもらったからだよ。えぇ、推しの言葉は一言一句、覚えておりますとも。……怖いとかいうな!泣くぞ!
あ、ちなみに。ユリウス様の母国であるグラスティア帝国。ベルモア王国とは、そこまで親交は深くないらしい。ベルモアと一番仲良しなのは、アルヴィアーレ何だとか。
結論。入学前にユリウス様に会うの、マジでむずい。
ヒロインがユリウス様を攻略するとき、私が先に会っていれば有利かなぁ、と思ったんだけど。こりゃチャンスあんまりないわ。学園に入って頑張るしかないなぁ。
さてまぁ、後日。
結果から言って、熱出しました。
いや、数日間一生懸命勉強してたら、元々の病弱具合が火を噴いた。
特にセルヴィスにすごい心配かけちゃってさぁ。すぐぶっ倒れるお姉ちゃんでごめんね。
「姉様、大丈夫ですか……?」
「うん、大丈夫~」
「……本当に?」
これまでのセルヴィアの記憶を辿れば、これぐらいの熱、どうってことない。
ただ、クライン家に来たばかりのセルヴィスにとっては、衝撃的なことだったのだろう。
「本当に心配しました……姉様、無理しないでくださいね……」
「分かってるて。そんな心配しないの!」
「だって姉様、ずっと本読んでるじゃないですか……」
うん。めっちゃ不安そうにしてる弟の傍で、ずっと本読んでるね。
「いや、こんなの普通だよ。本当に大丈夫だから。ねっ?セルヴィスは自分のやるべきこと、やっておいで」
「……わかりました」
私のかわいい弟は、不満そうな顔を浮かべながらも自分の部屋へ戻っていった。
ふふん、さすが私。ちゃんとお姉ちゃんやってるなぁ、寝込んでるけど。
謎に自分を褒めながら、私はすやすやと眠りに就こうとした——そのとき。
「奥様!ヴィオラ子爵令嬢がお越しになりました!」
——ん?ヴィオラ子爵令嬢?